文献詳細
文献概要
特集 「統合失調症」再考(Ⅰ)
発達障害の流布によって統合失調症の見方は変わったのか?
著者: 広沢正孝1
所属機関: 1順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
ページ範囲:P.1029 - P.1036
文献購入ページに移動はじめに
近年,統合失調症と診断されていながら,実は自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)が疑われる症例に少なからず遭遇する。そればかりか,精神科病棟の長期入院患者の中には,長年にわたり「統合失調症といわれ」,統合失調症患者として年を重ねてきたASD者もいる。この背景には,20世紀末までの本邦の精神医学において,ASDを含む成人の発達障害という診断視点が育まれてこなかった事情が存在する。21世紀の今日,成人における発達障害概念の普及により,我々はこのような患者に対して適切な診断行為が行えるようになったことは事実である。
しかし統合失調症とASDとの関係は,それほどまでに単純明快とはいかない。事実,発達障害概念の流布が,統合失調症の診たて方に変化をもたらした可能性すらある。統合失調症とASDとが,同じ成人の精神医学を舞台として論じられるようになった現在,それぞれの成因や臨床像を把握するためにも,双方の精神病理を再考する必要が生じてきた。
近年,統合失調症と診断されていながら,実は自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)が疑われる症例に少なからず遭遇する。そればかりか,精神科病棟の長期入院患者の中には,長年にわたり「統合失調症といわれ」,統合失調症患者として年を重ねてきたASD者もいる。この背景には,20世紀末までの本邦の精神医学において,ASDを含む成人の発達障害という診断視点が育まれてこなかった事情が存在する。21世紀の今日,成人における発達障害概念の普及により,我々はこのような患者に対して適切な診断行為が行えるようになったことは事実である。
しかし統合失調症とASDとの関係は,それほどまでに単純明快とはいかない。事実,発達障害概念の流布が,統合失調症の診たて方に変化をもたらした可能性すらある。統合失調症とASDとが,同じ成人の精神医学を舞台として論じられるようになった現在,それぞれの成因や臨床像を把握するためにも,双方の精神病理を再考する必要が生じてきた。
参考文献
1) Asperger H:Die “Autistischen Psychopathen“ im Kindesalter. Arch Psychiatr Nervenkr 117:76-136, 1944(高木降郎訳:小児期の自閉的精神病質.高木降郎,ラターM,ショプラーE編,自閉症と発達障害研究の進歩 4.pp30-68,星和書店,2001)
2) Baron-Cohen S, Richler J, Bisarya D, et al:The systemizing quotient:an investigation of adults with Asperger syndrome or high functioning autism and normal sex differences. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 358:361-374, 2003
3) Baron-Cohen S, Wheelwright S:The empathy quotient:an investigation of adults with Asperger syndrome or high functioning autism, and normal sex differences. J Autism Dev Disord 34:163-175, 2004
4) Blankenburg W:Der Verlust der natürlichen Selbstverständlichkeit. Ein Beitrag zur Psychopathologie symptomarmer Schizophrenien. Enke, Stuttgart, 1971(木村敏,岡本進,島弘嗣訳:自明性の喪失—分裂病の現象学.みすず書房,1978)
5) Bleuler E:Dementia Praecox oder Gruppe der Schizophrenien. Franz Deuticke, Leipzig/Wien, 1911(飯田真,下坂幸三,保崎秀夫他訳:早発性痴呆または精神分裂病群.医学書院,1974)
6) Conrad K:Die beginnende Schizophrenie:Versuch einer Gestaltanalyse des Wahns. George Thieme, Stuttgart, 1958(山口直彦,安克昌,中井久夫訳:分裂病のはじまり—妄想のゲシュタルト分析の試み.岩崎学術出版社,1994)
7) Erikson EH:Childhood and society, 2nd ed. W.W. Norton & Company, New York, 1963(仁科弥生訳:幼児期と社会1,2.みすず書房,1977, 1980)
8) Havighurst RJ:Developmental tasks and education. 3rd ed. David McKay, New York, 1972(児玉憲典,飯塚裕子訳:ハヴィガーストの発達課題と教育—生涯教育と人間形成.川島書店,1997)
9) 広沢正孝:統合失調症を理解する—彼らの生きる世界と精神科リハビリテーション.医学書院,2006
10) 広沢正孝:成人の高機能広汎性発達障害とアスペルガー症候群—社会に生きる彼らの精神行動特性.医学書院,2010
11) 広沢正孝:「こころの構造」からみた精神病理—広汎性発達障害と統合失調症をめぐって.岩崎学術出版社,2013
12) 広沢正孝:学生相談室からみた「こころの構造」—〈格子型/放射型人間〉と21世紀の精神病理.岩崎学術出版社,2015
13) 広沢正孝:DSM時代における精神療法のエッセンス—こころと生活をみつめる視点と臨床モデルの確立に向けて.医学書院,2016
14) 広沢正孝:KannerとAspergerの自閉はBleuler, E.のそれをプロトタイプとしている.精神科治療学 31:763-769, 2016
15) 広沢正孝:成人の自閉症スペクトラム障害とライフステージの課題—特集にあたって.精神医学 58:365, 2016
16) 広沢正孝:「診立て(成因論的仮説)」を行うには,どんな臨床精神病理学が必要か? 精神経誌 119:2017(印刷中)
17) 石井卓:アスペルガー症候群—統合失調症との鑑別.精神科治療学 19:1069-1075, 2004
18) Janet P:Les nérvoses. Flammarion, Paris, 1909(高橋徹訳:ジャネ,神経症.医学書院,1974)
19) Jaspers K:Allgemeine Psychopathologie, Aufl 5. Springer, Berlin, 1948(西丸四方訳:精神病理学原論.みすず書房,1971)
20) Jung CG:Gestaltungen des Unbewussten. Rascher, Zürich, 1950(林道義訳:個性化過程の経験について,マンダラシンボルについて.林道義訳:個性化とマンダラ.pp71-148, pp149-221,みすず書房,1991)
21) Kanner L:Autistic disturbances of affective contact. Nerv Child 2:217-250, 1943
22) 木村敏:分裂病の現象学.弘文堂,1975.
23) 村上靖彦:自己と他者の病理学—思春期妄想症と分裂病.湯浅修一編:分裂病の精神病理7巻.pp71-97,東京大学出版会,1976
24) 永田俊彦,広沢正孝:慢性期の症状.松下正明他編,臨床精神医学講座 2巻.pp375-387,中山書店,1999
25) 中井久夫:精神分裂病状態からの寛解過程—描画を併用せる精神療法をとおしてみた縦断的観察.宮本忠雄編,分裂病の精神病理 2巻,pp157-217,東京大学出版会,1974
26) 柴田明彦:統合失調症はどこから来てどこへ行くのか—宗教と文化からその病理をひもとく.星和書店,2011
27) 杉山登志郎:自閉症に見られる特異な記憶想起現象—自閉症のtime slip現象.精神経誌 96:281-297, 1994
掲載誌情報