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特集 成人の自閉スペクトラム症とライフステージの課題
成人期の相談を振り返って見えてくる支援課題—子ども時代に診断されたASDの人の事例から
著者: 池谷彩12
所属機関: 1社会福祉法人嬉泉東京都発達障害者支援センター 2(現)世田谷区発達障害相談・療育センター
ページ範囲:P.375 - P.382
文献購入ページに移動東京都発達障害者支援センター(以下,トスカ)は発達障害者支援法に位置付けられた専門機関であり,発達障害のある本人やその家族への相談支援,医療・教育・福祉・労働・行政機関などの他機関との連絡・連携,コンサルテーション,普及啓発・研修を主な業務としている。自閉症児者への療育実践に半世紀携わってきた社会福祉法人嬉泉が東京都から本センター事業を受託して丸13年が経つ。トスカではすべてのライフステージに関わる相談に対応しているが,2014年度相談実数は2,735人(延べ3,652人)中,その半数が20〜30歳台の青年・成人期の相談である。また相談対象者の多くが知的障害を伴わず,未受診の人も6割に上る。19歳以上の場合,就労している人(非正規雇用も含む)は40%と最も多いが,在宅で行き場がない人も24%いる。トスカではこれらの相談事例のうち,学校卒業後,就労を希望しながらも実際の就労に至らず,行き場もなく,家庭へのひきこもりが長期化する中で,家庭内暴力や触法行為に至るなど,社会から孤立しがちな成人期の自閉スペクトラム症(ASD)の人の実態にも触れてきた。そしてこのような相談実態から発した試行事業も行ってきた5,6)。
このようなトスカの成人期の相談では,過去,現在,未来における自己の捉え,環境や関係性のミスマッチから生じる社会生活上の課題などが複雑に絡み合い,相談内容も実に多様となる。それは殊に外から本人の内面が捉えにくく理解されづらいASDの場合顕著である3)。そして,中には早期に診断や支援を受けていても,成人期になって「問題」となって露呈してくる状況があり,子ども時代に診断を受けたことがそのまま安心・安定と同義とならないこともある。
本論では,テーマに沿って早期に診断を受けた成人期の事例を取り上げる。トスカでは本人や周囲の人が生活の中で何らかの困る状況が生じた段階で関わることになるが,その相談からは一定の共通する支援課題が見えてくる。相談機関である性質上,特定の事例を提示できないため,早期に診断を受けた成人期の事例として多い内容を組み合わせ,架空の事例として紹介する。その際,支援課題がより鮮明になるよう,トスカが実施した先の試行事業での取り組みも事例に含めて記載する。
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