文献詳細
私のカルテから
不注意と過眠を背景とした双極Ⅰ型障害についての1考察
著者: 柴田真美1 川岸久也2 鈴木光志3 山口智美4 村井俊哉5 船曳康子6
所属機関: 1社会福祉法人京都博愛会京都博愛会病院 2京都大学医学部附属病院精神科神経科 3光愛病院 4京都いわくら病院 5京都大学大学院医学研究科精神医学 6京都大学大学院人間・環境学研究科総合人間学部
ページ範囲:P.885 - P.887
文献概要
注意欠陥性多動性障害(Attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)と双極性障害の合併は多いことが示されている。たとえば,成人のADHDの47%が双極性障害を合併し,双極性障害の患者の21%がADHDを合併しているとの報告がある7)。しかし双極性障害の過剰診断には注意が必要で,Perroudら6)の報告では,138人の双極性障害患者において,ADHDの自記式評価尺度では63人が陽性であったが,臨床所見を総合すると,最終的にADHDと診断されたのはその約3割にとどまった。
このように,ADHDにおける衝動制御困難と,双極性障害の躁病エピソードにおける気分高揚との鑑別には注意を払わねばならない。また,双極性障害の初発年齢はADHD群では非ADHD群よりも早く,うつ病エピソードの回数が多く予後が悪いという報告がある2,5,6,7)。しかし一方で,n=50と小規模の検討ながら,その両者の間に,急性期の気分障害の重症度や予後に関して有意な差はないという報告もある3)。以上のように双極性障害とADHDの合併率および症状の重症度の差異についてはエビデンスが十分でなく,併存の機序や因果関係はいまだ不明である。
今回我々はADHDと診断し加療中のところ,双極性障害を発症し,短期間に精神病症状を伴う重症躁病エピソードを繰り返した症例を経験した。特に注目したのは,双極性障害の発症前に重度の過眠を呈した点と,病相と関連した睡眠障害を呈した点である。睡眠障害を通して,ADHDと双極性障害の関連について考えたい。なお本症例の発表に際しては患者本人に承諾を得た上で,匿名性を確保するため,症例の特徴が保たれる範囲で記載を改変している。
参考文献
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