Chlordiazepoxideの静注による病像の変化—とくに診断面接の補助手段としての可能性について
著者:
諏訪望
,
森田昭之助
,
三浦敬一郎
,
駒井澄也
,
鈴木隆
,
黒田知篤
ページ範囲:P.205 - P.211
I.はじめに
Chlordiazepoxide(C. D. O.)が比較的選択的に不安,緊張,焦燥などに効果を示すことから,現在広くその経口使用が行なわれていることは周知のことである。最近われわれは,その注射用製剤を入手しえたが,ほぼ以下に示すような目的で臨床的に使用してみたので,その結果を報告しておきたいと思う。
おもな目的としたことは,もしC. D. O. を静脈内注射することによつて,不安緊張,焦燥状態などが比較的速やかに改善されるならば,従来用いられてきたアミタールソーダによる面接,診断への応用が,本剤によつても可能ではないかということについてである。アミタール(イソアミールエチルバルビツール酸)が単に唾眠または麻酔作用だけでなく,シアン化ナトリウムや炭酸ガスと同様,一時的に緊張病者の昏迷を解き疎通性を生じさせるということを認めたのはBleckwenn1)(1930)である。彼によると,緊張病性昏迷状態の患者が睡眠から覚醒したのちに正常状態に復し,談話,摂食が可能になり,この状態は2時間から14時間つづくという。その後Lindemann3)らは睡眠を生じないような少量のアミタールを静注することによつて同様の結果をえ,本剤の価値は主として,診断,精神病理学的研究および精神療法の補助手段にあるとした。そして他の薬剤に比較して,運動の面より言語の制止をのぞく作用が特徴的でもあるとした。その後Hochらの知見があり,アミタールによるNarcoanalysis,Narcosynthesisなどの語も用いられるようになり,わが国においても多くの追試がなされてこんにちにいたつている。ただわれわれの経験によると,アミタールソーダの静注によつて,時として診断の補助や面接時の疎通性の喚起に有効な場合もあるが,精神状態が劇的に変化することは,症例の選択の問題があるにしても,必ずしも多くはないように思われる。また時には一定度以上の意識障害を起こすことも妨げの一つになる。