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雑誌目次

雑誌文献

精神医学6巻4号

1964年04月発行

雑誌目次

展望

自殺の要因と心理機制

著者: 大原健士郎 ,   小島洋

ページ範囲:P.249 - P.263

I.まえがき
 自殺という現象を追求するとき,研究者の立場によつて,自殺は社会学的・生物学的および心理学的研究の3分野から取り扱われるのがつねである。そして各分野において,多くの研究が学者たちによつて積みかさねられてきた。その結果,問題によつてはすでに定説化したものもいくつかある。しかし,現在の資料にもとづいて「自殺」をながめるとき,はたして自殺というものが浮き彫りにされてくるかどうか,となるとはなはだ心もとないものがある。各学者からの報告を見ても,その成績はともかくとして,その考察において,結果的には矛盾をはらんだものも多いのである。各国との比較にしても,われわれは同一の立場に立つてこそ,資料の比較ができることを忘れてはならない。
 「自殺から始まる精神病はない」とはよくいわれることであるが,自殺を発現せしめる自殺前の心理状態を(たとえ,彼らが精神病者であるにしろ,ないにしろ)異常心理の状態であるとよぶことは許されるであろう。この展望では,異常心理状態を生ぜしめる諸要因について簡単にふれ,つづいて,自殺の心理機制に関する仮説のいくつかを紹介したいと思う。

研究と報告

精神症状を呈した全身性エリテマトーデスの1例—症状精神病の症候学への一寄与

著者: 吉田哲雄 ,   原田憲一

ページ範囲:P.265 - P.273

I.緒言
 症状精神病,器質性精神病,あるいは身体的に基礎づけられた精神病の症候学に関しては,近頃,症状群の回復可能性や,意識混濁の意義などについて,しばしば論議されている。
 われわれの観察した精神症状を呈した全身性エリテマトーデスの1例は,これらの問題について検討を加えるために好適な症例と考えられるので,ここに報告し,とくに,本例にみられた性格変化が著明に改善したことと,その性格変化とともに,同時に,「軽度の意識混濁」がみられたことについて考察したい。

失行に関する臨床統計的考察

著者: 大橋博司 ,   中江育生 ,   浜中淑彦

ページ範囲:P.275 - P.281

Ⅰ.
 失行症状に関する諸学説の紹介,展望,臨床型とその症状の記載,解剖学的問題などについてはすでにたびたび述べる機会があつた(大橋1)2)3))。したがつて今回はわれわれがこれまでに観察した失行症例の臨床統計に主題を限定し,失行症状をより具体的に把握してみたい。

慢性meprobamate中毒における禁断症状について

著者: 鳥居方策 ,   大塚良作 ,   岸嘉典 ,   中川昌一郎

ページ範囲:P.283 - P.287

I.はじめに
 meprobamateは種々のtranquilizerのうちでは毒性や副作用の少ないものの一つであるとされている。meprobamateがこんにち相当広く用いられているのは,もちろんこの薬剤が種々の疾患に対して有効なためであろうが,副作用や毒性の少ないことも理由の一つとしてあげることができよう。しかし,1956年にLemere12)はmeprobamateには嗜癖を形成する性質のあることを指摘するとともに,禁断症状としてけいれん発作を呈した慢性meprobamate中毒の1例を報告した。また,BarsaおよびKline1)も25人の分裂病患者におけるmeprobamateの臨床試験で6人が本剤の投与中止後にけいれん発作を起こしたことを報告している。その後,このような臨床報告が相ついで行なわれ2)3)5)6)8)14)19)23),また,動物実験においても多量のmeprobamateの投与を急に中止した場合にはけいれん発作の起こりやすいことが確かめられた4)20)
 わが国においても,成瀬17)はmeprobamateの投与を受けた患者のなかには本剤の服薬をいつまでも,希求したもののあることを述べ,嗜癖形成の傾向を示唆した。その後,奥村および池田18)は禁断症状としてけいれん発作を呈した慢性meprobamate中毒の1例を報告し,また,池田ら9)は長期にわたる大量のmeprobamateの服用を中止したのち,比較的少量のmegimideの静注によつてけいれん発作を呈した症例を報告した。
 最近,われわれは大量のmeprobamateをかなり長期間服用したのち,おそらく急に服薬を中止したためにけいれん発作を起こしたと考えられる2例,ならびに大量のmeprobamateの服用が,その後のけいれん発作の発現にある程度関係していると思われる1例を経験したのでここに報告する。

神経症に続発する慢性軽うつ状態

著者: 平沢一

ページ範囲:P.289 - P.295

 躁うつ病のなかにはかならずしも予後のよくない症例があることは,注意深い観察者によりしばしば指摘されている。定型的なうつ週期の症状がまつたくとれたと思われる例においても,いつまでも患者が発病前と比べて元気がなく,積極性に欠けるのを自覚していることがある。この状態は,これまで衰弱状態(Kraepelin Dreyfus),慢性持続状態(Weitbrecht),あるいは慢性状態(Kinkelin)などと記載されている。
 われわれはこれを慢性軽うつ状態とよんでいる。この特徴としてはつぎの諸点があげられる。(1)現在の人格水準の低下した前に,定型的なうつ週期がある。(2)軽症では患者はすでに仕事についており,一見まつたくなおつたと見えることも少なくないが,患者自身は発病前と比べて活発さ・元気さに欠けることをはつきりと自覚している。そしてこの人格水準の低下は,疲れやすい,根がつづかない,ちよつとした出来事にも動揺し,心の平静を失う,前には楽にできた仕事が容易にできず重荷になると患者に感じられる。(3)気分はなんとなく悲観的・消極的で,時には抑うつ的でさえもある。(4)しばしば眠りにくく,食事も進まない。つねに頭が重く,体がだるい。この身体の違和感がいちじるしくなり,心気的態度を生じることがある。(5)以上のごとき慢性軽うつ状態の症状は決して固定してしまうことなく,病勢は暫くよいときがつづくとまた後戻りして悪くなり,たえず一進一退の動揺をくりかえす。そして多くはしだいに快方に向かつていく。

Trifluoperazineの使用経験

著者: 島崎敏樹 ,   石黒健夫

ページ範囲:P.297 - P.305

I.まえがき
 Chlorpromazine,reserpineを初めとする精神科薬物療法は,その後もphenothiazine系薬物の誘導体がつぎつぎと発表され,より強力で毒性と副作用の少ない薬物へと開発されつつある。とくに最近はphenothiazine核がCF3基をもつたtrifluoropromazine,trifluorophenazineが最強力の薬物として知られている。
 われわれもこのたび,同様にCF3基をもち,きわめて特徴的な作用を有するTrifluoperazine(住友化学,製品名Tranquis,略称T. Q.)を使用する機会をえたのでその結果を報告する。

陳旧性精神分裂病集団に対するTrifluoperazineの影響—sociometryを一つの目指として

著者: 山村道雄 ,   米倉育男 ,   秋浜雄司 ,   大野勇夫

ページ範囲:P.307 - P.314

Ⅰ.緒言
 Trifluoperazineは,10-〔3-(1-methyl-4-piperazinil)-propyl〕-2-trifluometyl-phenothiazine dihydrochlorideという化学名を有する向精神薬であり,本剤には抗幻覚妄想作用などとともに自発性亢進作用が認められ,陳旧性精神分裂病者にもある程度の効果が期待できるといわれている。
 われわれも,Trifluoperazineを陳旧性分裂病集団に投与してその影響を観察したが,これまでの各種向精神薬の臨床効果の判定が臨床症状や行動観察を中心とした,いわば主観的なものが多かつた点にかんがみ,それを多少でも客観化しようとするこころみとしてsociometryを一つの指標として利用し若干の知見をえたので報告する。

資料

精神衛生鑑定

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.317 - P.322

I.緒言
 精神衛生鑑定(以下鑑定と略記)については,厚生省より「精神障害者措置入院および同意入院の取扱要領」(以下取扱要領と略す)が出ているので,それに従えば問題がないようであるが,私が精神衛生診査医として鑑定書や措置患者病状報告書(以下病状報告書)を見ると,不備または矛盾と思われるものがまれでなく,書く人による個人差の大きいのをつねづね痛感している。たまたま係員に鑑定書の矛盾などについて問合わせしてもらつても,なかなか納得してくれない。機会があれば,県下の鑑定医や精神病院長に対し,私の見解を述べたいと思つていたが,他方,これらの問題は全国的のものと考えられるので,本紙を借りて発表することにした。なお,この機会に,関係官庁に対する私の要望をも併せ述べたい。
 本文はあくまで私の個人的な私人としての見解で,官庁は関係がなく,診査医として述べるのでもない。考えの未熟や誤りについては,読者諸氏よりの御批判や御示教を期待している。

紹介

—V. B. Mountcastle Ed.—Interhemispheric Relations and Cerebral Dominance

著者: 野上芳美

ページ範囲:P.323 - P.330

 大脳半球優位性の問題は大脳病理学の領域における主要なテーマの一つである。周知のごとく,半球優位なる概念はJacksonの“leading hemisphere”に源を発し,本来は言語機能のごとき象徴機能が右利きの者では左半球に局在するという考えに由来している。しかし,さらに,言語以外の認知や行動などに関しても大脳は機能的に相称ではなく,それぞれの機能は左右いずれかの半球が優位性をもつものとされている。一方,機能的不相称の左右半球の相互関係に関し,あるいは左右の半球を連結している脳梁の大脳病理学的意義に関しては,最近まで不明の点が多かつた。わが国の氏家の業績(1952)は失語の際の傷害側と健側との複雑な機能的相互関係の存在を示唆したが,しかし現在もなおこの間の事情の詳細については十分解明されているとはいえない。
 さて,本書は大脳半球間の関連と半球優位性とをテーマとして,1961年Johns Hopkins大学で開催された学会の発表を集録したものであつて,上述の点から興味をそそられる内容を含んでいる。通常半球優位性という語を耳にするとき,われわれにはBrain,Hécaen,Penfieldなどの名が想起されるが,この書物の執筆者は臨床家よりも基礎医学や心理学の畑の人が多いのも特色である。本書を忠実に紹介することは,本誌の読者に興味がないことかもしれないが,一方,臨床面に重点をおいて紹介するとすれば本書の特色をそこなうことになる。むしろ本書の大部分を占めている生理学的ないし心理学的なアプローチこそ今後の脳病理学の一つの大きな方向(神経心理学neuropsychology)を示しているのではないかと思われる。従来のこの種の業績をみても,かなり実りの多いもので,筆者の個人的な感想では臨床的症候学とならんで重視すべきもののように思う。ゆえに比較的平均して紹介を試みることにしたが紙数の関係上満足な紹介ができないであろうことをお許しねがいたい。本書は11章から成り,これらは前記の1961年の学会におけるsessionにしたがつて4部門に大別され,各部門ごとに討論が挿入された形式をとつている。ここでもその内容にしたがつてsessionごとにとりまとめて記すことにする。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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