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雑誌目次

論文

精神医学58巻5号

2016年05月発行

雑誌目次

巻頭言

純粋精神医学の旗手を目指す

著者: 古茶大樹

ページ範囲:P.362 - P.363

 2016年1月1日付で,聖マリアンナ医科大学の講座を担当することとなった。
 昨年の指定医問題ではたいへんなご迷惑をおかけしたことと思う。私は当事者ではないが,講座担当者としてあらためてお詫び申し上げたい。そして指定医問題を受けて大勢の退局者が出るという未曾有の事態に,温かい援助の手を差し伸べていただいた北辰病院,奈良県立医科大学,さわ病院の先生方にまずは心からのお礼を申し上げたい。

特集 成人の自閉スペクトラム症とライフステージの課題

特集にあたって

著者: 広沢正孝

ページ範囲:P.365 - P.365

 成人の自閉スペクトラム症(以下,ASD)が,本邦における(成人の)精神医学領域で注目され始めてから,すでに20年以上が経過した。近年では,成人のASDをめぐる幾多の企画が,医学関連雑誌などで組まれ,さまざまな臨床知見が集積されてきた。もはや成人のASDは,精神医学における「新たなトピックス」とまでは言い切れなくなっているのではなかろうか。
 しかし残念なことに,成人のASDをめぐる知見は,いまだ個々の実践経験やケースの域を出ず,これらを体系化できるような臨床実践理論(精神医学的問題,社会生活上の課題,治療や支援の具体策)の構築までには至っていない。その要因として,彼らの個体差(性差,年齢差)に加え,生育史の多様性,彼らの(成人としての)生活環境の幅広さを挙げることができよう。多様性や幅広さの面では,定型発達者にも匹敵するほどである。

子ども時代に診断されたASD者の成人像—医師の立場から

著者: 市川宏伸

ページ範囲:P.367 - P.373

はじめに
 児童分裂病とされる群から,Kanner Lによって自閉症とされる症例が取り出されたのは1943年であった。現在の知的障害を伴う自閉症とされる例が中心であった。その翌年には,Asperger Hによって,自閉性精神病質が報告され,現在の知的障害を伴わない自閉症に近い症例が報告されていた。前者を中心に,自閉症の親が着目されて,その後の自閉症概念は広がりをみせ,精神分析的考え方から,その後の〝心因論〟につながったと考えられる。「自閉症児の親とそうでない親の子育てには,大きな違いはない」と言う報告をして,心因論を医学的に否定したのはRutter Mらであった4,5)。1970年代になり,自閉性精神病質も自閉症スペクトラムの一角であると考えたのは,Wing Lらであった。多くの精神疾患が,著名な研究者らの独自の概念で語られ,普遍性が乏しかった診断概念に対して作られたのが国際的診断であった。診断基準は客観的な数値に基づくものではなく,あらかじめ決められた診断基準を満たすか否かで決められている(操作的診断基準)。
 日本国内で使用されている国際的な診断分類は2つある。WHOによる国際疾病分類(International Classification of Diseases;ICD)のFコードと米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;DSM)である。1992年に公表されたICD-10の中で初めて広汎性発達障害,アスペルガー症候群,広汎性発達障害他に分類できないもの,が登場した。1994年にDSM-Ⅳが公表され,広汎性発達障害,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害などが公表された。以来19年ぶりに,2013年5月にDSM-5(第5改訂版)が公表され,2014年6月に日本語版が発売された。この中で,広汎性発達障害は自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders;ASD)とほぼ同じ概念に変わり,下位分類はなくなり,該当項目を特定することになった。診断基準項目の内容も組み換えが行われ,感覚の特別性が新たに追加された。DSM-5が発売されても,ICD-10は使用されており,ICD-11が公刊されるまでは,2つの異なる診断基準が並行して使用されると思われる。
 ICDについては,2016年に1992年以来の改訂が行われ,第11版(ICD-11)が公表される予定である。日本語版が発売されるまでにまだ数年必要と思われるが,その内容はDSM-5に近づくと推測されている。この10〜20年の間で診断基準の変更はあったが,歴史的経過では「自閉性障害」,「アスペルガー障害」,「特定不能の広汎性発達障害」,「自閉スペクトラム症」などと診断された群を念頭に成人像を考えてみる。

成人期の相談を振り返って見えてくる支援課題—子ども時代に診断されたASDの人の事例から

著者: 池谷彩

ページ範囲:P.375 - P.382

はじめに
 東京都発達障害者支援センター(以下,トスカ)は発達障害者支援法に位置付けられた専門機関であり,発達障害のある本人やその家族への相談支援,医療・教育・福祉・労働・行政機関などの他機関との連絡・連携,コンサルテーション,普及啓発・研修を主な業務としている。自閉症児者への療育実践に半世紀携わってきた社会福祉法人嬉泉が東京都から本センター事業を受託して丸13年が経つ。トスカではすべてのライフステージに関わる相談に対応しているが,2014年度相談実数は2,735人(延べ3,652人)中,その半数が20〜30歳台の青年・成人期の相談である。また相談対象者の多くが知的障害を伴わず,未受診の人も6割に上る。19歳以上の場合,就労している人(非正規雇用も含む)は40%と最も多いが,在宅で行き場がない人も24%いる。トスカではこれらの相談事例のうち,学校卒業後,就労を希望しながらも実際の就労に至らず,行き場もなく,家庭へのひきこもりが長期化する中で,家庭内暴力や触法行為に至るなど,社会から孤立しがちな成人期の自閉スペクトラム症(ASD)の人の実態にも触れてきた。そしてこのような相談実態から発した試行事業も行ってきた5,6)
 このようなトスカの成人期の相談では,過去,現在,未来における自己の捉え,環境や関係性のミスマッチから生じる社会生活上の課題などが複雑に絡み合い,相談内容も実に多様となる。それは殊に外から本人の内面が捉えにくく理解されづらいASDの場合顕著である3)。そして,中には早期に診断や支援を受けていても,成人期になって「問題」となって露呈してくる状況があり,子ども時代に診断を受けたことがそのまま安心・安定と同義とならないこともある。
 本論では,テーマに沿って早期に診断を受けた成人期の事例を取り上げる。トスカでは本人や周囲の人が生活の中で何らかの困る状況が生じた段階で関わることになるが,その相談からは一定の共通する支援課題が見えてくる。相談機関である性質上,特定の事例を提示できないため,早期に診断を受けた成人期の事例として多い内容を組み合わせ,架空の事例として紹介する。その際,支援課題がより鮮明になるよう,トスカが実施した先の試行事業での取り組みも事例に含めて記載する。

自閉スペクトラム症の青年期—大学における男性例の支援を中心に

著者: 本田秀夫 ,   小田佳代子 ,   篠田直子

ページ範囲:P.383 - P.390

はじめに
 自閉スペクトラム症(以下,ASD)の人たちは,思春期から青年期にかけて多彩な生活上の困難を示す。学童期までは周囲と自分との関係に気付かず,傍若無人な態度をとっていることが多い。しかし,思春期・青年期に入ると,周囲と自分との関係に気付きはじめる。性格的には真面目さが急激に前面に出てくる。
 青年期のASDの人たちは,ASDの特性の有無だけでなく,育った環境によってもパーソナリティ形成が大きく影響を受ける5)。学童期までに診断され,本人の特性に応じた支援が適切になされていれば,この時期に自分の特性をある程度自覚し,得意なところに自信を持ちつつ苦手なことへの対処を学ぶ意欲を持つことが可能である(特性特異的教育タイプ)。ところが,本人の発達特性について周囲が気付かないままにいると,場当たり的な対応をされることが多いため,不安と他者への猜疑心が高まり,他罰的,攻撃的になり,うつ,不安,強迫,被害念慮,攻撃性など,さまざまな精神症状を併発することがある(放任タイプ)。逆に,本人の発達特性に対して周囲が訓練などで克服させようとするあまり負担の大きい課題を強要し続けると,思春期・青年期に周囲と自分との違いに気付いたときに急激に自己評価が下がる。それに伴い,うつや不安症状を呈する(過剰訓練タイプ)。学校の成績のよい場合などは,勉強さえしていれば将来何とかなるのではないかと本人も周囲も錯覚し,社会に出ていくときに最低限必要なスキルを学びそこねたままで学歴だけが高くなり,かえって卒後の適応が難しくなることがある(自主性過尊重タイプ)。
 特性特異的教育タイプの育ち方をしている人であっても,ASDの特性は残存するため,青年期の社会生活のさまざまな場面で何らかの配慮を要することがある。放任タイプや過剰訓練タイプの育ち方をした人たちは,青年期までに何らかの二次障害を併存することが多いため,ASDの特性に対する配慮に加えて精神医学的な治療や支援を要する。自主性過尊重タイプの育ち方をした人たちは,二次障害はまだ出現していなくとも,大学入学後は親の保護から離れ,自律的な判断を多く求められるようになるため,この段階でASD特性による生活困難が一気に露呈する。
 本稿では,青年期におけるASDの人たちへの支援の実際を,特に男性例を中心に,大学における発達障害学生支援を例にとりながら紹介する。

成人期に診断されたASD者とその後(男性事例)

著者: 阿部隆明

ページ範囲:P.391 - P.398

はじめに
 児童期の軽症例への着目に始まった自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)概念であるが,最近では成人の症例にも関心が集まるようになった。DSM-54)でも,その診断基準が明示されたが,成人ではASD症状そのものを主訴に受診することは少なく,むしろ気分障害や不安障害などのポピュラーな精神症状が前景に出ていることが多い。忙しい臨床現場では,こうした表層的な症状への対応に追われ,その背景にASDがあっても見逃されていることがしばしばである。症状が遷延する,あるいは繰り返すことで,ようやくその可能性が考慮されているのが実情であろう。たしかに,児童期の詳細な情報によって正確なASD診断が導かれるわけだが,その聴取が難しい成人で確定診断することは難しく,いきおい適切な支援までには手が届かない。とはいえ,その行動特性からASDが疑われる症例に対して,ASDへの標準的な対応をすると職場や家庭での適応が良くなるケースは少なくない。以下では,成人例におけるASD症状の出現様式,ならびにASDに合併する代表的な精神症状を解説し,症例を挙げながら,その適切な支援についても触れてみたい。

中年期の自閉スペクトラム症者

著者: 広沢正孝

ページ範囲:P.399 - P.406

はじめに
 成人の自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;ASD)者は,高機能であればある程,それと同定されぬまま社会で生活していることが少なくない。その多くは,「生きにくさ」,「生活のしづらさ」を感じながらも,大きな破綻に直面せずに,社会生活を送っているものと思われる。しかし彼らの中にも,中年期に至って社会生活に「行き詰まり」,適応障害や種々の身体,精神症状を呈して精神科を受診してくる者がいる。やはり中年期は,ASD者にとって生活しにくいライフステージなのであろう。それはおそらく,成人のASD者の持つ自己-世界感およびそれに基づいた精神行動特性と,周囲から期待される社会習慣との間に生じる齟齬が,この時期にいっそう顕著になることによるものと思われる。
 本稿では,中年期を生きるASD者の課題を,心理・社会的側面,精神病理学的側面から述べてみたい。

初老期の自閉スペクトラム症者

著者: 村上伸治 ,   高橋優 ,   和迩健太 ,   北村直也 ,   澤原光彦 ,   青木省三

ページ範囲:P.407 - P.414

はじめに
 成人の自閉スペクトラム症(ASD)を考える際には,対象を2つに分けて考えるのが良い。1つは,児童期からASDであることに気付かれ,障害児として育ち成人している例であり,その大半は主治医などの支援者を児童期から持っている。もう1つは,ASDであることに気付かれないまま児童期を過ぎ去り,青年期以降に何らかの症状を呈して精神科を受診するなどして,初めてASDの存在に気付かれたり,疑われるようになった例である。
 昔から発達障害に対応していた児童精神科臨床の場ではなく,一般精神科臨床において,近年,発達障害の問題が言われるようになったのは,上記の前者ではなく,後者の存在が注目されるようになったためである1)
 児童期から診断を受けて,現在初老期になっている例は,半世紀近く前の時代に診断されているのであるから,当時はASDの概念はあるはずもなく,診断としては古典的な自閉症の人であろう。そこで本稿では,青年期以降にASDが疑われるようになる例を主な対象として,初老期のASD者の問題を考えてみたい。なお,本稿記載の症例については,かなりの改変などを行っており,多数の事例を元にした一般的事例ないし架空の事例とみなされるものである。

女性の自閉スペクトラム症例とそのライフステージの課題

著者: 広沢郁子

ページ範囲:P.415 - P.422

はじめに
 女性のAutism Spectrum Disorder(以下,ASD)は,かつては男性の4〜5分の1で,しかも男性よりも重篤となる傾向があり1),いわゆる高機能の成人例は稀である15)といわれていた。しかし,1990年代になると複数の疫学調査によって,自閉症7)やアスペルガー症候群3)の男女比が見直され,女性のASDもそれほど少なくないことが分かってきた(男性の2〜3分の1)。また女性のASD者の特徴として,子どもの頃はむしろ自閉症状が軽症に見えやすいこと8),一方で学童期ともなると,たとえ軽症にみえるASD女児の場合でも,集団内で不適応を起こしやすいことも指摘されるようになった8)
 成人の臨床現場では,女性のASD例に出会う機会は増加している。しかも彼女らは,男性例とはどこか異なった印象を治療者にもたらす。おそらくそれは生物学的な女性性と,社会的な女性性とが相まって作り出される印象なのであろうが,それがいかなるものなのか,具体的な記載は少ない。そこで本稿では,成人の彼女たちが各ライフステージで出会う女性ならではの発達課題に注目して,成人ASD女性の臨床特徴を綴ってみたい。

自閉スペクトラム症は現代社会でなぜ析出されるようになったのか—精神障害の社会・文化的許容閾値との関連で

著者: 市橋秀夫

ページ範囲:P.423 - P.430

はじめに
 自閉スペクトラム症(ASD)の出現頻度は本質的に時代の影響を受けないはずであるが,どの医療機関でも発達障害者の受診が増えているという。その理由は2つあると思われる。
 第1に1990年代後半から広まった発達障害の啓蒙活動である2)。それまで仕事ができない,人間関係が築けない,人の話が理解できないのは,自分に問題があるためだと思い込んできたのが,「発達障害のためではないか」と自ら疑い始めた。残念ながら啓蒙活動は精神科医ではなく,一般市民や当事者による外国書物の紹介から始まった。成人精神医学を専門とする精神科医が大多数を占めるわが国では,発達障害の知識はほとんどなかったからである。さらに児童精神科医はわが国では少なくて,これまで発信力も乏しく,成人になると関与しなくなること,児童精神科医と成人精神科医との学術的な交流も乏しかったという背景があった。そのため成人の発達障害の対応は大幅に遅れた。
 第2に発達障害の受診者が生きづらい時代に入ったのではないかという実感が治療に当たって感じるようになった。その生きづらさはどのようなものであるのかを明らかにすることが本稿の目的である。
 このように増加する発達障害に対して私たちはまだ十分な医療,社会的受け皿,行政,福祉などの用意ができていない。発達障害の本質は生きにくさにある。それは社会・文化的文脈で理解していかなければならないことを意味する。

研究と報告

福島県被災住民に対する架電型電話支援の試み—福島県「県民健康調査」

著者: 柏﨑佑哉 ,   前田正治 ,   八木亜紀子 ,   藤井千太 ,   髙橋紀子 ,   矢部博興 ,   安村誠司 ,   阿部正文

ページ範囲:P.433 - P.442

抄録
 東日本大震災による複合的災害で多大な影響を受けた福島県において,国が指定した避難区域などに居住していた約21万人に対し,質問紙調査および調査回答者に対する支援を実施した。本研究では,特に一般(15歳以上)対象者に対して行った架電型電話支援の結果から,その有効性と課題について論じた。電話支援の結果,就労世代,県外居住者,常勤就労者,精神疾患の既往がある者などのリスクが高いことが明らかとなった。時間および地理的な制限を受けにくい電話での支援は,被災者が広域に散在した今般の災害においてきわめて有効に機能した一方,眼前不在性による相談機能には限界があるため,地域機関といかに連携を図るかが重要であると考えられた。

短報

大うつ病性障害を併存した身体症状症にduloxetineが著効した1例

著者: 岸野恵 ,   向井馨一郎 ,   清野仁美 ,   松永寿人

ページ範囲:P.443 - P.446

抄録
 8年間にわたりめまい,ふらつき,動悸,四肢のしびれ,頭重感,全身倦怠感,胃部不快感,手の震えなどの多彩な身体症状を呈した63歳女性の身体症状症の治療経過を報告した。症状悪化に関する不安を持続的に抱き,症状改善を求めて多数の医療機関を受診しDSM-5の身体症状症の診断基準を満たしていた。また,患者は抑うつ気分を呈していたが,一般にうつ病性障害の身体症状は気分エピソードが存在する期間に限られるが,本症例は身体症状が抑うつ気分に先行していたため,身体症状から2次的に大うつ病性障害を合併したと考えた。Duloxetineの投与,疾病教育を行うことで身体症状の改善を認めた。薬物療法が確立していない身体症状症にduloxetineの有用性が示唆された。

私のカルテから

嗜癖に着目することで治療が進展した過食性障害とアルコール使用障害の合併例

著者: 星野直美 ,   根本清貴 ,   神崇慶 ,   新井哲明 ,   朝田隆

ページ範囲:P.447 - P.449

はじめに
 DSM-51)において過食性障害(Binge-eating disorder;BED)が正式に採用された。DSM-5の診断基準では,BEDは必須項目に「一定の時間内に通常より多量の食事を摂食する」「自制できない感覚」を挙げ,その他に「通常よりずっと早く食べる」「苦しいくらい満腹になるまで食べる」「空腹でなくても大量に食べる」「多く食べていることを恥ずかしく感じるために1人で食べる」「後に自己嫌悪,抑うつ気分,強い罪責感を抱く」のうち3つ以上を満たすこと,過食に関して明らかな苦痛が存在すること,過食は平均して3か月間にわたり少なくとも週1回以上認めること,としている。また神経性大食症と比較すると,body imageの障害やそれに伴う不適切な代償行為がないとされている。今回,我々はBEDとアルコール使用障害の合併例で,嗜癖に着目することで治療が進展した症例を経験したので報告する。

書評

—原田誠一 編集主幹,松﨑博光 編——〈外来精神科診療シリーズ〉—メンタルクリニック運営の実際—設立と経営,おもてなしの工夫

著者: 松下正明

ページ範囲:P.432 - P.432

 評者はかつて,クレペリンにせよヤスパースにせよ従来の精神医学は精神病院に入院している患者を基礎に築かれてきたが,これからは外来診療を主とした精神医学が構築されるべきで,その内容は随分と変わってくるだろう,極端な言い方をすれば,疾患概念自体,あるいは疾患名も一変するのではないかと,述べたことがある。将来は,精神科医療は外来診療中心の時代となるという脈絡の中での発言であった。
 このたび,本書を含めて,「外来精神科診療シリーズ,全10冊」が刊行されることになり,いよいよ時期到来かと内心喜んだものであるが,予想通り,シリーズが刊行されてまだ半ばではあるが,すでにしてメンタルクリニックを中核とした精神科外来診療の時代の出現を予感させる出来栄えである。

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.382 - P.382

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.451 - P.451

次号予告

ページ範囲:P.452 - P.452

編集後記

著者:

ページ範囲:P.456 - P.456

 本号の特集は「成人の自閉スペクトラム症とライフステージの課題」です。冒頭の企画説明において広沢氏が述べているように,疾患を抱える中で「個体差(性差,年齢差)に加え,生育史の多様性,彼らの(成人としての)生活環境の幅広さ」が慢性疾患の生涯経過を多様にしています。これを踏まえて各著者の症例経験を中心にそうしたさまざまな視点を通してその多様性が論じられており,読み応えがあり広沢氏が目指した「臨床実践理論」の域に近づいたと感じられました。
 近年,各精神疾患の発症前から発症後までの20年,30年という単位での仔細な生涯経過の実態が明らかにされつつあります。疾患の基本的病態を基盤に,胎生期からはじまりその後のライフステージの中で,さまざまな生物学的,心理的,環境的,文化的な影響(ポジティブな影響もネガティブな影響も含め)を受けながら,おそらく基本的病態も変化しながら疾患は経過していくと思われます。したがって,慢性に経過する疾患に関する臨床実践理論を構築することは容易ではなく,ともすると個性ということで真実の探究が放棄されることもあります。しかし,医学や医療には“個性”から普遍化できるものを抽出して,将来の患者に役立てることが求められます。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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