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雑誌目次

論文

精神医学58巻4号

2016年04月発行

雑誌目次

展望

florbetapir(18F)によるアミロイドPETのアルツハイマー型認知症の診断における有用性—アミロイドイメージングの臨床応用への可能性

著者: 中村智実 ,   松本桂奈 ,   植田要 ,   丹治由佳 ,   並木千尋

ページ範囲:P.277 - P.287

はじめに
 認知症は神経変性疾患や脳血管障害などさまざまな疾患が原因となるが,アルツハイマー病(AD)を原因とするアルツハイマー型認知症の割合が最も高い1,4)。ADは発症や進行が緩徐であり,記憶障害をはじめとする認知機能の障害に気付いた時点ではすでに脳神経細胞の変性が進んだ状態であるといわれている。ADにおける脳の病理学的変化は,認知機能障害が発現する数十年前から始まっているという報告もあり5,17,18),バイオマーカーの使用により早期にそれらの変化をとらえることが可能となった。最近では,米国の国立老化研究所(National Institute on Aging;NIA)とアルツハイマー病協会(Alzheimer's Association;AA)(NIA-AA)がADの臨床診断基準の改訂を行い,従来の臨床症状に加えて,ADの病理学的変化の指標として陽電子放出断層撮影法(Positoron Emission Tomography;PET)によるアミロイドイメージングなどのバイオマーカーによる評価を含めた診断基準を公表している2,29,31)。すでに欧米では複数のアミロイドPET用診断薬が承認されているが,わが国でも2014年7月にアミロイドイメージング用のトレーサーであるflorbetapir(18F)の合成装置であるNEPTIS plug-01®が承認された。今後,アミロイドイメージングは,臨床場面での認知症の診断や,ADの疾患修飾薬の臨床開発において応用されることが期待されている。
 本稿では,アミロイドイメージングの臨床的意義,脳内アミロイドベータ(Aβ)凝集体を可視化するflorbetapir(18F)によるアミロイドPETの有用性および臨床試験成績について解説する。

研究と報告

精神科身体疾患合併症病棟に入院したがんを合併する精神疾患患者に関する検討

著者: 新井久稔 ,   山本賢司 ,   井上勝夫 ,   丸香奈恵 ,   塚原敦子 ,   宮岡等

ページ範囲:P.289 - P.296

抄録
 精神症状のコントロールや身体的治療目的で相模台病院精神科身体合併症病棟へ入院したがん患者50例の臨床的特徴に関して後方視的な調査を行った。
 がんの臓器別分類では消化器・肝胆膵のがんが多かったこと,入院後にがんの診断がついた患者が全体の約4割近くを占め,その中には進行がんで転移や他臓器などへの浸潤から手術適応がない症例がみられたこと,精神症状のためにがんの告知や本人の理解や同意を得るのが難しいケースもあり,工夫が必要な症例が存在したこと,転帰では死亡が36%存在していたこと,などが明らかになった。これらの結果から,精神疾患患者ががんに罹患した場合の臨床における具体的な問題点に関して考察を行った。

Rey複雑図形模写課題における遂行機能障害の簡易評価尺度—どのような遂行機能を反映しているのか

著者: 川口源水 ,   剣持龍介 ,   佐藤卓也 ,   今村徹

ページ範囲:P.297 - P.305

抄録
 背景:先行研究で我々は,認知症患者のRey-Osterrieth Complex Figure(ROCF)模写課題における遂行機能障害を評価する簡易尺度を作成し,その妥当性を検討した。その結果,この簡易尺度の下位項目および合計得点とFrontal Assessment Battery(FAB)の得点との間に有意な関係が得られた。しかし,この簡易尺度の各項目が遂行機能のどのような要素と関係するかは検討されていなかった。目的:この簡易尺度の各項目と遂行機能の種々の要素を評価する課題の成績との関係を分析する。対象:数唱,Mini-Mental State Examination(MMSE),Alzheimer's Disease Assessment Scale(ADAS),FABおよびROCF模写課題を施行したアルツハイマー病患者で,MMSE得点が15点以上かつ25点以下の113例。方法:この簡易尺度に含まれる,効率的な模写順序のための方略を評価する2項目および体系的な模写遂行のために必要なROCFの骨格要素の抽出を評価する3項目を検討対象とした。項目ごとの評定を従属変数とし,MMSE得点および教育年数を共変量,数唱(順唱,逆唱)の桁数,ADASの下位項目のうちの構成,観念行為の成績,FABの下位項目のうちの概念形成,流暢性,運動系列,葛藤指示,Go-no-goの成績のいずれかを独立変数とするlogistic重回帰分析を施行した。結果:模写時方略の項目はFABの葛藤指示,Go-no-goと,骨格要素の抽出の項目はFABの運動系列,葛藤指示,Go-no-goと,それぞれ関係していることが示された。結論:各評価項目は反応抑制課題の成績と関係していた。反応抑制が障害されると,ROCF模写における視覚認知過程で自動的に群化されたまとまりのうち,模写方略に不適切なものが抑制できないために,①適切な方略が採用されない可能性,および,②模写の遂行中,抑制できなかった不適切なまとまりに引きずられて方略が変更されてしまう可能性が考えられる。

資料

パチンコ・パチスロ遊技障害尺度の作成および信頼性・妥当性の検討

著者: 秋山久美子 ,   祥雲暁代 ,   坂元章 ,   河本泰信 ,   佐藤拓 ,   西村直之 ,   篠原菊紀 ,   石田仁 ,   牧野暢男

ページ範囲:P.307 - P.316

抄録
 パチンコ・パチスロへの依存(パチンコ・パチスロ遊技障害)を測定するための尺度を作成し,その信頼性・妥当性を検討した。予備調査を経て選別した27項目について,1年以内にパチンコ経験のある者522名を対象に調査を行った。信頼性は,内的一貫性(α=.95)などの検討により高い信頼性が確認された。妥当性については,精神科医と研究者による項目作成により内容的妥当性が確保されたほか,3因子(動機・行動・結果)の理論モデルの適合や,SOGSなど他のギャンブル依存尺度との相関(r=.57〜.79)などが確認された。社会的望ましさとは負の相関が示され(r=-.33),SOGSに関する先行研究との一致がみられた。

ADHD-RS評価スケールの日本版標準化に向けて

著者: 田中康雄 ,   市川宏伸 ,   小野和哉

ページ範囲:P.317 - P.326

抄録
 DuPaul GJらが開発した,ADHDのスクリーニング,診断,治療成績の評価に使用可能なスケールであるADHD Rating Scale-Ⅳにはすでに邦訳書があり,標準スコアシートも掲載されている。しかし,我々が今回実施した全国調査の結果について,家庭版および学校版の男女の不注意,多動性・衝動性,合計スコアの平均値を,DuPaulらのそれらと1サンプルのt検定により比較を行ったところ,家庭版,学校版の男女の年齢層において,家庭版の女児の不注意において,5〜7歳,8〜10歳で有意差がないという結果以外,我々の数値で低い(p<.001)という有意差が認められた。そこで内部一貫性,信頼性を検証した上で,日本版のスコアシートを作成した。この評価スケールが今後適切に使用され,多くの子どもたちと親,そして関係者にとって益ある結果に結びつけられることを願っている。

「精神医学」への手紙

中部アフリカ・ガボン共和国の精神科医療

著者: 丸谷俊之 ,   西尾彰泰

ページ範囲:P.327 - P.329

 筆者らはこの度,独立行政法人国際協力機構(JICA)より青年海外協力隊として,ガボン共和国唯一の精神科病院である国立メレン精神衛生センター(Centre Nationale de Santé Mentale de Melen,以下メレン精神科病院と記す)に精神科ソーシャルワーカーとして派遣されていた鐙景子氏の知己を得て,現地を視察する機会を得たのでここに報告する。
 ガボンは中部アフリカに位置し,面積は日本の7割ほどで,国土の大部分は手つかずの原生林が広がり,人口159万人,その4割が15歳未満である。85%が都市住民で,識字率86%,6〜14歳の就学率96.5%と教育レベルは高い。石油,マンガン,森林資源が経済の三本柱で,実質的にガボン民主党の一党独裁であるが,政情不安や内戦を抱える周辺国に比べ明らかに社会状勢が安定している。CNAMGS(Caisse Nationale d'Assurance Maladie et de Garantie Sociale;健康保険・社会保障公庫)という国の健康保険制度があるが,精神科医療に費やされるのは,国の全保健医療予算の1%に過ぎず,精神科医は4名しかいない。そのうち1名は軍病院に勤務し,1名はプライベートクリニックのオーナーでCNAMGSに勤務し,メレン精神科病院にかかわるのは2名のみである。うち1名は元院長のMbungu医師だが,今は保健省による国の精神保健計画(WHOも関与している)のディレクターの仕事が主であり,もう1名は定年間近であまりやる気はなく,病院のストライキに乗っかっていた。つまり,メレン精神科病院において臨床活動に十分従事できる精神科医は1人もいないのであった。

動き

精神医学関連学会の最近の活動—国内学会関連(31)(第1回)

著者: 「精神医学」編集委員会

ページ範囲:P.331 - P.352

 本欄「精神医学関連学会の最近の活動」は,1987年に当時日本学術会議の会員であった島薗安雄先生の発案により掲載がスタートいたしました。当時の学術会議には精神医学研究連絡委員会が設置され,そこで取り上げられた重要課題が学術会議から提言されることがありました。島薗先生は,そのような背景から学会間のコミュニケーションが重要であると認識され,この企画がスタートいたしました。以来,掲載は継続し,今回で第31回となりました。この間,本企画は島薗安雄先生,大熊輝雄先生,高橋清久先生,樋口輝彦先生と代々の学術会議会員の先生に監修をお願いして参りました。
 日本学術会議は第20期(2006年)から大きく変わり,会員は会員推薦となり関連学会の代表者による構成ではなくなりました。研究連絡委員会も廃止されました。本欄の当初の意義は薄れましたが,関連学会間の連携や学会のあるべき姿の議論は今も重要です。掲載スタート時の序文において島薗先生は「専門領域の細分化による視野の矮小化を防ぎ,ひいては精神医学の健全な発展に資したい」と述べておられます。本誌編集委員会は,以上の認識から本欄の継続を決定し現在に至っています。
 本欄が精神医学関連学会の連携,相互理解の一助となれば幸いです。

書評

—松本雅彦 著—日本の精神医学 この五〇年

著者: 高柳功

ページ範囲:P.330 - P.330

 本書は畏友松本雅彦先生の遺著である。著者と評者は同年生まれ,精神病理学と精神科医療の歴史という面ではほぼ同時代を生きてきた。一時期「臨床精神病理」誌の編集に一緒に携わったが,松本先生の学風は衒がなく中庸,かつ誠実であった。成書の読み込みも深く,さすが京都学派といつも感じていた人である。
 本書は全七章から成っている。第一章から第五章までは,精神科医としての自己形成が自伝的に描かれている。インターン制度への問題意識,精神医学を選ぶに至った動機など誠実な語り口で述べられている。自らを「斜に構える」生き方への嗜好があるという性格は,案外精神病理学者に通底する傾向ではないか,と評者も同感する。入局後の無給医の暮らしと大学での研修というか,丁稚奉公のありさまは名門の京都大学も,信大のような田舎の大学も全く同じであった。

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.296 - P.296

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.354 - P.354

次号予告

ページ範囲:P.356 - P.356

編集後記

著者:

ページ範囲:P.360 - P.360

 ここしばらく編集委員の数が減ったため,編集後記がまわってくる順番が早くなってしまった。掲載されている論文をもとに書くのであるが,さすが年に2回のペースになると記すこともマンネリ気味になってしまう。しかし,本号も多彩な論文が並びどれも教えられる。ただ,諸事情により「巻頭言」を掲載できなかったのが残念である。「巻頭言」を楽しみにしているという読者の声を耳にしているので,ここでお詫び申し上げたい。
 さて本号では,「展望」としてアミロイドイメージングのアルツハイマー型認知症診断における有用性が,また「研究と報告」「資料」として遂行機能障害の簡易評価尺度,ADHD-RS評価スケール,パチンコ・パチスロ遊技障害尺度が載っているが,記述的な臨床論文やナラティヴなものがなくて面白味がないという感想もあるかと思われる。最近の編集同人へのアンケートでも,EBM重視で評価尺度や数値,図表や生物学的知見ばかりでは「読んでいてつまらない」という意見が寄せられている。投稿論文の掲載を主としている本誌としては時として偏ってしまうのはやむを得ないが,できるだけ「オピニオン」や「特集」でそうした声にも応えられるようにしていきたいと思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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