icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学58巻5号

2016年05月発行

文献概要

特集 成人の自閉スペクトラム症とライフステージの課題

自閉スペクトラム症の青年期—大学における男性例の支援を中心に

著者: 本田秀夫1 小田佳代子1 篠田直子2

所属機関: 1信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 2信州大学学生相談センター障害学生支援室

ページ範囲:P.383 - P.390

文献購入ページに移動
はじめに
 自閉スペクトラム症(以下,ASD)の人たちは,思春期から青年期にかけて多彩な生活上の困難を示す。学童期までは周囲と自分との関係に気付かず,傍若無人な態度をとっていることが多い。しかし,思春期・青年期に入ると,周囲と自分との関係に気付きはじめる。性格的には真面目さが急激に前面に出てくる。
 青年期のASDの人たちは,ASDの特性の有無だけでなく,育った環境によってもパーソナリティ形成が大きく影響を受ける5)。学童期までに診断され,本人の特性に応じた支援が適切になされていれば,この時期に自分の特性をある程度自覚し,得意なところに自信を持ちつつ苦手なことへの対処を学ぶ意欲を持つことが可能である(特性特異的教育タイプ)。ところが,本人の発達特性について周囲が気付かないままにいると,場当たり的な対応をされることが多いため,不安と他者への猜疑心が高まり,他罰的,攻撃的になり,うつ,不安,強迫,被害念慮,攻撃性など,さまざまな精神症状を併発することがある(放任タイプ)。逆に,本人の発達特性に対して周囲が訓練などで克服させようとするあまり負担の大きい課題を強要し続けると,思春期・青年期に周囲と自分との違いに気付いたときに急激に自己評価が下がる。それに伴い,うつや不安症状を呈する(過剰訓練タイプ)。学校の成績のよい場合などは,勉強さえしていれば将来何とかなるのではないかと本人も周囲も錯覚し,社会に出ていくときに最低限必要なスキルを学びそこねたままで学歴だけが高くなり,かえって卒後の適応が難しくなることがある(自主性過尊重タイプ)。
 特性特異的教育タイプの育ち方をしている人であっても,ASDの特性は残存するため,青年期の社会生活のさまざまな場面で何らかの配慮を要することがある。放任タイプや過剰訓練タイプの育ち方をした人たちは,青年期までに何らかの二次障害を併存することが多いため,ASDの特性に対する配慮に加えて精神医学的な治療や支援を要する。自主性過尊重タイプの育ち方をした人たちは,二次障害はまだ出現していなくとも,大学入学後は親の保護から離れ,自律的な判断を多く求められるようになるため,この段階でASD特性による生活困難が一気に露呈する。
 本稿では,青年期におけるASDの人たちへの支援の実際を,特に男性例を中心に,大学における発達障害学生支援を例にとりながら紹介する。

参考文献

1) 独立行政法人日本学生支援機構:教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成26年度改訂版).pp179-212, 2015
2) 独立行政法人日本学生支援機構:平成26年度(2014年度)大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書.2015
3) 本田秀夫:自閉症スペクトラムと妄想.鹿島晴雄,古城慶子他編:妄想の臨床.新興医学出版社,pp208-219, 2013
4) 本田秀夫:発達障害のある高校・大学の生徒・学生が抱える問題.Asp heart:広汎性発達障害の明日のために 12:16-21, 2014
5) 本田秀夫:思春期・青年期の発達障害の人たちへの医療支援—特有の性格変化および併発する精神症状への対応.萩原拓編著:発達障害のある子の自立に向けた支援—小・中学生の時期に,本当に必要な支援とは? 金子書房,pp108-112, 2015
6) 石井正博,篠田晴男,篠田直子:大学生における自閉性スペクトラム障害傾向と職業決定との関連—情動知能を介した検討.自閉症スペクトラム研究 13(1):5-12, 2015
7) 松瀬留美子:自閉症スペクトラム特性が背景にあり統合失調症を発症した大学生の初期心理面接.学生相談研究 35:97-106, 2014
8) 三浦淳,布施泰子,苗村育郎,他:大学における休・退学,留年学生に関する調査第35報(平成24年度集計報告).平成26年度第36回全国大学メンタルヘルス研究会報告書.pp26-31, 2015
9) 森光晃子,高橋知音,鷲塚伸介,他:アスペルガー障害のある学生の自立的課題解決を育てる包括的支援.精神療法 37:178-183, 2011
10) 村山光子:発達障害のある大学生の入学直後の困難と支援.高橋知音編著:発達障害のある人の大学進学.金子書房,pp104-118, 2014
11) 小川浩,柴田珠里,松尾江奈:高機能広汎性発達障害者の職業的自立に向けての支援.LD研究 15:312-318, 2006
12) 小田佳代子,高橋知音,山﨑勇,他:質問紙を用いた発達障害関連支援ニーズと精神的健康度との関連の検討.CAMPUS HEALTH 42:210-215, 2011
13) 崎濱盛三:アスペルガー症候群における自殺.精神科治療学 19:1101-1107, 2004
14) 清水馨,渡辺慶一郎:大学生と自殺.児童青年精神医学とその近接領域 56:148-158, 2015
15) 高橋知音:発達障害のある大学生のキャンパスライフサポートブック—大学・本人・家族にできること.学研教育出版,2012
16) 高橋知音,高橋美保:発達障害のある大学生への「合理的配慮」とは何か—エビデンスに基づいた配慮を実現するために.教育心理学年報 54:227-235, 2015

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?