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雑誌目次

雑誌文献

精神医学58巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

巻頭言

新専門医制度下における精神科研修医教育—精神科医に求められる感性をどう身につけるか

著者: 鷲塚伸介

ページ範囲:P.196 - P.197

 2017年度より専門医制度が大きく変わることは,すでに多くの方がご存じのことであろう。従来日本精神神経学会が行ってきた,研修プログラムや研修施設の評価と認定,精神科専門医の認定を,来年度から第三者機関である日本専門医機構が行うことになる。これは精神科を含む基本18診療科すべてにわたっての改革であり,現在その準備が急ピッチで進められている。新たな研修制度では,研修の中核的役割を果たす「専門研修基幹施設」とそれと関連した「専門研修連携施設」とで,「研修施設群」を作り,研修はこの「研修施設群」単位で行われる。「研修施設群」は「研修プログラム」を策定し,精神科専門医を目指す「専攻医」がその内容を見較べて,自身にとって魅力的と思えるものを選び,実際の研修を開始することになる1)
 「専門研修プログラム整備基準」2)では,専門研修の目標として,以下の5点を挙げている。すなわち,①患者や家族の苦悩を受け止める感性と共感する能力を有し,その問題点と病態を把握し,治療を含めた対策を立てることができる。②患者・家族をはじめ多くの職種の人々とのコミュニケーション能力を有し専門性を発揮し協働することができる。③根拠に基づき,適切で,説明のできる医療を行うことができる。④臨床場面における困難に対し,自主的・積極的な態度で解決にあたり,患者から学ぶという謙虚な姿勢を備えている。⑤高い倫理性を備えている。そしてこれらの実現のために修得すべき知識・技能・態度などが細かく定められているのだが,ここではその詳細は省く。

研究と報告

精神障害者の家族ピア教育プログラム(家族による家族学習会)が家族のエンパワメントに与える効果—プログラム実施者と受講者の効果の比較

著者: 二宮史織 ,   中村由嘉子 ,   蔭山正子 ,   横山恵子 ,   桶谷肇 ,   小林清香 ,   大島巌

ページ範囲:P.199 - P.207

抄録
 家族学習会は,精神障害を持つ方の家族が実施および受講する構造化された家族ピア教育プログラムである。本研究では,家族学習会が家族のエンパワメントの向上に与える影響の検討,およびプログラム実施者と受講者の効果の比較を目的とし,プログラム受講家族147名,実施家族89名を対象に調査を実施した。本研究の結果,家族学習会はプログラム実施家族,受講家族,双方のエンパワメントを向上させること,プログラム実施者には「援助する人が最も援助を受ける」というヘルパーセラピー原則に則った効果が期待できることが確認できた。家族学習会は,家族が持つ力を,ピア教育という形で発揮できる重要なプログラムの1つであると考えられる。

統合失調症患者の機能的予後に関連するWAIS-Ⅲの指標について

著者: 菊池章 ,   鈴木志欧也

ページ範囲:P.209 - P.217

抄録
 統合失調症患者の認知機能と機能的予後との関係を調べるために,急性期病棟に入院した統合失調症患者75人のWAIS-Ⅲの結果と平均4.8年後の適応状態を調査・分析した。WAIS-Ⅲの平均的特徴として,言語性IQに比べて動作性IQが低下しており,4つの群指数の中では処理速度の低下が目立った。処理速度,符号などの評価点と機能的予後との間に相関関係が認められたが,符号の補助問題である視写の評価点と機能的予後との間に最も高い有意な相関関係(r=0.348,p<0.01)が認められ,視写の評価点が高いほど機能的予後が良好であった。統合失調症においては,単純な事務処理能力の速さと正確さが将来の社会適応に最も強く関係する可能性があると考えられた。

短報

血液透析導入後に気分障害を発症し電気けいれん療法(ECT)を施行した1例

著者: 大賀健市 ,   栗田茂顕 ,   増田正幸 ,   大盛航 ,   板垣圭 ,   中村元信 ,   橋本賢 ,   森脇克行 ,   竹林実

ページ範囲:P.219 - P.223

抄録
 血液透析患者に電気けいれん療法(ECT)を施行した報告例は本邦ではない。症例は60歳台女性。透析導入後より抑うつ状態を呈し,薬物抵抗性で亜昏迷状態となり,透析にも拒否的となったためECTを導入した。Nicardipineで血圧管理を行い,非脱分極性筋弛緩薬の使用で安全にECTを施行できた。血清K値に変化を認めなかったため,脱分極性筋弛緩薬によるECTも可能であった。慎重に術中管理を行えば,透析患者においてもECTは治療選択肢となり得ると考えられた。

ECTによりカタトニアが改善した13歳の自閉スペクトラム症患者の1例

著者: 池田伸 ,   御牧信義 ,   大重耕三 ,   牧野和紀 ,   来住由樹

ページ範囲:P.225 - P.229

抄録
 自閉スペクトラム症(ASD)患者の思春期以降において,動作緩慢や繰り返し行動などが顕著となり,カタトニアを呈する例のあることが知られている。近年ではautistic catatoniaあるいはcatatonia-like deteriorationとも呼ばれ,薬物治療や電気けいれん療法による改善が期待できる病態として認知度が高まりつつある。一方で本邦において,こうした事例に対し電気けいれん療法を行った報告はきわめて少ない。我々は,13歳で重症のカタトニアを呈したASD患者に修正型電気けいれん療法を施行し著明な改善が得られた事例を経験したので報告する。

措置入院となったWilson病による器質性精神障害の1例

著者: 黒岩小百合 ,   佐々木央我 ,   原田久 ,   野口美和 ,   橋本知明 ,   山口登

ページ範囲:P.231 - P.234

抄録
 粗暴行為により措置入院となったWilson病(Wilson's disease;WD)による器質性精神障害の1例を報告した。症例は,10歳でWDと診断された25歳男性。隣人への粗暴行為で2回目の措置入院となり,後方移送で当院へ転院した。他交流少なく自閉的で,広汎性発達障害の併存も疑った。ウェクスラー成人知能検査では言語性/動作性知能指数の乖離を認めたが,発達歴や他の心理検査で発達障害を示唆する質的特徴はなかった。攻撃性は,環境因やWDの行動障害が影響したと考えられた。薬物療法と心理的介入により,本人と家族への疾病理解が深まり,衝動性が抑えられ,退院することができた。

資料

精神科新規入院者における入院長期化のリスク要因—精神科救急入院患者レジストリを用いた分析

著者: 杉山直也 ,   野田寿恵 ,   澤野文彦

ページ範囲:P.235 - P.244

抄録
 重度かつ慢性患者の臨床特徴と入院長期化リスク要因を明らかにするため,当院の救急入院患者レジストリを用いて分析した。2011〜2013年度の入院者(n=1,114)を対象とし,残留率を指標に全国値(精神保健福祉資料)と比較したところ,精神科救急入院料病棟での集中的ケアによる早期退院効果が確認された。対象を1年以内に退院した1,041名と1年超の59名に分けて2群間比較したところ,長期在院群でF2診断,罹病期間,措置入院,単身,高症状スコア,他害歴,近隣トラブル,住居問題,家族との関係悪化,抗精神病薬の大幅増,などが有意に多かった。今後の入院長期化防止や地域ケア体制構築に役立つ見識となる可能性がある。

紹介

代償的認知トレーニング(Compensatory Cognitive Training; CCT)日本語版の紹介

著者: 松井三枝 ,   大塚貞男

ページ範囲:P.245 - P.253

はじめに
 統合失調症における認知機能障害は,陽性症状や陰性症状とともに中核症状の1つであると考えられており,注意,記憶,遂行機能など広範な領域にわたって認められる2,6,8,11)。薬物療法の進歩によって陽性症状の改善はかなりの程度認められるようになったが,患者の社会参加の促進は大きな課題として残っている。そうした社会参加における困難には,陽性症状や陰性症状よりも認知機能障害が強く関連し,認知機能はその後の就労や日常生活における自立を含めた機能的転帰を予測するということが報告されてきている7,15)。したがって,認知機能の改善は患者の機能的転帰にポジティヴな効果を及ぼすことが期待される。そのような背景から,認知機能に直接介入する心理社会的アプローチとして,認知機能改善療法の開発が進められている22)。認知機能改善療法は,「効果の持続と般化を伴った,認知過程(注意,記憶,遂行機能,社会的認知ないしメタ認知)の改善を目指す行動的トレーニングに基づいた介入」21)と定義される。心理教育,社会的技能訓練および認知行動療法などを含む心理社会的アプローチ全体の中では,認知機能改善療法はより基本的な神経心理学観点からも捉えられる認知機能そのものの改善に着目したより基礎的なアプローチといえる。欧米では,数多くの技法ないしプログラムが開発されてきており,プログラムごとに効果研究が進められるとともに,メタ分析によって治療効果が検証されてきており,認知機能の改善効果が示されている14,21)。近年,わが国でもいくつかのプログラム4,10)が開発および翻訳されてきており,今後の発展が期待される。
 統合失調症への認知機能改善療法プログラムの1つとして,カリフォルニア大学のTwamleyらが開発した代償的認知トレーニング(Compensatory Cognitive Training;CCT)があり,その有効性はランダム化比較試験によって繰り返し確認されている12,17,18)。CCTは認知機能改善療法の中では,より実践可能性に重きを置き,ブリーフに行え,コンピューターを使用せず,少数グループで実施可能な代償的方略を重視したアプローチである。筆者らは,原著者の許可を得てCCT日本語版を作成した。本稿では,CCTの概要と,CCT日本語版のプログラムについて紹介する。

メタ認知トレーニング日本語版(MCT-J)満足度調査票の開発

著者: 細野正人 ,   石川亮太郎 ,   石垣琢麿 ,   後藤薫 ,   越晴香 ,   森元隆文 ,   則包和也 ,   森美栄子 ,   森重さとり

ページ範囲:P.255 - P.258

抄録
 メタ認知トレーニング日本語版(the Japanese version of Metacognitive Training;MCT-J)は統合失調症陽性症状への心理的介入技法である。MCT-J参加への満足度を測定する尺度を開発するため,本研究では12項目の満足度調査票を作成し,統計的検討を行った。その結果,この尺度が1因子構造であり,統計的信頼性も高いことが示された。また,満足度と抑うつとの間に負の相関が認められた。この尺度はMCT-Jの有効性検討に役立つだけでなく,実施者(トレーナー)の訓練や実践上の工夫にも役立つと考えられた。

私のカルテから

プロラクチノーマを併存したうつ病患者の治療経験—うつ症状と高プロラクチン血症に対するaripiprazoleの効果

著者: 山岡宣行 ,   長嶺敬彦 ,   高橋俊文 ,   中村研 ,   米澤治文 ,   森隆徳 ,   寺園崇

ページ範囲:P.259 - P.262

はじめに
 プロラクチノーマは最も頻度が高い下垂体腫瘍である。プロラクチノーマは良性腫瘍であるが,プロラクチンの上昇を来し,ときにさまざまな精神症状を認める8,9)。精神症状として多いのは,うつ病,不安障害である7)。プロラクチノーマを有する患者のうつ状態に,aripiprazoleが抑うつと高プロラクチン血症の改善に有効であった症例を経験したので報告する。
 なお,症例報告に関しては,患者のプライバシーを考慮し,匿名性に十分に配慮した。

正義感を伴う強い怒りを呈した双極性障害の2症例

著者: 大野京介

ページ範囲:P.263 - P.265

はじめに
 躁状態時には生気感情の亢進により感情,思考,意欲・行動面および身体面に症状が現れる9)。その結果,躁病者は自我が肥大し全能感に溢れ,自己を高く,強く,正しく肯定的に評価する。倫理観が向上した場合は,他者に対して道徳を,自己中心的な価値判断によって唱えたりする5)。躁性の状態で周囲の者や,公の規則としばしば衝突を起こす道徳狂なるものの存在も指摘されている4)。今回,易怒的な言動の背景に,正義感の主張を認めた躁状態の症例を検討したので報告する。なお本稿での正義とは,社会生活における公正・正当の原理のことであり10),正義感とは公正の反対である不正を憎み,人の道にかなっていて正しいことを尊ぶ気持ちとして用いる。また,症例の特定性を避けるため,趣旨を妨げない範囲で一部を改変した。

動き

「The 9th International Congress of the Asian Society Against Dementia」印象記

著者: 上村直人

ページ範囲:P.266 - P.267

 第9回International Congress of the Asian Society Against Dementiaが,2015年9月14〜16の3日間,熊本大学神経精神医学分野:神経精神科の池田学会長のもと,KKRホテル熊本で開催された。本学会はアジア諸国の認知症に関する学術的な国際会議と位置付けられており,インド,タイ,インドネシアをはじめとする東南アジア諸国,台湾,香港,中国,韓国などアジア全般が参加対象で,日本での開催が初めてであった。発表は一部の市民対象公開講座を除きすべて英語で,一般演題は68演題(口頭15演題,ポスター53題)であった。シンポジウムは15,プレナリーレクチャーが5つの構成で,ランチョンセミナーも行われた。
 大会初日はオープニングセレモニーとして大会長の熊本大学精神医学教授,池田学先生の挨拶の他,厚生労働省の塩崎恭久大臣が来賓として最初に登壇し,日本で初めて開催された本大会の意義と厚生労働省の新オレンジプランの紹介などを含めた記念講演が行われた。その際に熊本大学が県と協力して構築している熊本モデルの重要性と,認知症対策として高齢化が類も見ないスピードで迫っている日本の認知症対策と,これからのアジアの牽引役として国を挙げて役立ちたいことを述べられた。また,熊本大学学長,熊本県知事,本学会の理事長である本間昭先生の講演を含むオープニングセレモニーから学会が始まるという大変格式の高いものであった。

書評

—小椋 力 著—沖縄の精神医療

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.268 - P.268

 沖縄は日本人の良心を問うている。それが本土復帰直前とその後の若干でも沖縄の精神医療を垣間見た評者の実感である。
 著者は戦禍が残り,本土復帰後の社会変動の激しい中で誕生した琉球大学医学部の精神科初代教授として赴任し,沖縄の精神医療の改善向上に尽力し,退任後の今もそれを続けている人である。

学会告知板

第22,23回集団認知行動療法研究会基礎研修会

ページ範囲:P.229 - P.229

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.207 - P.207

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.269 - P.269

次号予告

ページ範囲:P.270 - P.270

編集後記

著者:

ページ範囲:P.274 - P.274

 臨床の貴重な経験に基づく珠玉の論文,臨床指標の検討のための緻密な研究論文,貴重な資料など実に多彩な論文を掲載することができ,ご執筆の先生方に厚く御礼申し上げたい。
 巻頭言では,精神科専門医制度に関連して「患者や家族の苦悩を受け止める感性と共感する能力」の涵養について詳述いただいた。この感性と共感能力に基づいた精神科医療改革の推進もまた喫緊の課題である。改正された精神保健福祉法ではわが国が批准した国連の障害者権利条約に照らして,障害者の権利擁護の仕組みが十分でなく,さらなる改正が急務であり,また,障害者の品位を傷つける取扱いからの自由を保障するための個々の精神科病院の改革も必須である。しかし,個々の精神科病院の在院日数や残留率などの情報開示さえほとんどなされていない現状の中で,後方支援病院などに移送せず,自院で完結した医療を実践している一精神科病院の精神科救急入院病棟(患者:医師比が16:1)の1年時点の残留率が6.6%であると報告されたことは注目される。直近の精神保健福祉資料によれば,患者:医師比がほぼ48:1の診療体制での,1年の残留率はこの倍である。16:1の一般科並みの医療や多職種の関与の重要性が示唆されていると言える。さらに,1年越え症例の薬剤情報では,入院時すでに抗精神病薬が3剤以上で,クロールプロマジン換算で1,200mg以上であることが指摘されている。1年越えを防止するためには,ドーパミン受容体過感受性精神病の状態にある症例が相当数含まれていると予想されるので,クロザピン療法も含めた集中的な精神科急性期治療を実践できる高規格の医療施設の整備がなされる必要がある。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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