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文献詳細

雑誌文献

精神医学59巻3号

2017年03月発行

文献概要

特集 ADHDをめぐる最近の動向

小児期のADHDと成人期のADHDの連続・不連続—成人精神科医から

著者: 岩波明1 谷将之1

所属機関: 1昭和大学医学部精神医学講座

ページ範囲:P.203 - P.208

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はじめに
 今日のADHD(attention deficit/hyperactivity disorder)に相当する症例についての報告は18世紀末の論文が知られているが5),本格的な学術的な論文としては,英国のStillらによる報告に始まると言われている11)。Stillは,脳炎や脳腫瘍など脳の器質的疾患の既往を持ち,多動や衝動性を示して行動面で抑制が欠如し,「環境への適切な認知」,「道徳意識」に障害を示す症例を報告した。こうした症例は後にStill病と呼ばれることとなった。この後20世紀の初頭において,脳炎の後遺症としてStill病と同様の症状が少なからず認められることが報告された。こうした流れの中で,ADHDは脳のなんらかの器質的な障害を背景に持つと考えられるようになった。つまり,当初の出発点としては,ADHDは生来のものではなく,ある意味「後天的」な疾患であるとみなされていた。
 このような考え方を引き継いだのが,MBD(微細脳損傷,微細脳機能障害)の概念である10)。この考え方は1980年代ごろまでは広く認められたものであり,今日のADHDはMBDの中に含まれていた。MBDは,周産期などにおける微細な脳障害が原因で,幼少時より,多動・衝動性,不注意や学習面での障害,神経学的な軽度の異常(ソフトサイン)を示すものと定義された。ちなみに,今日の「学習障害」についてもMBDに含まれており,ADHDと区別がつけられていなかった。ここにおいても,ADHDはある種後天的な疾患であるとみなされていたわけである。この「周産期の障害」という仮説は,「親の養育の問題」と並んで,精神疾患における原因仮説としてしばしば取沙汰されるものであり,統合失調症においても,数多くの議論が行われてきた9)。ADHDにおいても,産科的合併症が高頻度であることは示されているが7),その病態における意義については現在まで明確な結論は得られていない。
 このように,ADHDは明確なエビデンスがないまま後天的な成因を持つ脳の器質的な疾患であると長く信じられてきたが,近年の画像診断学的研究において,かつてのMBDの概念はほぼ否定されている。このため,最近の診断基準においては,臨床症状から病名が付けられるようになっている。またADHDの成因については,ノルアドレナリン,ドパミンなどの神経伝達物質の機能障害説が提唱されているが,この点についても確定的な証明は得られていない。こうした中で,ADHDの発症には遺伝的な要因の関与が大きいことが明らかにされ,ADHDは生来のものであるという考え方が最近の主流であり,DSMなどの診断基準においてもそのような想定に基づいて記載がされている。
 ところが最近になり,ADHDには従来の幼児期,小児期から症状発現がみられるものに加えて,思春期以降,時には成人になって発症する「遅発性」の一群があるという報告がいくつかの研究グループから発表された。本稿においては,この小児期のADHDと成人期のADHDの連続性の問題について,最近の研究報告を中心に検討を行いたい。

参考文献

1) Agnew-Blais JC, Polanczyk GV, Danese A, et al:Evaluation of the persistence, remission, and emergence of attention-deficit/hyperactivity disorder in young adulthood. JAMA Psychiatry 7:713-720, 2016
2) Biederman J, Mick E, Faraone SV:Age-dependent decline of symptoms of attention deficit hyperactivity disorder:Impact of remission definition and symptom type. Am J Psychiatry 157:816-818, 2000
3) Buitelaar JK, Kan CC, Asherson P:ADHD in adults. Characterization, Diagnosis, and Treatment. Cambridge University Press, Cambridge, 2011
4) Caye A, Rocha TB, Anselmi L, et al:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder. Trajectories from childhood to young adulthood:Evidence from a Birth cohort supporting a late-onset syndrome. JAMA Psychiatry 73:705-712, 2016
5) Crichton A:An inquiry into the nature and origin of mental derangement:Comprehending a concise system of the physiology and pathology of the human mind and a history of the passions and their effects. Cadell T Jr, Davies W, London, 1798
6) Faraone SV, Biederman J, Spencer T:Diagnosing adult attention deficit hyperactivity disorder:Are late onset and subthreshold diagnoses valid? Am J Psychiatry 163:1720-1729, 2006
7) Firestone P, Prabhu AN:Minor physical anomalies and obstetrical complications:Their relationship to hyperactive, psychoneurotic, and normal children and their families. J Abnorm Child Psychol 11:207-216, 1983
8) Moffitt TE, Houts R, Asherson P, et al:Is adult ADHD a childhood-onset neurodevelopmental disorder? Evidence from a four-decade longitudinal cohort study. Am J Psychiatry 172:967-977, 2015
9) 村松大,磯野浩,岡島由佳,他:精神分裂病のminor physical anomaly(MPA).精神医学 42:689-695, 2000
10) Ross DM, Ross SA:Hyperactivity:Research, theory and action. Wiley, New York, 1976
11) Still GF:Some abnormal physical conditions in children. Lancet 159:1008-1013, 1902

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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