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オピニオン DSM-5—私はこう思う
DSM-5は,なぜ気分障害を解体したのか—うつ病診断の妥当性と有用性をめぐって
著者: 黒木俊秀1
所属機関: 1九州大学大学院人間環境学研究院
ページ範囲:P.624 - P.627
文献購入ページに移動当初,病態生理学に基づく診断体系のパラダイム・シフトを目標に掲げたDSM-51)(2013)の開発は,結局のところ,マイナー・チェンジにとどまった感があり,精神科診断の改革推進派と保守派の双方から批判を受けやすい。とはいえ,その開発のプロセス自体は,DSM-Ⅲ(1980)以降の30年間余に,現代精神医学が集積してきた膨大なデータを—その問題点や矛盾も含めて—統合しようとした壮大な試みであったことは間違いない。したがって,DSM-5自体の完成度や問題点を批評するよりも,そのプロセスに注目するほうが有意義ではないだろうか。実際,DSM-5には,開発段階において一度は採用が検討されつつも,最終的に断念された精神疾患の新たな診断分類体系に向けた数々の意匠が,なお暗示的に組み込まれている。DS-Ⅳ-TR(2000)の「気分障害」が解体され,「双極性障害および関連障害群」と「抑うつ障害群」に分離し,マニュアルにおいて,それぞれ独立した章構成となったのも,その1つである6)。個々の疾患の診断基準の些細な改訂よりも,このことが大きな意味を持っている。
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