icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学59巻5号

2017年05月発行

私のカルテから

固執の中に患者が自立するためのニードを見出し肯定したことで障害受容が進んだ統合失調症例

著者: 中川潤12

所属機関: 1東京医科歯科大学大学院心療・緩和医療学分野 2元・稲城台病院精神科

ページ範囲:P.497 - P.499

文献概要

はじめに
 統合失調症の治療過程において,障害によってもたらされた理想と現実の落差や無力感を乗り越えるために,患者と治療者が協働して新たな自己価値を模索する「障害受容」の概念が1980年代に本邦で議論された1,2)。しかし,障害受容の過程で治療者が患者に受容を強要する可能性が指摘され,この概念が普及したとは言い難い3)。一方,薬物療法など生物学的治療が発展した現在でも,十分に社会適応できない統合失調症患者は多い。このため,患者と治療者が協働して取り組む障害受容の意義を現代において再考する必要があると言える。
 本稿では,統合失調症で信仰と食事への固執がみられ,それを是正しようとする治療スタッフと度々衝突した症例に対し,治療者が固執を患者の生きるためのニードと捉え,肯定したことで,患者の障害受容に進展がみられた例を紹介する。なお,患者本人から今回の発表に際して同意を得ている。また,個人を特定できないよう,本質を損なわない形で細部に変更を加えている。

参考文献

1) 村田信男:「分裂病のリハビリテーション過程」について—自己価値の再編を中心に.藤縄昭編:分裂病の精神病理 10.東京大学出版会,pp251-281, 1981
2) 村田信男:続「分裂病のリハビリテーション過程」について—障害相互受容のプロセスを中心に.吉松和哉編:分裂病の精神病理 11.東京大学出版会,pp275-302, 1982
3) 中川正俊:精神分裂病の「障害受容」再考—受容過程における2つの「乗り越え困難」とその支援.精神科治療学 16:371-378, 2001
4) 中川正俊:統合失調症における「障害受容」構造化の試み.人間福祉研究 6:1-9, 2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら