icon fsr

雑誌目次

論文

精神医学6巻11号

1964年11月発行

雑誌目次

特集 向精神薬・抗けいれん剤の効果判定法

効果判定法の研究をめぐつて

著者: 懸田克躬

ページ範囲:P.809 - P.812

 どのような治療法であつても,いつでも,その治療法が,ある疾病や症状にどの程度効いたかという吟味,いわば,効果の有無やその有効性の度合いについての勘案がなされている。薬物を介する療法でも,当然に,他の療法の場合と同じようになされてもいるし,しなければならないことはいうまでもない。ある薬物の適用範囲もこのような評価から生まれてくるわけである。この評価という過程はいつも意図的に組み立てられるわけではない。われわれは,しばしば,個人的な未分節的な使用経験からつくりあげられるいわゆる「臨床的経験」という素朴なふるいに頼ることをしていたのであつた。あるいは,ひとりびとりの,非計画的な「臨床的経験」の集積が生みなす帰結を待つて結論し,しかも,時間の要因が,おそらくは,大きい比率を占めているに違いないこの集団的な評価法は,ある報告者の主観的評価は正しくある報告者の同様の評価は当らぬものであつたに違いないにもかかわらず,結果としてはかなり正鵠を射たものとなることも,われわれの経験したことであつた。このような事情は,精神医学というわれわれの専門領域においても同じであり,さまざまの療法が,この評価法のふるいにかけられて姿を消していつたことは,われわれの臨床生活における経験として身近かに見てきている。

抗うつ薬の臨床評価に関する研究

著者: 秋元波留夫 ,   栗原雅直 ,   藤谷豊 ,   佐々木邦幸

ページ範囲:P.813 - P.825

I.まえがき
 精神病の状態像をRating Scale(以下R. S. と略す)によつて客観的・数量的に表現するこころみは,多くの研究者によつて行なわれている。うつ病を対象とするR. S. に関しても,1930年に発表されたH. H. Jasper9)のDepression-Elation Test以来,とくに最近数多く研究されるようになつてきている。
 これらの研究の多くは,たとえばBeck2),Overall13),Wechsler16)らのごとく,質問紙法によつてうつ病患者の精神的傾向を評点化し,その状態像の把握の信頼性を高めることに努めている。

精神分裂病

著者: 佐藤倚男 ,   西村真 ,   加藤敏夫 ,   高橋良 ,   金田良夫 ,   堅田明義 ,   成瀬浩 ,   小木貞孝 ,   加藤誠

ページ範囲:P.827 - P.837

I.まえがき
 向精神薬の効果については,従来からも種々の研究がおこなわれている。しかし,ひとくちに薬剤の効果といっても,効果を判定する観察者と,対象となる患者の両面についてしっかりした方法論的な準備をもたなければ,主観的な因子が混入して素朴経験的な結論にながれてしまう1)。従来行なわれてきた数多くの研究には,この面の反省が足りないために,発表された薬物効果を他に利用したり,結果を比較したりする際に多大の不便があった。
 われわれは,そこで,向精神薬の効果判定の客観化をくわだて,種々の偽似薬物効果を消去しうる方法として,二重盲検,偽薬法を採用し,また使い易い症状評価表を2種類考案し,このシステムによって従来もっとも一般的にもちいられている4薬剤の効果を判定し,それを整理してみたのである。この場合,われわれの意図したのは,第1に,対象患者の病状の時間的推移をできるだけわかりやすく整理表現すること,第2に,使用薬剤の特性を分析することである。なおこの効果判定法は,いわゆる「三大学(東大,東京医歯大,東京医大)法」として,内外の学会にも発表され2)5),全国12大学の組織する臨床精神薬理研究会でも各大学による検討がおこなわれ,非公式な発表がおこなわれている。

抗てんかん剤

著者: 田縁修治 ,   後藤蓉子

ページ範囲:P.839 - P.849

I.はじめに
 昨今てんかん発作に対して治療効果を有する薬剤が,さまざまな領野から新しく開発されること頻りであるが,その臨床効果の判定結果がそれぞれの臨床家により異る場合のあることもしばしば経験される。そこで昭和38年度のてんかん研究班々会議では,抗てんかん剤の臨床効果判定規準をさだめ,病歴記載方法をも統一して,判定結果に大きな狂いを生じないよう画一化をはかることが討議された。班では抗てんかん剤効果判定小委員会を仮選し,ここで具体的な諸問題について案を練つた結果,試案としてパンチカード形式の「抗てんかん剤臨床効果判定表」を作成した。また,パンチカードに親しめぬ場合のために,別に「抗てんかん剤効果判定カルテ」をつくつた。ここからパンチカードへの転記が容易に行なえるように記載項目をくふうして配列したつもりである。いずれも実用にのぞんでは改善すべき点が多々出現するであろうが,討議の骨子となる部分はあまり変るまいと思われる。そこで今回は,この二つの表の説明を中心として判定規準の説明にかえたいと思う。
 まず「抗てんかん剤効果判定カルテ」をあげて各項ごとに規定を説明し,次に,同一内容で体裁の異なるパンチカードの「効果判定表」を説明しよう。

資料

抗てんかん剤の効果判定に関する問題点—アンケートの結果を中心として

著者: 順天堂大学精神神経科教室臨床脳波グループ

ページ範囲:P.851 - P.857

I.はじめに
 1912年ドイツの神経生理学者Hauptmannによりてんかん患者にPhenobarbitalがもちいられるようになつて以来,てんかんの薬物療法は急速な進歩発達をとげ,抗てんかん剤の種類も,まさに百花繚乱の感があるのが現状である。
 しかしながら,このような多数の抗てんかん剤の出現にもかかわらず,各種の薬物に抵抗をしめす,いわゆる難治性てんかんが存在することも事実であり,和田1)によればおよそ6%にみられるという。
 われわれてんかんの治療に掌るものにとつては,この数値を如何に減らすかに焦点をしぼるべきであろうが,それに先立つて,まず既存の抗てんかん剤の効果判定がどのようになされ,どのようにうけいれられてきたかについても,十分に吟味再検討されねばならない段階とおもわれる。

研究と報告

異常脳波を示したヒステリーの2例—θ波の臨床的意義について

著者: 中沢洋一 ,   大村重光 ,   生田啄巳

ページ範囲:P.859 - P.865

I.はじめに
 てんかんをのぞく精神医学の領野においては,臨床脳波の所見に関して多くの報告がなされながら,こんにちにおいてもその全貌は明らかにされたとはいいがたい。とくに4c/sから7c/sまでの中間徐波に属するθ波については,古来多くの研究によつて精神症状との関係が指摘されているにもかかわらず,その臨床的意義ないしは発生機序については,こんにちにおいても決定的な知見に乏しい。
 θ波のなかでも,発作性に群発する高振幅のもの,あるいは鋭波の型を呈するものは,てんかん性異常脳波の所見の一つと考えてよいのであるが,しかし,Hill以来多くの人によつて認められてきた,ある種の精神疾患や精神病質に記録される比較的低振幅の,持続的ないしは散発的なθ波の臨床的意義にについては,すでに述べたように現在においても結論的見解はえられていないのである。
 われわれは,種々の精神疾患に見られるθ波の臨床的意義をよりいつそう明らかにするために,多くの症例について,縦断的および横断的な研究を行なつて検討を加えてきた。その詳細については,近くべつの機会に発表する予定であるが,今回われわれが報告する症例は,いずれも明瞭な心因によつて発現した著明なヒステリー症状の経過が,脳波に見られるθ波の変動といちじるしい相関を示した症例であり,θ波の臨床的意義を考察するさいに,一つの資料になるものと考えている。

紹介

—H. KRANZ,K. HEINRICH 編—精神安定剤と精神分裂病—Neurolepsie und Schizophrenie

著者: 石川清

ページ範囲:P.867 - P.870

 この本は1962年の3月23日と24日に,Bad Kreuznachで,Mainz大学神経科の主催のもとに,ドイツ各地の精神科医が参集して開かれた,専門的なシンポジアムの集会記録である。即ち,主題のテーマについて,臨床精神医学の立場から,多角的に,かつ深く研究,討議されている。
 ドイツ系の精神科医には,薬物療法に関して強い関心をもち,斬新な研究方針のもとに,粘り強く仕事を続けている人々が多いが,その活動の一端は,今夏英国で開かれた国際精神薬理学会においての各発表や,米英の学者との見事な討論にも十分に認められたとのことである(出席した秋元教授の帰朝談)。

--------------------

電気ショックの発見者はAldini(1804)?

著者: 三浦

ページ範囲:P.870 - P.870

 近着のAnnales médico-psychologiquesの122 année,t. 2,No. 1,1964にAndré Bourguignonが「メランコリーに対する電気ショックの治療的効果のAldini(1804)の発見」と題する小論文がのっている。
 本来の置気ショックは同じくイタリー人のCerlettiとBiniによって発見されたことは(1938)事実だが,それより30年以上前にすでに電気を頭部に通電することによってメランコリーが著しく軽快することを実験したのはAldiniであったのである。その論文は1804年に巴里,ボロニア,ロンドンで同時に出版されたEssai théorique et expérimental sur le galvanismeという書物に出ているという。galvanismeというのは電気(直流)を生物に通すことにより,筋収縮,腺の分泌その他の刺戟をすることをいう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?