icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学58巻2号

2016年02月発行

文献概要

特集 妊娠・出産・育児とメンタルヘルスケア

周産期におけるリエゾン活動—対象となる精神疾患と今後のあり方について

著者: 竹内崇1

所属機関: 1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野

ページ範囲:P.141 - P.148

文献購入ページに移動
はじめに
 周産期における精神科的な問題については,妊娠前から精神疾患に罹患している場合と,妊娠中もしくは出産後に新たに精神疾患を発症する場合の大きく2つに分類される。前者は精神疾患合併妊娠として,妊娠前からの精神症状のコントロール,適正な薬物療法,周産期特有の精神症状の変化への対応,また,養育機能の評価や養育支援などを進めていくための多職種による連携が求められる。後者は産後うつ病への対応が中心となるが,妊娠期から精神症状を呈することが少なくないため,産科スタッフによる早期発見,早期支援により,速やかな精神科医療につなぐためのシステムが必要とされている。
 精神疾患合併妊娠には,気分障害,神経症性障害,統合失調症が一般に多くみられるが,それぞれの疾患の特性,個々の重症度,さらには,中心となる治療薬も異なるため,疾患ごとの評価や対策を要する。妊娠後の発症の精神科的な問題に関しては,特に産褥期に顕在化してくることが多く,マタニティブルーズ,うつ病,産褥精神病などに大別されている。重症度や頻度からは,うつ病が最も重要視され,自殺予防対策が課題となると考えられる。なお,これら精神疾患に対する治療は,多くは外来での精神療法や薬物療法を継続するが,希死念慮が切迫している場合や幻覚妄想状態では入院を検討することになる。
 昨今の産科医の積極的な活動により,妊娠期からのメンタルヘルスへの関心の高まりがあり,産科スタッフによる妊産婦への早期介入の動きがみられ始めている。ただ,東京都内では,一部の総合病院精神科に依頼が集中している状況があり,いくつかの病院からは,緊急性を要する症例だけでなく精神科治療を必要としない症例まで含まれており,対応に苦慮しているという声も上がってきている。
 このような背景のもと,本稿では,周産期の各時期におけるリエゾン活動について症例を提示しながら概括し,続いて現在のリエゾン活動の課題と今後のあり方を東京都の精神科診療所・精神科病院,分娩取扱施設を対象としたアンケート調査をもとに,国内外の情報も交えつつ論じる。
 なお,症例については,患者本人に承諾を得た上で,匿名性を保持するために論旨に影響しない範囲において細部に若干の変更を加えた。

参考文献

1) Azorin JM, Angst J, Gamma A, et al:Identifying features of bipolarity in patients with first-episode postpartum depression:Findings from the international BRIDGE study. J Affect Disord 136:710-715, 2012
2) 菊池紗耶,小林奈津子,本多奈美,他:周産期に新たに生じる精神科的問題への介入—精神科医に求められる役割.総合病院精神医学 7:212-218, 2015
3) Lancaster CA, Gold KJ, Flynn HA, et al:Risk factors for depressive symptoms during pregnancy:A systematic review. Am J Obste Gynacol 202:5-14, 2010
4) Milgrom J, Gemmill A, Bilszta JL, et al:Antenatal risk factors for postnatal depression:A large prospective study. J Affect Disord 108:147-157, 2008
5) National Institute for Health and Clinical Excellence:Antenatal and postnatal mental health:Clinical management and service guidance. Aldan Press, London, 2007
6) 岡野禎治:妊娠・出産と精神科臨床.精神科治療学 28:545-551, 2013
7) Robertson E, Grace S, Wallington T, et al:Antenatal risk factors for postpartum depression:A synthesis of recent literature. Gen Hosp Psychiatry 26:289-295, 2004
8) Scottish Intercollegiate Guidelines Network:SIGN 127・Management of perinatal mood disorders. Healthcare Improvement Scotland, Marth, 2012(http://www.sign.ac.uk/pdf/sign127.pdf)
9) 清野仁美,湖海正尋,松永寿人:産婦人科病棟での治療介入.精神科治療学 28:617-623, 2013
10) 須田史朗:妊娠/産科入院を機にメンタル不調を呈した人への支援.精神科治療学 28:701-706, 2013
11) 鈴木俊治,竹内崇,神谷直樹,他:東京都の精神疾患合併妊婦取扱に関する実態調査結果.周産期医学 45:1802-1806, 2015

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?