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はじめに
躁状態時には生気感情の亢進により感情,思考,意欲・行動面および身体面に症状が現れる9)。その結果,躁病者は自我が肥大し全能感に溢れ,自己を高く,強く,正しく肯定的に評価する。倫理観が向上した場合は,他者に対して道徳を,自己中心的な価値判断によって唱えたりする5)。躁性の状態で周囲の者や,公の規則としばしば衝突を起こす道徳狂なるものの存在も指摘されている4)。今回,易怒的な言動の背景に,正義感の主張を認めた躁状態の症例を検討したので報告する。なお本稿での正義とは,社会生活における公正・正当の原理のことであり10),正義感とは公正の反対である不正を憎み,人の道にかなっていて正しいことを尊ぶ気持ちとして用いる。また,症例の特定性を避けるため,趣旨を妨げない範囲で一部を改変した。
躁状態時には生気感情の亢進により感情,思考,意欲・行動面および身体面に症状が現れる9)。その結果,躁病者は自我が肥大し全能感に溢れ,自己を高く,強く,正しく肯定的に評価する。倫理観が向上した場合は,他者に対して道徳を,自己中心的な価値判断によって唱えたりする5)。躁性の状態で周囲の者や,公の規則としばしば衝突を起こす道徳狂なるものの存在も指摘されている4)。今回,易怒的な言動の背景に,正義感の主張を認めた躁状態の症例を検討したので報告する。なお本稿での正義とは,社会生活における公正・正当の原理のことであり10),正義感とは公正の反対である不正を憎み,人の道にかなっていて正しいことを尊ぶ気持ちとして用いる。また,症例の特定性を避けるため,趣旨を妨げない範囲で一部を改変した。
参考文献
1) 春日武彦:問題は,躁なんです 正常と異常のあいだ.光文社新書,2008
2) 加藤忠史:双極性障害—躁うつ病への対処と治療.ちくま書房,2011
3) 切替辰哉:精神医学的性格学.金原出版,1985
4) Kraepelin E:PSYCHIATRIE Ein Lehrbuch für Studierende und Ärzte ACHTEN AUFLAGE, Johann Ambrosius Barth, Leipzig, 1913(西丸四方,西丸甫夫訳:精神医学2 躁うつ病とてんかん.みすず書房,2007)
5) Kraus A:SOZIALVERHALTEN UND PSYCHOSE MANISCH-DEPRESSIVER Eine existenz-und rollenanalytische Untersuchung, Ferdinand Enke Verlag, Stuttgart, 1977(岡本進訳:アルフレート・クラウス 躁うつ病と対人行動 実存分析と役割分析.みすず書房,2001)
6) 大森哲郎編:専門医のための精神科臨床リュミエール6双極性障害.中山書店,2008
7) 大野京介:躁状態の経過中に好訴性の症状を呈した双極性障害の2症例.精神医学55:293-295,2013
8) 内海健:双極Ⅱ型障害という病 改訂版うつ病新時代.勉誠出版,2013
9) 渡辺昌佑,江原嵩:躁病の診断と治療.新興医学出版,1986
10) 山崎正一,市川浩編:現代哲学事典.講談社,1988
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