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雑誌詳細

文献概要

オピニオン 精神科医にとっての薬物療法の意味

身体は認知・意味生成の源である—身体化された心について

著者: 内村英幸1

所属機関: 1福岡心身クリニック

ページ範囲:P.136 - P.138

はじめに—心でも物でもある身体
 日常臨床において,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),特にフルボキサミンの登場は,精神療法のみでは抵抗の強い対人恐怖症・社会不安障害(SAD)や強迫性障害(OCD)などの神経症の症状を和らげ,時には劇的に症状を改善し,精神療法的アプローチを容易にした。また,第二世代の特徴的な非定型抗精神病薬の登場によって,統合失調症の治療も以前より対応しやすくなり,社会心理的アプローチが容易になってきたと思う。
 他方,脳科学において,Rizzolattiらの1996年にかけての一連の研究による「ミラーニューロン」の発見は,認知神経科学に大きなインパクトを与えた。自他共通癒合ミラー神経回路と自他分離メンタライジング神経回路の拮抗作用,さらに,基本的安静時自己デフォルトモード神経回路(DMN:心の迷走,mind wandering回路)と課題実行系神経回路(「今,ここ」に集中)の拮抗的作用などが解明されてきた2,3,6)。自己と他者・環境との関係性の認知神経科学,自己神経科学の研究は,近年著しく発展してきており,「心と脳」の媒体である「生きた身体」すなわち,心でもあり物でもある両義的身体をふまえて,薬物療法と精神療法について論ずることが不可欠になってきた。

参考文献

1) Gallagher S:Neurocognitive model of schizophrenia:A neurophenomenological critique. Psychopathology 37:8-19, 2004
2) 苧坂直行編:社会脳科学の展望.新曜社,2012
3) 苧坂直行編:自己を知る脳・他者を理解する脳.新曜社,2014
4) 内村英幸:弁証法としての森田療法.精神療法 39:409-416,2013
5) 内村英幸:神経症の薬物療法はどのような意味があるか—脳に関する心理教育.福岡行動医学雑誌 21:6-11,2014
6) 内村英幸,竹田康彦:心としての身体的発達論と身体技法—間身体性から間主観性へ.その1:福岡行動医学雑誌 21:39-49, 2014その2:同上 22:45-56, 2015
7) 内村英幸:マインドフルネスを実践する—弁証法的行動療法と森田療法.精神療法 42:522-527,2016
8) Varela F, Thompson E, Rosch E:The Embodied Mind:Cognitive Science and Hu-man Experience. MIT Press, 1999(田中靖夫訳:身体化された心.工作舎,2011)

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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