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雑誌目次

雑誌文献

精神医学6巻10号

1964年10月発行

雑誌目次

展望

精神病質の問題点—治療への手がかり

著者: 新井尚賢

ページ範囲:P.729 - P.737

Ⅰ.はしがき
 精神医学において,精神病質の問題ほど混沌とした領域はない。まずその混乱は精神病質の概念規定に始まるといえる。一面において,精神病質という言葉を,従来きわめて安易に使用してきたという非難があることは当然である。そのうえに世界各国における精神病質概念がかなり異なつていることも問題である。精神病質の治療や予防の問題を論ずるには,まずその概念規定を一応整理し,ついで素質・環境の力動性を考察することによつて始めなければならない。精神病質類型学の問題もこれに関連するが別の機会にふれたいと考える。
 精神病質は広汎にして,しかも社会的にきわめて重要な諸問題を内包しながら,精神医学における孤児的存在として取り扱われてきた。この事実は精神薄弱についても同様であるが,後者のほうが前者より,その概念規定,病因論などがやや明らかな関係もあり,その治療や予防の問題についても比較的具体的な方法がとりあげられている。第2次大戦前のドイツを中心とするヨーロッパ精神医学界における精神病質問題のように,どちらかというとその素質優位性を強調する立場に立つたままでは,その治療の問題となるとまつたく不可能ということになる。いいかえると,精神病質はSchicksaismässig,unkorrigierbarであるという一般的な考えかたではtherapeutischer Fatalismusにおちいらざるをえなかつたのである。もつとも実際は必ずしもそうでなかつたことについては後述する。

研究と報告

一組の一卵性双生児に見られた強迫神経症の完全一致例

著者: 田島昭 ,   菱山珠夫 ,   堀越伸行

ページ範囲:P.739 - P.745

I.まえがき
 精神分裂病,躁うつ病,てんかんなどのいわゆる内因性精神病の病因論的研究にとつて,双生児法は大きな寄与を示してきたが,神経症の双生児の系統的研究としては現在までのところ飯田およびSlaterの研究が見られるにとどまつている。ところで強迫神経症に関してはE.Bleulerらにより分裂病との密接な関連が指摘されているほか躁うつ病,てんかんなどとの関連性が論ぜられており,一方幼児期の生活環境などの生活史的背景の重要性も強調されている。さてわれわれは一組の一卵性双生児にほとんど同時に発現した強迫神経症でその強迫症状がお互いに相手の動作を真似しないと気がすまないという特徴を示した症例を経験した。かかる症例は井上,飯田の述べているごとく文献的に見て報告例が少ないばかりでなく,各症例についてそれぞれ示唆するところが多いと考えるのでここに報告する次第である。

テストより見たる痴呆の研究

著者: 小野和雄

ページ範囲:P.746 - P.760

I.緒言
 精神医学の臨床では,ある患者について痴呆(dementia)の有る無しを簡単に口にする習慣があるが,その痴呆の種類や程度については印象的診断にとどまる場合が多い。この点,多くの知能検査法が考案され実施されている年少者の精神薄弱の場合と対蹠的である。たとえば老人の患者を例にとつてみると,その精神障害一般に関する研究は多いが,とくに老人ボケないし痴呆についてテストの研究は意外に少ない。わずかにMuenchi1)(1944),Charles2)(1953)らの不完全なものが見られるだけで,わが国においても村松3)(1932),金子4)(1956)のもの以外見るべきものがない。また老人の場合以外を含めて痴呆そのものについての文献もまとまつたものが少なく,著者の知る範囲では,Jaspers5),Scheidt,石橋6),西丸7),J.Zutt8)らを見るにすぎないし,その場合もまた痴呆の概念的な検討が主であつて,テストその他の実験による研究ではなかつた。
 著者は成人用知能検査法として考案されたWechsler-Bellevue Scaleによって痴呆の研究を行ない,老年性痴呆,進行麻痺,脳動脈硬化およびてんかんにおける痴呆の異同を比較検討し,若干の所見を得たのでここに報告したい。

精神分裂病および躁病と診断されたKlinefelter症候群の1例

著者: 三浦岱栄 ,   延島信也 ,   山藤政夫

ページ範囲:P.761 - P.767

Ⅰ.はじめに
 Klinefelter症候群は男子における性腺発生・発育障害を主徴とする症候群の一つで,初め1942年にKlinefelter, Reifenstein & Albright1)によつて,男子のつぎのような特徴のある患者につけられたものである。
 1)倭小睾丸
 2)無精子症
 3)外陰部発育は比較的正常
 4)女性化乳房
 5)尿中Gonadotrophin(FSH)高値
 6)17-KSのほとんど正常排泄

精神病院における入院の様相について

著者: 柴原堯 ,   井口芳雄

ページ範囲:P.769 - P.773

 精神病院における精神疾患者の在院生活とその入院時様相の意義について条件分析を行なつた。
 (1)精神病院における在院患者の生活は,比較的少数の生活空間の広い患者をのぞいては,他の疾病における入院のごとき例外状態ではなく,長期間の過去および未来にわたる日常生活そのものであり,治療よりとり残されてその生活空間は閉ざされたまま経過していくものが多い。
 (2)これらの精神疾患者は,その入院にさいしてすでにその世界の狭隆化と非人間化をその家族によつてもたらされ,それは家族にとつて精神病院は科学的認識をこえた別個の閉鎖集団を意味することによつている。
 (3)このような状態の在院患者に対しては,その日常生活の場を病像により分類するとともに,その内容を社会的日常生活に近づけることが社会再復帰のための生活療法をより治療的に効果あらしめるものと考えられる。

ナルコレプシーの薬物治療—第2報 感情調整剤およびその他の向精神薬の効果

著者: 高橋康郎 ,   本多裕

ページ範囲:P.775 - P.784

I.まえがき
 第1報では中枢神経刺激剤(精神刺激剤)のナルコレプシーに対する効果について報告したが,睡眠発作,傾眠傾向以外の脱力発作,入眠時幻覚,睡眠麻痺,熟眠困難などの症状には中枢神経刺激剤のみの投与では十分には抑制できない症例が多いことを述べた24)
 ナルコレプシーの治療の歴史をかえりみても,治療のおもな目標は睡眠発作,傾眠傾向の抑制におかれ,脱力発作の治療に関する報告は少なく,Dynes(1943)6)がKClの効果のあつた6例を報告し,Roth(1953)18)はtrimethadione(Tridione)が脱力発作のある19例の約半数に有効だつたと述べ,Airdら(1953)1)はphenacemide(Phenurone)が脱力発作を抑制し,二次的に睡眠発作にも有効であつた3例を報告しているにすぎない。

資料

精神衛生審議会の意見書、中間答申書

著者: 林暲

ページ範囲:P.785 - P.790

 7月号および8月号に例のライシャワー事件以後の精神衛生法改正その他の問題をめぐる動きについて紹介したが,その後実際の審議は夏の間公式には行なわれないかたちで過ぎたので,参考資料として,また後に記録として残すため,今年4月21日法改正の諮問にさきだつて審議会から自主的に提出された意見書と,同じく7月25日に法改正のために主として予算措置を必要とする面について述べられた中間答申を紹介する。さきの記事,また学会誌の総会号にのせた精神神経学会の法改正の基本方針案その他も参照されたい。

動き

第120回アメリカ精神医学協会年次大会

著者: 井上英二

ページ範囲:P.792 - P.793

 1964年5月4日から8日までLos Angeiesで開かれたこの学会には,日本から140人以上の精神科医や精神病院長が団体を組んで大挙出席した。9年前の第111回大会(N. J. のAtlantic City)では日本人は私1人だつたのと比べると大へんな変りようである。
 今年の年次大会にアメリカ精神医学協会(APA)によつて招待された1人として,この大会の模様,それを通してみた最近のアメリカ精神医学の傾向,あるいは私達が出席したことに対する反響などを紹介しておくことはひとつの義務のようなものであろう。

紹介

Karl Leonhard教授について

著者: 黒沢良介

ページ範囲:P.794 - P.795

 本年11月にSchulze博士とともに来日を予定されているHumbolt大学精神科教授Karl Leonhardはことしの3月21日に満60歳の誕生日を迎えた。それを記念して,同教室のOberarztであるBergmann女史がPsychiatrie, Neurologie und Medizinische Psychologieに短かい文章を書いているので,以下それを紹介する。
 「著名な科学者がかれの60歳を終えるときには,友人や門下生はかれに捧げる仕事によつてかれを讃えるのがふつうである。ところが個人的にすべての名誉を嫌うLeonhard教授はわれわれ門下生に誰にもかれの誕生日を注意することを禁じ,それを予防した。同時に,門下生に対してかれに仕事を捧げるかわりに,かれと共同して2つの主題の仕事をすることを望んだ。かれの誕生日の機会に精神・神経科学の共同者と一緒に2冊の本を出版することになつた。その一つはNormale und abnorme Persönlichkeitで今年中にVerlag Volk und Gesundheit, Berlinより出版される予定。他はDie klinische Lokalisation der Hirntumoren in der Kritik der technischen, bioptischen und autoptischen NachprüfungでVerlag Joh. Ambr. Barth, Leipzigより今年中に出版される予定である。かれが教室の共同者のすべてを2つの本のいずれかに関与させるように励ましたことはかれの偉大な科学的良心の現われである。かれ自身は本の重要な部分を自分で書き,他の部分にもすべてかれの考えをもって助言するという非常な努力をした。

—Aulus Cornelius Celsus 著—De Medicina 抄

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.797 - P.800

 ここにその一部を紹介する“De medicina”(またはDe re medica)はラテン語で書かれた最初の科学的医学書である。その著者はAulus Cornelius Celsus,著作の年代はTiberius帝統治下のA.D.30年前後であろうとされている。通説によればCelsusはおそらく臨床医家ではなく,いわゆるエンサイクロペジストで,ほかにも農業,戦術,修辞学,哲学,法律に関する著述があつたが,「医学書」全8巻以外はすべて失われた。そしてこの「医学書」自体も中世においてはまつたく忘却されていたが,たまたま1478年,ローマ法王Nicolaus V世が入手した写本のなかから発見され,印刷出版されるにいたつた。古典文筆家のなかで最初に印刷される幸運に浴したのがCelsusその人である。HippocratesやGalenosのラテン抄訳が印刷されたのはこれより後,1483年のことであるという(Leibbrand)。
 Celsusによりしばしば引用されているBithyniaのAsciepiades(c.124-c.40 B.C.)はギリシャ医学をローマに移植した功労者であり,医学的立場としてはDemocritosの原子論的傾向が強いといわれている。このAsclepiades門下にTitus Aufidius Siculusなる人物がおりかれのギリシャ語の原著をそのままラテン訳したのが本書であるとの説(Marx)があり,あるいはいくつかのギリシャ語医典を編集したのが本書だとの説もある。しかし一方においてde medicinaほどの完全で正確な体系はきわめてすぐれた専門家の手になるものに違いないとの説もすてがたい(Spencer)。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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