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文献詳細

雑誌文献

精神医学57巻8号

2015年08月発行

文献概要

オピニオン DSM-5—私はこう思う

DSM-5は,なぜ気分障害を解体したのか—うつ病診断の妥当性と有用性をめぐって

著者: 黒木俊秀1

所属機関: 1九州大学大学院人間環境学研究院

ページ範囲:P.624 - P.627

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はじめに
 当初,病態生理学に基づく診断体系のパラダイム・シフトを目標に掲げたDSM-51)(2013)の開発は,結局のところ,マイナー・チェンジにとどまった感があり,精神科診断の改革推進派と保守派の双方から批判を受けやすい。とはいえ,その開発のプロセス自体は,DSM-Ⅲ(1980)以降の30年間余に,現代精神医学が集積してきた膨大なデータを—その問題点や矛盾も含めて—統合しようとした壮大な試みであったことは間違いない。したがって,DSM-5自体の完成度や問題点を批評するよりも,そのプロセスに注目するほうが有意義ではないだろうか。実際,DSM-5には,開発段階において一度は採用が検討されつつも,最終的に断念された精神疾患の新たな診断分類体系に向けた数々の意匠が,なお暗示的に組み込まれている。DS-Ⅳ-TR(2000)の「気分障害」が解体され,「双極性障害および関連障害群」と「抑うつ障害群」に分離し,マニュアルにおいて,それぞれ独立した章構成となったのも,その1つである6)。個々の疾患の診断基準の些細な改訂よりも,このことが大きな意味を持っている。

参考文献

1) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition. American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013
2) Andrews G, Goldberg DP, Krueger RF, et al:Exploring the feasibility of a meta-structure for DSM-V and ICD-11:Could it improve utility and validity? Psychol Med 39:1993-2000, 2009
3) First MB, Pincus HA, Levine JB, et al:Clinical utility as a criterion for revising psychiatric diagnoses. Am J Psychiatry 161:946-954, 2004
4) Frances A:Saving Normal:An Insider's Revolt against Out-of-Control Psychiatric Diagnosis, DSM-5, Big Pharma, and the Medicalization of Ordinary Life. Harper Collins, New York, 2013(大野裕監訳,青木創訳:〈正常〉を救え—精神医学を混乱させるDSM-5への警告.講談社,2013)
5) Kendell R, Jablensky A:Distinguishing between the validity and utility of psychiatric diagnoses. Am J Psychiatry 160:4-12, 2003
6) 黒木俊秀,神庭重信:シリーズ総論 DSM-5時代の精神科診断.神庭重信,神尾陽子編:DSM-5を読み解く1—神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連.中山書店,pp1-22, 2014
7) 本村啓介,神庭重信:抑うつ性障害—DSM-5の動向と批判.臨床精神医学 41:565-575, 2012
8) Regier DA, Narrow WE, Kuhl EA, et al:The conceptual development of DSM-V. Am J Psychiatry 166:645-650, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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