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雑誌目次

論文

精神医学6巻1号

1964年01月発行

雑誌目次

特集 近接領域からの発言 第52回関東精神神経学会懇話会

分裂病者と接触して

著者: 佐治守夫

ページ範囲:P.3 - P.8

 ここで考えてみたいことは,私の乏しい経験をとおして,分裂病者に接触しようとしている私なりのこころみ,努力の過程についてであります。そして,これは確立された理論でも,明確な実証を経たことでもなく,いま私の立つている時点における一つのささやかな道標にすぎません。
 分裂病者の本態に近づく道として,私の考えている治療的(心理療法的)接触が,どのように位置づけられるか,それが有意味であるのか,あるいは結局それほど意味をもたないものであるのかは,私のいまの関心事ではありません。そのことはむしろ,このような接触を通じて,私たちの彼らへの人間的な接近をこころみる努力の過程の中で,あるいはそのあとで初めて,確められることだと思われます。

治療における人間関係

著者: 安食正夫

ページ範囲:P.8 - P.12

 今日のテーマは,治療における人間関係という大変漠然とした大きなテーマであります。今日の地方会でも“呼び名を指標とした人間関係の研究”,“精神障害に対する認識および治療的態度に関する研究”などというような非常に興味のあるご報告がありました。そういう材料を挿入しながら人間関係というものの私の立場からの分析を多少お聞き願いたいと思います。
 人間関係という言葉は,human relationsという言葉のわけです。日本の言葉にはずいぶん翻訳が多いんですけれど最近非常にこの言葉が流行してるようです。流行しているのはいいのですが,その使われている意味が非常にまちまちです。まあこれは仕方がないとしても,人間関係というようなものが治療のプロセスにおいて,どういうふうな機能をはたすものか。さらに治療者と患者との人間関係とか,治療—臨床場面における人間関係といつた言葉が使われているわけですが,いつたいそういう機能を人間関係というものはもつものかどうか。本当に役にたつのかというようなことをまず多少検討してみたいと思うのです。

いわゆる生理学的研究について

著者: 平尾武久

ページ範囲:P.12 - P.14

 今日は,精神科の先生方に,私のほうから何か注文をつけてくれというような話でしたが,直接注文つけますよりもむしろ1人の若い生理学の研究者が,生理学の仕事をどんなように考えてやつているかを聴いていただきたいと思います。私外国に行きまして,イタリアのピサの研究所に行きました。そこではMoruzzi教授がおりまして,これは非常によくできる人で,彼の下で10人くらい外国人のドクターがやつているというところです。で,どういうときに私が行つたかといいますと,ご存知だと思いますが,例の脳幹網様体が覚醒の中枢である,あれをつぶすと動物は寝てしまう。脳波は眠つた脳波が出るのだというわけでありますが,それからさらに一歩進めまして,それもちよつと残しておくと,全然眠らない猫ができる。3週間くらいぶつつづけに寝たことがない。そういう猫の脳標本をMoruzzi教授らが作つた。
 ところがそういうことをいいだしますと,いろんな研究所でいろんなことをやるのでありまして,もう数にまかせてマスプロをやるわけです。そうすると,やつぱり眠る猫が現われたり(笑),どうもあれはあやしい,いや切りかたが悪いとか,水をつけすぎたとか,切断を上にやれとか,下にやれとか,猫の種類を選べとか,魚をくわせたとか,ビタミンを注射したとか。

内科医の立場から

著者: 七条小次郎

ページ範囲:P.14 - P.15

 私先年ヤスパースに会いましたとき,人間の精神を安定せしめるには東洋思想的なものでないとだめで,西洋哲学やキリスト教ではこの役はつとまらないといつた意味の話を聞きました。
 私は東洋人でありながら,この人の話で一種の感銘を受けて帰りましたわけですが,たしかに東洋の古代思想の中には人の心に安らかさを与えるものがあるとは思いますが,近来発展をつづける精神安定剤の出現に対して,このような思想をとりいれた方法(たとえば森田療法もその一つと考えますが),というもののもつ意義の将来性ははたしてどんなものかを,興味をもつてながめているものであります。

討論

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.15 - P.15

 私は仕事のうえでは,なるほど七条さんの言葉でいうと,Morphologieをやつているということでもありましよう。それにもかかわらず私が40年,50年やつてきた生活の大部分は,決してMorphologieをやつたのでなくて,その大部分は臨床をやつておつたという誇りを自分でもつておるわけなんであります。そこで近ごろの若い諸君,といつちやちよつと悪いかもしれませんけれども,とにかくPsychiaterでなくて,Physiologであつたり,Psychopathologであつたり,あるいはMorphologであるような傾ぎがあつて,本当に臨床精神医学をやる傾向が少ないじやないか,ということを私非常になげかわしく思つておるような次第でございます。
 しかし,臨床精神医学の仕事というものは,本当にむずかしい。むずかしいというのはなぜかというと,やはり学問がそれだけ若いからだと思うのです。それで七条さんがおつしやった第2の点で,精神医学にはPrognoseについて本がないじやないか,こういうお話,これは誠にそのとおりであります。それだけPsychiatrieがまだ進歩発達しておらんというところであります。Prognoseをはつきりと見究めるためには,10年,20年,あるいは30年,40年という年月を必要とする。それにもかかわらずこれはやらなくちやいけないことなんであります。精神科のPrognoseの本がないというのは,それだけむずかしいのだ,それだけ学問が若いのだ,その結果とご承知おき願いたいと思うのです。

研究と報告

色彩ピラミット・テストによる神経症の研究

著者: 川久保芳彦

ページ範囲:P.17 - P.26

I.序
 色彩ピラミット・テストは1946年,M. Pfisterによつて考察された投影法による人格テストであるが,わが国ではすでに相馬1),秋谷2)らによつて紹介されている。
 精神病者についてこのテストを応用した研究には,R. Heiss3)を初めとしてW. Frohoff4),K. H. Wewetzer5),K. Conrad6),J. C. Brengelmann7)8)9)O'Reilly10),らの業績がある。 そのほか,H. Enke11)12)らの精神身体医学的研究が若干あるが神経症についての研究は非常に少なく,多くは精神病の研究における付録的な一群として神経症をとりあげているにすぎない。したがつてこれらの研究では神経症の症例数も少なく,また色彩選択を中心にしていて,その他の点にはあまりふれていない。

Phenylketonuriaの1例

著者: 兼谷俊 ,   長沢晟

ページ範囲:P.27 - P.31

I.緒言
 本症はFöllingによつて初めて報告された精神薄弱の特殊型であるが,わが国でも,1950年岸本ら1)が2症例を報告して以来,その臨床症状,遺伝,生化学的研究脳波,治療などについて,現在まで約30例の報告がある。今回われわれは本症の1例を経験し,種々検索を行なう機会をえ,若干の文献的考察を行なつた。

一赤面恐怖症患者の研究

著者: 石福恒雄

ページ範囲:P.33 - P.39

I.序
 村上によれば「強迫観念とはある観念がたえず頭にうかんできて,これを考えまいとしても抑止することができない状態」12)であり,また「強迫観念はほとんどすべて不安恐怖の感情を伴つており,それが前面に出ているものを恐怖症という。」12)ここに述べる患者もこのような意味において恐怖症の患者であり,彼には幼少のころより強迫症状が現われているが,強迫現象がすでに小児期に現われることは諸家の説いているところである。たとえばMayer-Grossは「強迫現象に関係のある一種の現象は思春期前の小児に往々みられる」6)と述べているが,これは正常の現象の項目のなかで述べていることであり,またつづいて「一般的にこのような子供の習慣は成長につれて消失し,後の人格の発展に大した意義をもたぬ」6)と述べている。Jaspersは「どの病いも年齢によつて変更を受ける」の項のなかで「児童期」として「神経性障害のなかには年齢による正常の心的諸性質の昂進とみなすべきものがたくさんある」3)と述べている。ここでヤスパースは直接強迫現象を引用してはいないが,小児の強迫現象についてもこのことは妥当するとみてさしつかえないと思われる。このように小児における強迫現象は正常なものであり,多くは後の人格の発展を妨げることがないとしても,強迫神経症は「その始まりは小児期に前兆としてみられる」7)(Bleuler)。本症例においてもこのことはいえる。または「強迫神経症を例に考えてみると生活史的に一種の進行が認められることがまれではない。……これは事実進行的な事象であつて,生物学的基礎をもつた病であろう。しかしわれわれが"人格の発展"に対して病的過程とよぶものはこの場合にはない」3)という。したがつてこれは了解可能な現象ということができる。しかしJaspersの"了解"はもともと実存の問題の前で立留る。「了解的認識を深めていくとわれわれは了解不能なものに迫つてゆく。了解関連のその時々の全体は了解不能なもののなかに基礎をおいている」3)「それは内部からみれば了解不能なものは一方においては生物学的に与えられた素質であり,他方においては"実存"としての人間の自由である」3)「この自由は認識や対象や探求可能な対象ではない。しかし心理学者・精神病理学者としてはわれわれは人間を探求の対象となるかぎりにおいて眺めるのである。現実におけるあらゆる了解可能なものをになつている了解不能のものをわれわれは生物学的なものと解しようと求める。」3)すなわちJaspersの精神病理学は本質上実存の問題をその対象としない。しかしJaspersの考えていた精神医学は実存の問題をみつめていた。「精神病理学者にとつては科学自体が目的である。彼はひとえに認知認識し性状を明らかに分析しようとするが対象は個人ではなく一般的なものである」とJaspersは述べるが,また「認識が失敗したときには探求者はもはや人間探求者として進む者ではなくなり,運命を同じくする人間とともにある人間として踏み入る場所が始まつたことを知るべきである」3)ともいつている。ここに「実存的交通」(existentielle Kommunikation)が生まれる。このとき「医師と患者は二人であり,それは運命をともにする伴侶であり医師はただの技術者でも権威者でもなく,実存に対する実存であり,他者とともに移ろいやすい人間という存在である。」3)そしてこの実存的交通において患者は自己の開示を確証する。これはTrübの「患者を全人間ganzer Menschとして"発見する"(entdecken)ためには精神療法家は彼とのpartnerische Beziehungに入つてゆかなければならない」8)「それはつまり彼との独自の出会いにおいて,彼をpartnerischに体験することである」8)ということばと一致する。
 精神病理学における実存的人間学的方向に対する批判はいろいろとあるが,ここではふれない。ただここに述べる患者においても,面接中,中核に実存的問題があることが明らかになり,この問題の解決なくして真の解決はないと思われたのである。医師との交わりの中に彼の存在は共同体に開かれ,それとともに症状も寛解した。

気脳術に関する研究—気脳術装置ならびに気脳術後の空気Ringer氏液交換法について

著者: 近藤廉治

ページ範囲:P.41 - P.46

I.まえがき
 精神科の領域においては以前から気脳術が行なわれていて,明らかな器質性脳疾患以外に,久しく精神病と脳室の関係が興味ある問題とされ,古くは内村,山本の研究があり,最近ではHuber,Gerdの報告が現われ,気脳術は間歇的にその重要性が認められてきている。しかしながら,気脳術中および術後にみられるはなはだしい苦痛を伴う副作用のために,この検査法はとかく敬遠されがちである。この副作用をのぞくために,E. G. Hultschは麻酔の立場から,Lindgren,Schapirs,岩崎,井上らは脳室への空気を少なくすることにより,Robertsonは空気の代わりに種々のガス体を用いるなど,これまでにいろいろな方法が考えられたが,脳室内の空気を除去することによつて,副作用を軽減しようとこころみた報告は,いまだに見当らない。著者はこの点に着目し,気脳術後,脳室内の空気を除去して,代わりにRinger液(以下R液とする)または患者自身の髄液を再注入する方法を考案し,1957年来多数例にこころみて,副作用軽減に予想外の好成績をうることができた。またX線撮影時に体位を変えたり,脳室内の空気を除去したりする操作を容易にするために,気脳術装置を考案作製し,これによつて気脳術中の時間と労力をはぶき,患者の苦痛を軽減することができるようになつた。この気脳術装置と,気脳術直後の空気除去という2つの新しいこころみには,なお改良検討の余地はあるが,一応ここに報告して読者のご参考に供したいと思う。

頭蓋内腫瘍におけるKorsakow症状群

著者: 大橋博司 ,   浜中淑彦 ,   稲本雄二郎 ,   中江育生

ページ範囲:P.49 - P.55

I.緒言
 健忘症状群ないしKorsakow症状群についてはPick(1915)にはじまりGrünthal(1923),Bürger-Prinz u. Kaila(1930),van der Horst(1932)などを経てJ. Delay(1949),Conrad(1953),あるいは最近のZeh(1961)などにいたる精神病理学的研究があり,主としてその基本障害が論題の中心となつていた。他方,脳解剖学的側面からはGamper(1928)などによるAlkoholkorsakowの乳頭体説から最近ではPehfield一派による側頭葉刺激,切除などの脳外科的知見にもとづく記憶問題への接近など少なからぬ研究がある。これらの諸問題については本誌の「展望」にも発表があつた<大橋博司(1961),保崎秀夫・岡本正夫(1961)>。
 今回はわれわれが観察した脳腫瘍例を資料としておもに臨床脳病理学的な見地から本病状群に着干の考察を加えたい。

周期的・挿間的な気分変調を主徴とする症例群

著者: 保崎秀夫 ,   武正建一 ,   赤井淳一郎

ページ範囲:P.57 - P.61

I.はじめに
 挿間的,あるいは週期的に現われる抑うつ,不快,刺激性,猜疑的な感情を基調とする気分変調のために徘徊,自殺,嗜癖,窃盗などの反社会的行為にはしり,精神病院にたびたび入院する一群の患者があり,そのつどいろいろな病名がつけられている。患者はその抑制しえぬ気分変調に悩み,その襲来をおそれているが,いつたんそれがやつてくるとそのとりこになつて前記のような行動におよんでしまう。
 ここにまずその数例をつぎに具体的にあげてみる。

向精神薬による錐体外路反応について

著者: 森温理

ページ範囲:P.63 - P.68

I.はじめに
 現在,多数の向精神薬が精神疾患の治療に使用されているが,とくにChlorpromazine以来つぎつぎに開発されているフェノチアジン誘導体に属する薬物はしだいに強力なものとなつており,そのmg/potencyが高まるにつれ,薬物による錐体外路反応は増加する傾向がみられる。
 これら薬物による錐体外路反応の出現頻度は使用薬物の種類,量および個体側の条件などによつてさまざまであるが,Ayd1)の報告によると平均3,775例中1,472例で38.9%を示し,かなり高率であるということができる。
 薬物による錐体外路反応をとりあげた報告はDelay2),Freyhan3)4),Ayd1),Haase5)6),McGeer7)を初め数多いが,われわれも臨床精神薬理の問題の1つとしてこの点に関心をもち,その形態,薬物との関係,治療などについて2,3の知見を発表した8)9)。今回は,最近における経験をまとめ若干の考察をこころみたので報告する。

慢性経過をたどる精神分裂症に対するProthipendyl(Timovan)の比較的大量投与と関連して

著者: 野村章恒 ,   与良健 ,   中江正太郎 ,   川尻徹 ,   桜井穰

ページ範囲:P.71 - P.74

I.まえがき
 Linke, H. 2)4)によれば,ProthipendylはChlorpromazineと比較すると,鎮静効果は,緩和で催眠作用は弱く,抗Histamine作用ならびに抗Allergie作用は強力であるといつている。中村ら5)や,Hift, St. 1)によると,精神分裂病型のなかで,妄想型にもつとも効果があり,妄想型の人格可塑性のかなりたもたれているものに有効であつて,新鮮例,再発例には著効があり,妄想を消す作用があるという。また中村らはその臨床経験から,緊張緩和作用がそのおもなる効果であるといつている。
 われわれは,このProthipendylの作用や臨床効果を参考として,3年以上の慢性経過をたどる精神分裂症患者に,比較的大量の投与をこころみたのでその結果につき検討してみたい。対象とした患者は,男子10例,女子1例の慢性経過をたどっている患者で,1例は,Philoponismusの既往があり,1例は,興奮,衝動行為を対象として,Lobotomieを受けている。諸種の治療で反応せずまた,妄想体系の存在を認め,Prothipendylの比較的大量投与によつてより積極的な精神療法的接近の可能性を求めようとしたわけである。

動き

精神衛生活動における研究と組織とについて

著者: ,   金子仁郎

ページ範囲:P.75 - P.78

 公立と民間の精神衛生団体の協力は実際活動のみならずこの分野の研究にも役にたつ。しかし研究は多くの現存する精神衛生機関の第一の関心事ではない。それゆえにわれわれは精神衛生活動における研究というものの意義について自ら考えてみなくてはならない。
 mental healthには狭義のものと広義のものがあり,mental hygieneにも狭義のものと広義のものがある。先のもの(狭義)は治療やリハビリテーションに医学的および精神医学的助けを必要とする精神病患者や障害者に関係しており,この意味ではmental hygieneは社会精神医学と同義語である。
 広渡のmental healthとInental hygieneの意味と目的はすべての人の身体的,精神的,および社会的福祉であり,WHOの理念に沿うものである。ここでは医学および精神医学的な問題は一義的ではなく——あるいはむしろ考慮されないで——,各専門分野にわたる問題である。
 mental healthおよびmental hygieneのこれら2つの考えかたは重複し,補い合うものでこれは方法論的に必要であり,また有意義なことである。いずれの場合にも基礎的および応用的研究が必要である。われわれはあらゆる種類の精神障害の原因や特性を明らかにしなくてはならず,また種々の精神障害や異常行動をなおしまた予防する目的と義務を有する。

紹介

—George L. Engel著—Psychological Development in Health and Disease—健康と疾病における心理的発達

著者: 島崎敏樹 ,   三好ひそか

ページ範囲:P.79 - P.81

 本書は著者の10余年にわたる医学部学生に対する講義をまとめたものである。
 著者なりの疾病,健康の概念を説くために,人間の心理学的な発達の仕方を,その道々将来の病芽がどのように発生するかを考慮しながら説明し,ついで既存の疾病概念を批判し,新しい概念をうちだし,それにもとづいて,psychiatric diseaseを検討しようとしている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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