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オピニオン 精神科医にとっての薬物療法の意味
薬物療法は医師と患者の協働作業である
著者: 中村敬12
所属機関: 1東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科 2森田療法センター
ページ範囲:P.120 - P.122
文献購入ページに移動はじめに
薬物はその薬理作用によって投与された患者の心身の状態に変化をもたらす。だがこうした説明は抽象的なものに過ぎず,実際には薬理作用だけが単独に成立するわけではない。現実の薬物療法では(急性精神病状態を除いて),患者によって語りだされた病歴や体験をもとに医師が投薬の必要性を判断し,患者との対話の中で特定の薬物を選択する合意が形成される。そして処方された薬物を患者が(ふつうは内服の形で)摂取し,その結果を医師に伝えることによって処方の調整=合意の再形成が行われる。このように薬物療法とは医師と患者の間で不断に継続される行為であり,治療関係を土台にした協働作業に他ならない。
それゆえ精神科医には,操作的診断と薬物療法のアルゴリズムばかりでなく,投薬という行為が患者に与える心理的意味や治療関係に及ぼす影響にも目を向け,治療的関わりの全体から薬物療法をとらえ直すことが求められている。以下,薬物と治療関係の相互的影響を考え,服薬する患者の心理を踏まえた対応について私見を述べることにした。
薬物はその薬理作用によって投与された患者の心身の状態に変化をもたらす。だがこうした説明は抽象的なものに過ぎず,実際には薬理作用だけが単独に成立するわけではない。現実の薬物療法では(急性精神病状態を除いて),患者によって語りだされた病歴や体験をもとに医師が投薬の必要性を判断し,患者との対話の中で特定の薬物を選択する合意が形成される。そして処方された薬物を患者が(ふつうは内服の形で)摂取し,その結果を医師に伝えることによって処方の調整=合意の再形成が行われる。このように薬物療法とは医師と患者の間で不断に継続される行為であり,治療関係を土台にした協働作業に他ならない。
それゆえ精神科医には,操作的診断と薬物療法のアルゴリズムばかりでなく,投薬という行為が患者に与える心理的意味や治療関係に及ぼす影響にも目を向け,治療的関わりの全体から薬物療法をとらえ直すことが求められている。以下,薬物と治療関係の相互的影響を考え,服薬する患者の心理を踏まえた対応について私見を述べることにした。
参考文献
1) 神田橋條治:一般医に必要な精神療法的面接.神田橋條治著作集—発想の航跡2.岩崎学術出版,pp338-341, 2004
2) 黒木俊秀:薬物療法における精神療法的態度の基本—処方の礼儀作法.臨床精神医学 34:1663-1669, 2005
3) 中井久夫:服薬の心理と合意—精神科治療の覚書.日本評論社,pp73-91, 1982
4) 中村敬:服薬に不安の強い患者への対応.精神科臨床サービス 2:494-496, 2002
5) 中村敬:不安の薬と精神療法—主体の経験を視座にして.精神経誌 106:582-586, 2004
6) 中村敬:薬物療法に与える影響を知る.日本精神神経学会精神療法委員会編:臨床医のための精神科面接の基本.新興医学出版社,pp63-75, 2015
7) Ward NG:Psychosocial approaches to pharmacotherapy. In:Beitman BD, Klerman GL ed. Integrating Pharmacotherapy and Psychotherapy. American Psychiatric Press, Inc., Washington D.C, pp69-104, 1991
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