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特集 認知行動療法の現在とこれから—医療現場への普及と質の確保に向けて
強迫性障害の認知行動療法
著者: 中尾智博1
所属機関: 1九州大学大学院医学研究院精神病態医学
ページ範囲:P.433 - P.439
文献購入ページに移動はじめに
強迫性障害(obsessive-compulsive disorder;OCD)に対して認知行動療法(cognitive behavioral therapy;CBT)が有効であることは論をまたない。治療ガイドラインにおいてCBTは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhivitor;SSRI)を用いた薬物療法とともにOCDのファーストラインの治療として推奨されている。さらに無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)による治療効果比較研究によって,OCDに対するCBTの効果は薬物療法の効果を上回ることが示唆されており,過去30年余に実施された精神療法・薬物療法のRCTを対象とした最新のネットワーク・メタ解析10)の結果もCBTを用いた精神療法が,SSRIを主体とする薬物療法より有意に効果が高いことを示した。大うつ病や各種不安障害への精神療法と薬物療法のメタ解析を実施したCuijpersら3)によれば,精神療法の効果が薬物療法の効果を有意に上回ったのはOCDを対象にした研究のみにみられた特徴であったという。
OCDに対するCBTの有効性は,他の疾患以上に高いと考えられる一方で,本邦におけるその普及はまだ十分とはいえない状況にある。その原因には,CBTそのものの普及の問題とともに,OCDという疾患の特殊性ゆえに,その治療を請け負う医療機関自体も限られているという問題がある。しかしながら,2013年にDSM-51)へと改訂されOCDが不安症から独立したことや,2016年にOCDを含む不安障害へのCBTの診療報酬が適用拡大されたことなど,OCDに対するCBTは,精神科医療の現場において今高い注目を集めている。本稿では,まず現在のOCD概念について簡単に触れ,ついでOCDに対するCBTの現状について記述する。
強迫性障害(obsessive-compulsive disorder;OCD)に対して認知行動療法(cognitive behavioral therapy;CBT)が有効であることは論をまたない。治療ガイドラインにおいてCBTは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhivitor;SSRI)を用いた薬物療法とともにOCDのファーストラインの治療として推奨されている。さらに無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)による治療効果比較研究によって,OCDに対するCBTの効果は薬物療法の効果を上回ることが示唆されており,過去30年余に実施された精神療法・薬物療法のRCTを対象とした最新のネットワーク・メタ解析10)の結果もCBTを用いた精神療法が,SSRIを主体とする薬物療法より有意に効果が高いことを示した。大うつ病や各種不安障害への精神療法と薬物療法のメタ解析を実施したCuijpersら3)によれば,精神療法の効果が薬物療法の効果を有意に上回ったのはOCDを対象にした研究のみにみられた特徴であったという。
OCDに対するCBTの有効性は,他の疾患以上に高いと考えられる一方で,本邦におけるその普及はまだ十分とはいえない状況にある。その原因には,CBTそのものの普及の問題とともに,OCDという疾患の特殊性ゆえに,その治療を請け負う医療機関自体も限られているという問題がある。しかしながら,2013年にDSM-51)へと改訂されOCDが不安症から独立したことや,2016年にOCDを含む不安障害へのCBTの診療報酬が適用拡大されたことなど,OCDに対するCBTは,精神科医療の現場において今高い注目を集めている。本稿では,まず現在のOCD概念について簡単に触れ,ついでOCDに対するCBTの現状について記述する。
参考文献
1) American Psychiatric Association:Obsessive-Compulsive and Related Disorders. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:DSM-5. American Psychiatric Publishing, Washington, D.C., pp235-264, 2013
2) Baer L, Rapoport JL:Getting Control:Overcoming Your Obsessions and Compulsions. Plume, New York, 1992
3) Cuijpers P, Sijbrandij M, Koole SL, et al:The effi cacy of psychotherapy andpharmacotherapy in treating depressive and anxiety disorders:a meta-analysis of direct comparisons. World Psychiatry 12:137-148, 2013
4) Foa EB, Wilson R:How to stop overcome your obsession and compulsions. Bantom, New York, 1991
5) 飯倉康郎:強迫性障害の治療ガイド.二瓶社,1999
6) Meyer V:Modification of expectations in cases with obsessional rituals. Behav Res Ther 4:273-280, 1966
7) 中尾智博,中谷江利子:強迫性障害の外来治療.飯倉康郎編著:強迫性障害の行動療法.金剛出版,pp85-131, 2005
8) 中谷江利子,加藤奈子,中川彰子:強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル.厚生労働省障害者対策総合研究事業「認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究」,2015
9) Russell AJ, Mataix-Cols D, Anson M, et al:Obsessions and compulsions in Asperger syndrome and high-functioning autism. Br J Psychiatry 186:525-528, 2005
10) Skapinakis P, Caldwell DM, Hollingworth W, et al:Pharmacological and psychotherapeutic interventions for management of obsessive-compulsive disorder in adults:A systematic review and network meta-analysis. Lancet Psychiatry 3:730-739, 2016
11) Tolin DF, Frost RO, Steketee G:An open trial of cognitive behavioral therapy for compulsive hoarding. Behav Res Ther 45:1461-1470, 2007
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