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雑誌目次

論文

精神医学6巻3号

1964年03月発行

雑誌目次

展望

芸術療法の近況

著者: 徳田良仁 ,   五十嵐衡 ,   栗原雅直

ページ範囲:P.167 - P.180

I.まえがき
 精神医学の領域は,近時,まことに多岐にわたり,さらに境界領域を含めるときには,その広汎さに驚くばかりである。
 さて古くから芸術は単に人生に対して,喜びや,装飾に有用であるばかりでなく,あるときには病に悩み,あるときには苦悩に苛まれたときの,よき鎮静剤としての役割をはたしてきたことは周知の事実である。

研究と報告

発作性異常脳波を伴い,精神分裂病様症状を呈した1問題児について

著者: 木戸又三 ,   金田良夫

ページ範囲:P.183 - P.187

 強い被害念慮と脳波上cardiazol低閾値を示す母を持ち,知能的に境界線児で,日頃行為問題児である14才の少年に,一過性の経過で体感異常を主とした幻覚,被害妄想,不安恐怖感,精神運動興奮等の症状からなる精神分裂病様病像が発呈した。臨床的にはてんかん発作がないのに,脳波上には汎性両側同期性非定型spike and wave complexを示す発作波が認められた。この診断について種々考察したが,この少年の発呈した分裂病様病像については,器質的脳疾患,てんかん,精神分裂病あるいは非定型精神病など色々な疾患が考えられ,結局現状ではどれとも決め難く,今後なお長期にわたつて経過を観察する必要がある。

いわゆる混合性頭重薬嗜癖の1症例

著者: 明石淳 ,   大島重利

ページ範囲:P.189 - P.192

I.はじめに
 近年,解熱鎮痛剤,カフェインおよび睡眠剤などが混合されている頭重薬が,さまざまな商品名を付けられて,誇大な宣伝とともに販売されている。また,これらは非麻薬性鎮痛剤と称せられているが,身体的および精神的な苦痛をやわらげるのにかなりな効果を示すので,習慣的服用を起こしやすい薬剤である。このため,すでに資本主義諸外国では,さまざまな生活上の困難がいちじるしく増強してきたこと,しかもこの種の薬剤が容易に手にはいることなどの理由から,これらの薬剤の嗜癖あるいは中毒のいちじるしい増加が現われているという1)2)。わが国もこの例外ではないはずであるが,われわれのクリニークでは,このような頭重薬嗜癖患者に出会うことは非常にめずらしい。本症例は,いちじるしい精神障害を現わしていたわけではないが,今後これが何かの参考になれば幸いと思うので,ここに報告する。

顰眉様の一表出について

著者: 遠坂治夫

ページ範囲:P.193 - P.196

 著者のある種の患者の初めてのインタビューにおいて見られるかるい顰眉様の前額部の一過性の「かげり」としての表情表出に注目し,それがおおむねインタビュー状況において談話が患者の心的葛藤にふれるさいに前後しておそらく不安の表現として現われること,この種の患者は広い意味での分裂病圏に近いものが多くしかもその人格水準のまだよくたもたれているものであること,この「かげり」は真の顰眉の原型としての位置をもつ可能性もあること,を報告した。

精神薄弱者の挿間性精神病—臨床精神病理学的観察

著者: 尾野成治 ,   森慶秋 ,   八島祐子 ,   兼谷啓

ページ範囲:P.197 - P.202

I.序論
 精神薄弱者(以後,精薄者と略記)に現われる精神病状態は,接枝破瓜病のような慢性難治性で欠陥を残すものをのぞけば,多くは一過性で予後がよく,欠陥を残さずに寛解するものである。このような精薄者の一過性精神病については学者により種々の名称がつけられている。Brendel1)はこれを精薄精神病のAmorphe Zustandsbilderとよんだ。Brendelによればこれは精薄の比較的重症者に多く,一過性に躁うつ性または刺激的となり,不安・錯乱・幻覚妄想が現われ,これがはなはだ複雑に入りまじるほかにいわゆるKatatonといつてよいような昏迷・拒絶・律動的多動性興奮が合併する。しかし基本的な流れは抑制と興奮,ないしは両者の変換を特徴とするまとまりのある病型であるとしている。このBrendelの見解は,われわれがここで報告する精薄精神病の特徴をよくとらえており,これには他の学者も意見がほぼ一致していると見てよいように思う。このような病像をSioli-Neustadt2)は精薄のEpisodische Psychosenとよんだ。W. KretschmerとAngelidis3)はE. KretschmerのPrimitivreaktionになぞらえてPrimitivpsychosenとよぶことを提案した。Medow4)はこのような状態をAtypische Psychosen bei Oligophrenieと題する彼の長編の論文で詳細に論じた。
 Mayer-Gross,Slater,Roth5)のClinical Psychiatryではこの精薄精神病はとくに問題とせずに,分裂病・躁うつ病・てんかんなどとの単なる合併という見地からながめているとみられる。

Chlordiazepoxideの静注による病像の変化—とくに診断面接の補助手段としての可能性について

著者: 諏訪望 ,   森田昭之助 ,   三浦敬一郎 ,   駒井澄也 ,   鈴木隆 ,   黒田知篤

ページ範囲:P.205 - P.211

I.はじめに
 Chlordiazepoxide(C. D. O.)が比較的選択的に不安,緊張,焦燥などに効果を示すことから,現在広くその経口使用が行なわれていることは周知のことである。最近われわれは,その注射用製剤を入手しえたが,ほぼ以下に示すような目的で臨床的に使用してみたので,その結果を報告しておきたいと思う。
 おもな目的としたことは,もしC. D. O. を静脈内注射することによつて,不安緊張,焦燥状態などが比較的速やかに改善されるならば,従来用いられてきたアミタールソーダによる面接,診断への応用が,本剤によつても可能ではないかということについてである。アミタール(イソアミールエチルバルビツール酸)が単に唾眠または麻酔作用だけでなく,シアン化ナトリウムや炭酸ガスと同様,一時的に緊張病者の昏迷を解き疎通性を生じさせるということを認めたのはBleckwenn1)(1930)である。彼によると,緊張病性昏迷状態の患者が睡眠から覚醒したのちに正常状態に復し,談話,摂食が可能になり,この状態は2時間から14時間つづくという。その後Lindemann3)らは睡眠を生じないような少量のアミタールを静注することによつて同様の結果をえ,本剤の価値は主として,診断,精神病理学的研究および精神療法の補助手段にあるとした。そして他の薬剤に比較して,運動の面より言語の制止をのぞく作用が特徴的でもあるとした。その後Hochらの知見があり,アミタールによるNarcoanalysis,Narcosynthesisなどの語も用いられるようになり,わが国においても多くの追試がなされてこんにちにいたつている。ただわれわれの経験によると,アミタールソーダの静注によつて,時として診断の補助や面接時の疎通性の喚起に有効な場合もあるが,精神状態が劇的に変化することは,症例の選択の問題があるにしても,必ずしも多くはないように思われる。また時には一定度以上の意識障害を起こすことも妨げの一つになる。

Biperiden(Akineton)の治療効果および正常者に対する作用について

著者: 中村剛 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.213 - P.221

I.はじめに
 James Parkinson(1817)12)によつて記載されたパーキンソン病は,その後類似の病的状態が各種の原因で起きることが知られ,広くパーキンソニズムの名称のもとに総括されるようになつた。また,最近精神科領域において,Phenothiazine系化合物やこれに類似の薬が向精神薬として用いられるようになつて以来,これら薬物によつて一過性ではあるが,しばしば,パーキンソニズム様症状が起こることが知られている。一方,アトロピン大量療法(Kleeman,1929)およびスコポラミン大量療法(佐々,1934)が提唱されて以来,この両者はパーキンソニズムの薬物療法として長く賞用されてきたが,近年各種の新合成剤の出現によつて,本症を中心とする錐体外路系疾患の薬物療法は,ようやく新しい発展段階に到達した感がある。
 われわれは,これら新合成剤のうち,大日本製薬提供のbiperiden(Akineton)について,その治療効果および正常者における作用を検討した。

資料

精神科領域における特殊薬物療法と病的肥満

著者: 長坂五朗

ページ範囲:P.223 - P.233

I.緒言
 1952年にクロールプロマジン,レセルピンが精神科の特殊薬物療法として導入されて約10年,その後類似の薬物が数多く出現し,こんにちでは精神科領域とくに精神分裂病の治療においては,その中軸をなすようになつてきていることは誰しも認めるところであろう。しかもこれら薬物は安全かつ容易に与えうるところから,精神障害者のリハビリテーションの効果的な実践を含めて,その治療体系さえ変えるほどに劃期的な役割をはたしつつあるように思われる。すなわち単に急性期あるいは亜急性期の精神症状または慢性状態の精神症状を抑制するのに役立つのみならず,ふたたび病的体験の現われないように,アフターケアの段階においても,長期間服用せしめ,(維持量として),リハビリテーションを効果的ならしめようとする方向に精神障害者,ことに精神分裂病の治療の焦点が移りつつあるように思われる。したがつて特殊薬物の長期投与ということが,現実の問題として要請されてきている。これら薬物が使用され始めたころ,薬物の副作用あるいは随伴現象として多くの身体的反応があげられ,パーキンソン症候群で代表されるこれらの副作用は,使用当初こそ驚異的であつたが,こんにちでは日常茶飯事のこととしてむしろなれつこになつており,同時にそれらの副作用を抑制するアンタゴニスティックな作用を有する塩酸プロメタジンなどの使用により,このような副作用も,こんにちではほとんど問題にならなくなつている。ところでかかる特殊薬物を長期投与した場合,いかなる副作用ないし随伴現象が精神的,身体的に起こるものかに関してはまだあまり追求がなされていないようである。特殊薬物を長期間投与すると器質的障害,痴呆などがくると報告されていると聞いたことがあるが,われわれはまだその文献に接していないし,臨床的にそれを肯定するような経験もまだあまりないように思う。
 われわれは特殊薬物長期投与のさいの副作用ないし随伴現象という観点から,臨床的に発見しうるものを種々検討したが,いわゆる慢性的副作用とみなされるものは,表題のもの以外には見出しえないようである。もちろん理論的には奇型とか,遺伝に関した問題が考えられるが,これらはなお将来の問題であろう。

提言

ふたたびK. Jaspersの了解的方法について—石川氏の批評にこたえて—

著者: 前田利男

ページ範囲:P.238 - P.239

 本誌1962年11月号に発表した私の「了解的方法に関する一批判」に対し,東京大学の石川清氏より「批判のありかたについて」(同誌12月号)と題してきびしい批判がありましたが,これに対して私はここにその再批判を行ないたいと思います。
 まず石川先生ご指摘のごとく,私に独自の立場や見地がなく,それゆえに非独創的,非生産的であることは私自身も十分にこれを認めております。その理由は第一に私自身の研究不足により自分自身の立場なり,見地なりをいまだ見出しえないということを卒直に告白致します。第二にしかし,実験し実証しうる自然科学的な面においてならともかく,哲学的あるいは心理学的な精神医学の分野においてある特定の立場なり,見地をとることは,それ自体が批判的態度に逆行するのではなかろうかという危惧があるからであります。第三に,そこでむしろこの機会に私の立場や見地がないとし批判のありかたを問われ,かつJaspersやHeideggerに造詣深き石川先生ご自身の立場なり見地なりを明確に表明しご教示を仰ぎたく思つております。

紹介

—Ainslie Meares 著—The Management of the Anxious Patient

著者: 小此木啓吾

ページ範囲:P.241 - P.243

まえがき
 Dr. Mearesは,米国で訓練を受け,オーストラリヤのメルボルンで,精神療法の実際に従事している臨床医である。たまたま昨年8月に来日し,私たちとも懇淡したが,そのさい,現在印刷中だが,といつて話してくれたのが彼独自の治療理論,atavistic regressionあるいはatavistic theoryof mental homeostasisであった。そして,昨年になつて刊行されたのがここに紹介する本書というわけである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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