文献詳細
文献概要
特集 精神科臨床にみる家庭・家族の現在—何が変わり何が変わらないのか?
家庭の変容
著者: 富澤治1
所属機関: 1とみさわクリニック
ページ範囲:P.745 - P.751
文献購入ページに移動はじめに
筆者が高校生の頃(1970年代後半),近所である祭りの時,好きだった女子生徒を誘おうと電話をかけようとして,逡巡してなかなか電話できなかったことをよく覚えている。
当時どこにもあった「黒い電話」の前に座り,意を決して電話すると向こうのお母さんが出て,女子生徒に変わり,筆者は「お祭りに来ないか」と誘い,祭りの当日他の友達と一緒に彼女は家に来たのだった。と思うが,実はその思い出はあまりなく黒電話の前で逡巡していた記憶のほうが鮮明に残っている。
あの時黒電話の向こうには「彼女の家庭」が「彼女の家族」が筆者の前に立ちはだかっていた。あの頃,いつか人間が1人ずつ自分用の電話を持つなど全く想像もできなかった。しかしそれから15年ほどして筆者は自分の携帯電話を初めて買ったのであった。
和辻哲郎5)は『風土』の中で,日本の家族や家庭に関してきわめて本質的な特徴を指摘している。それは家族間の「距てなき結合」ということである。
伝統的な価値の中で存在していた家庭や家族(関係)は今,変わったのか,変わったとすれば何故そうなったのか,それが現代の日本の精神科治療,心理療法にとってどのような影響を及ぼすのか,ということを本稿では検討してみたい。
筆者が高校生の頃(1970年代後半),近所である祭りの時,好きだった女子生徒を誘おうと電話をかけようとして,逡巡してなかなか電話できなかったことをよく覚えている。
当時どこにもあった「黒い電話」の前に座り,意を決して電話すると向こうのお母さんが出て,女子生徒に変わり,筆者は「お祭りに来ないか」と誘い,祭りの当日他の友達と一緒に彼女は家に来たのだった。と思うが,実はその思い出はあまりなく黒電話の前で逡巡していた記憶のほうが鮮明に残っている。
あの時黒電話の向こうには「彼女の家庭」が「彼女の家族」が筆者の前に立ちはだかっていた。あの頃,いつか人間が1人ずつ自分用の電話を持つなど全く想像もできなかった。しかしそれから15年ほどして筆者は自分の携帯電話を初めて買ったのであった。
和辻哲郎5)は『風土』の中で,日本の家族や家庭に関してきわめて本質的な特徴を指摘している。それは家族間の「距てなき結合」ということである。
伝統的な価値の中で存在していた家庭や家族(関係)は今,変わったのか,変わったとすれば何故そうなったのか,それが現代の日本の精神科治療,心理療法にとってどのような影響を及ぼすのか,ということを本稿では検討してみたい。
参考文献
1) フィリップ・アリエス:〈子供〉の誕生—アンシャンレジーム期の子供と家族生活.みすず書房,1980
2) 平井信義:学校嫌い—こうして直そう こうして防ごう.日新報道,1975
3) 大平健:やさしさの精神病理.岩波書店,1995
4) 大澤真幸:不可能性の時代.岩波書店,2008
5) 和辻哲郎:風土—人間学的考察.岩波書店,1935
掲載誌情報