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短報
診断に苦慮した内省型統合失調症の1症例—「過剰な自己否定」とどう向き合うか
著者: 福家知則1
所属機関: 1JA長野厚生連長野松代総合病院心療内科・精神科
ページ範囲:P.147 - P.151
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過剰な自己否定を特徴とした内省型統合失調症の症例を経験した。内省型統合失調症は,単純型統合失調症の特殊例または寡症状性統合失調症の概念に近いとされているが,過剰な自己否定を気分障害に伴う認知の歪みと誤認した場合,うつ病などの別の診断に至る危険性がある。そのため,無理に診断を確定しようとせず,患者の言葉を言葉通り理解しようと努めることで,患者が安心感を抱くことができ,内省面や精神症状がより明確に表出されるようになる。それは診断の一助となるだけでなく,精神療法的な側面も持ち合わせている。安心して語ることのできる診察の場の提供が内省型統合失調症患者にとって重要と考えられた。
過剰な自己否定を特徴とした内省型統合失調症の症例を経験した。内省型統合失調症は,単純型統合失調症の特殊例または寡症状性統合失調症の概念に近いとされているが,過剰な自己否定を気分障害に伴う認知の歪みと誤認した場合,うつ病などの別の診断に至る危険性がある。そのため,無理に診断を確定しようとせず,患者の言葉を言葉通り理解しようと努めることで,患者が安心感を抱くことができ,内省面や精神症状がより明確に表出されるようになる。それは診断の一助となるだけでなく,精神療法的な側面も持ち合わせている。安心して語ることのできる診察の場の提供が内省型統合失調症患者にとって重要と考えられた。
参考文献
1) 藤森英之:精神分裂病と妄想—精神科臨床と病床日誌から.金剛出版,1998
2) 原田憲一:精神症状の把握と理解.中山書店,p96, 2008
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