文献詳細
私のカルテから
固執の中に患者が自立するためのニードを見出し肯定したことで障害受容が進んだ統合失調症例
著者: 中川潤12
所属機関: 1東京医科歯科大学大学院心療・緩和医療学分野 2元・稲城台病院精神科
ページ範囲:P.497 - P.499
文献概要
統合失調症の治療過程において,障害によってもたらされた理想と現実の落差や無力感を乗り越えるために,患者と治療者が協働して新たな自己価値を模索する「障害受容」の概念が1980年代に本邦で議論された1,2)。しかし,障害受容の過程で治療者が患者に受容を強要する可能性が指摘され,この概念が普及したとは言い難い3)。一方,薬物療法など生物学的治療が発展した現在でも,十分に社会適応できない統合失調症患者は多い。このため,患者と治療者が協働して取り組む障害受容の意義を現代において再考する必要があると言える。
本稿では,統合失調症で信仰と食事への固執がみられ,それを是正しようとする治療スタッフと度々衝突した症例に対し,治療者が固執を患者の生きるためのニードと捉え,肯定したことで,患者の障害受容に進展がみられた例を紹介する。なお,患者本人から今回の発表に際して同意を得ている。また,個人を特定できないよう,本質を損なわない形で細部に変更を加えている。
参考文献
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