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文献詳細

雑誌文献

精神医学6巻2号

1964年02月発行

特集 神経症の日本的特性

昭和38年精神病理懇話会より

神経症問題の背後にあるもの

著者: 池田数好1

所属機関: 1九州大学教育学部

ページ範囲:P.89 - P.94

文献概要

 ここで筆者が述べようとすることは,神経症そのものの日本的特徴というより,むしろ,わが国の社会・文化的背景と神経症との間にあつて,直接間接に,神経症やその治療といつたものに,わが国特有の性格を与えていると思えるような,一,二の要因についてである。いわば,神経症をとりまく周辺の問題のなかにひそんでいる日本的なもの,についてである。
 一般に,臨床精神医学の諸問題は,その制度的な面はいうにおよばず,理論的・実践的な点においても,それをうみ出した国の,社会・文化的背景を考慮することなしには,その特徴を理解することが,おそらく困難であろうと思える。とくに,問題が神経症のこととなると,この関係は,いつそう切実なものになつてくることはいうまでもない。というのは,まず何よりも,神経症の形成に重大な意味をもつ心因とよばれるものが,いわば,病者のパースナリティの中核をおびやかし,その統合を危うくするような心的要因である。いつたい何が中核となるかを決定する要素の一つは,その人のもつ価値観によつて,したがつてまた,その人の生活史をとりまいていた社会の,指導的な価値体系によつて,多分に影響されるものである。病者をとりまく社会の,文化的構造のなかに,症状形成の直接の根がのびていると考えることができる。そのことは,おそらく,ある国にみいだされる神経症の類型や病像に,少なくとも量的な,あるいは,ある意味では質的な差異までもうみ出すであろうことを予想させる。したがつてまた,神経症の理論構成や治療の技法といつたものに,何か微妙な色あいの違いを与えることにもなるであろう。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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