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文献詳細

雑誌文献

精神医学59巻4号

2017年04月発行

文献概要

特集 改正道路交通法と医療の視点

気分障害を持つ人のための「自動車運転に関する心理教育」を考える

著者: 木村卓12 岩本邦弘1 河野直子3 尾崎紀夫1

所属機関: 1名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野 2独立行政法人国立病院機構東尾張病院 3名古屋大学未来社会創造機構

ページ範囲:P.301 - P.309

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はじめに
 患者から「先生,運転してもよいでしょうか?」と尋ねられた際,多くの精神科医は自信を持って答えることができないのが現状であろう。この背景には,道路交通法(以下,道交法)上,「そううつ病(そう病・うつ病を含む)」等が運転免許の相対的欠格事項とされていることに加え,自動車運転死傷行為処罰法によって治療薬や精神疾患の影響下にある交通事故が厳罰の対象とされる可能性があることや,ほとんどの向精神薬の添付文書が自動車運転等を画一的に禁止していることが大きく影響していると考えられる。しかし,現実には,服薬しながら自動車運転を続けている精神疾患患者は少なくない5,9,11)
 わが国における精神疾患患者の運転適性に関する議論は,今世紀に入り,運転関連法制度の改正・整備に伴ってにわかに注目されるようになったが,現実に即さない制度内容も影響して,十分な社会的コンセンサスを得ている感はない。1960年6月の道交法の施行以来,約半世紀にわたって,「精神病者」は,自動車運転免許証の取得・保持の絶対欠格とされていた。1999年に「障害者に係る欠格事項の見直しについて」が決定され,2001年の道交法の改正により,精神疾患は,運転への支障の有無により運転免許の取得の可否を個別に判断する「相対的欠格事由」となり,主治医の診断書や臨時適性検査によって一定の条件を満たせば,免許が許可されることとなった。ここにおいてようやく,精神疾患患者の運転適性に関する具体的な議論を社会的に行うことができるようになったが16),冒頭の状況や諸家が繰り返し示しているように6,11),日本においては依然,臨床医と患者が運転に関して率直に話し合えるような環境は整っていない。
 本稿では,今日の精神科臨床において,患者の自動車運転を考える際の問題について,法制度や学会ガイドラインを整理して示すとともに,海外の動向や文献的検討を踏まえて議論し,臨床医が少しでも自信を持って,運転適性評価や患者・家族への情報提供ができるようになることを目指したい。ここでは,筆者らに与えられたテーマに従って,主に気分障害患者を念頭に議論を進め,最後に,精神科医と患者が自動車運転に関して情報を共有しながら話し合う,運転に関する心理教育のあり方について考えてみたい。

参考文献

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4) DRUID:Classification of medicinal drugs and driving:Co-ordination and synthesis report. 2011 (http://www.druid-project.eu/Druid/EN/deliverales-list/downloads/Deliverable_4_4_1.html)
5) 飯原なおみ,吉田知司,岡田岳人,他:わが国のナショナルレセプトデータベースが示した運転等禁止・注意医薬品の使用実態.医療薬学 40:67-77, 2014
6) 岩本邦弘,河野直子,尾崎紀夫:自動車運転を考慮した薬物療法の適正化.臨床精神薬理 19:1419-1426, 2016
7) 厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長:ミルナシプラン塩酸塩,デュロキセチン塩酸塩及びベンラファキシン塩酸塩の「使用上の注意」改訂の周知について.2016
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9) 松田ひろし,長浜恭史,清川雅充:精神科外来通院患者の運転状況について—自記式アンケート調査の結果より.日精協誌 32:1110-1117, 2013
10) 松岡浩:精神疾患と自動車の運転免許制度について(てんかん・統合失調症・認知症等の事例を中心として)—弁護士の視点から.日精協誌 32:1164-1170, 2013
11) 松尾幸治:向精神薬の服用と自動車運転.臨床精神薬理 18:511-520, 2015
12) 宮田明美,岩本邦弘,河野直子,他:気分障害と自動車運転—疾患と治療薬が運転技能に及ぼす影響.臨床精神薬理 18:527-535, 2015
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14) 日本精神神経学会,日本神経精神薬理学会,日本うつ病学会,日本臨床精神神経薬理学会:ミルナシプラン,デュロキセチン及びベンラファキシンの「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に関わる使用上の注意」添付文書記載改訂に関する声明.2016
15) Ravera S, Monteiro SP, de Gier JJ, et al:A European approach to categorizing medicines for fitness to drive:Outcomes of the DRUID project. Br J Clin Pharmacol 74:920-931, 2012
16) 富田三樹生,浅井邦彦,磯村大,他:道路交通法および道路交通法施行令の改正(平成14年6月1日施行)についての報告—特に精神障害者の運転免許証の取得と保持について.精神経誌 106:812-847, 2004
17) Vaa T:Impairment, diseases, age and their relative risks of accident involvement:Results from meta-analysis. 2003 (https://www.toi.no/publications/impairment-diseases-age-and-their-relative-risks-of-accident-involvement-results-from-meta-analysis-article17814-29.html)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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