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文献詳細

雑誌文献

精神医学59巻5号

2017年05月発行

文献概要

特集 認知行動療法の現在とこれから—医療現場への普及と質の確保に向けて

認知行動療法における治療の質の管理—さらなる普及とクオリティコントロールのために

著者: 菊地俊暁123

所属機関: 1国立研究開発法人日本医療研究開発機構 2一般社団法人認知行動療法研修開発センター 3慶應義塾大学医学部精神神経科学教室

ページ範囲:P.405 - P.412

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はじめに
 認知行動療法(CBT)は,近年うつ病や不安症に対する治療として医療現場で用いられるだけでなく,介護・福祉分野や企業,学校など,広く活用されるようになっている。徐々に普及している中,しかし大きくは二つの問題を抱えている。一つは治療として実施可能な医療施設が限定されていること,もう一つは治療としての質の担保をどのようにしていくか,ということである。
 前者の実施可能な施設が限られているという問題は,診療報酬とも密接に絡む。40〜50分,医師がCBTを行うことが診療所や病院の経営にとってプラスとなり得るかは甚だ疑問がある。昨年から看護師による実施が実質的に認められたが,要件の厳しさや,病棟配置,シフト勤務という勤務上の問題から,なかなか実施できる医療機関が少ないのが現状である。有効性は確認され,また医療経済的にも有用な治療であることは疑いがなく,さらなる普及のためには看護師以外の職種による実施が可能となることが求められるだろう。
 後者の質の担保,という点は,今後の普及と並行して重要な要素の一つである。それぞれの治療者が独自の方法で行うのでは,認知行動療法という枠組みの中で勝手な治療が行われているにすぎない。一定レベル以上の治療が多くの施設で行われるようにするためには,研修システムが確立し,適切な知識の獲得ができ,また指導者からのスーパーバイズが受けられる必要があるだろう。またさらに自己研鑽や集団での学習の場を整備していくことも望まれる。
 本稿では,治療の質とはどのようなものか,また客観的に評価するためにはどのようにすべきか,さらに現在行われている厚生労働省研修事業におけるCBTの技能獲得について触れ,どのように質を管理・向上していくべきか考えていきたい。

参考文献

1) Department of Health(UK):Building on the Best:Choice, Responsiveness & Equity in the NHS, 2003
2) 今中雄一:医療の質,コスト,アクセス,そして満足度:医療制度づくりとHSR.日本公衆衛生雑誌 57:1023-1028, 2010
3) 菊地俊暁,古川壽亮,堀越勝,他:精神療法のクオリティコントロールについて.認知療法研究 7:159-167, 2014
4) 菊地俊暁:CBTの副作用と予防.精神科治療学 31:203-209, 2016
5) 菊地俊暁:CBTの副作用—副作用評価ツールの開発と頻度調査および治療因子との関係について.平成25-27年度 厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業:CBT等の精神療法の開発と普及に関する研究.総合研究報告書(研究代表者:大野裕),2016
6) Le Grand J, Bartlett W, ed:Quasi-markets and Social Policy. Macmillan Press, Basingstoke, 1993
7) Le Grand J:The Other Invisible Hand:Delivering Public Services through Choice and Competition. Princeton University Press, New Jersey, 2007
8) Strunk DR, Brotman MA, DeRubeis RJ, et al:Therapist competence in cognitive therapy for depression:Predicting subsequent symptom change. J Consult Clin Psychol 78:429-437, 2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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