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雑誌目次

論文

精神医学6巻5号

1964年05月発行

雑誌目次

展望

心因論概説

著者: 小沼十寸穂

ページ範囲:P.333 - P.341

 展望とは,ある目標をたてて,文献を渉猟し,取捨批判しつつ,客観的所見を展開するのをいう。文献の多きを良しとし,客観性あるを可とする。私のこの「神経症学」についての展望は,あらためて文献を外に繰るものではなく,自分のなかにあるこの学のとらえかたに関するものである。したがつて月常この学を,症例をつうじて学ぶなかに礎きあげた自分の考えかたを展望しつつ吐露するにとどまるのである。私は先日「私の神経症学序説」1)なるものを発表したが,あれは序説で,書き流したため,まとまりも悪く,意をつくしえなかつたのであるが,これについてさらに述べてみよとの編輯者の意向のようであるから,このさい自分の考えかたを展望させていただく。型破りの手法であることは,あらかじめお許しをえておきたい(著者)。

研究と報告

早期幼児自閉症における他者の存在構造

著者: 中根晃 ,   小見山実 ,   三好ひそか ,   高橋徹

ページ範囲:P.342 - P.347

I.まえがき
 L. Kannerの早期幼児自閉症をヨーロッパで最初に報告したのはオランダのVan Krevelen(1952)13)である。これよりさき,Wienの小児科のH. Asperger1)2)が自閉性精神病質(autistische Psychopathen)という類似の病像を記載しており,Kannerの報告と同一のものと考えた。その後,ドイツ系の学界はアメリカ学派とは別の動きを見せている。その第1の論点はKannerの早期幼児自閉症とAspergerの自閉性精神病質が同じか否かであり,Stutte29)やKrevelen16)17)が両者の差異を述べている。第2は,早期幼児自閉症がLutz,Tramerの児童分裂病と並ぶものかどうかである。Krevelen13)は最初の報告では精神薄弱の一種とし,Popella25),Spiel27)は器質性のものとした。一方,Stern,Schachter28)は当時の世界大戦後の混乱を背景に母子関係の破綻に注日し,分裂病近縁のユニークな病とした。Zutt34)は,こういつた自閉の根本はBegegnungsscheuであるとして分裂病との関連を指摘している。さらにKrevelen15)は1960年になつてautismus infantumという症候群を設定し,精神薄弱,器質性脳障害,幼年期分裂病に普遍的に見られるとした。これについて牧田20)はKrevelenの症候群をKannerのそれと区別して仮性自閉症とする概念的な相違を述べたが,両者に本質的差異があるかどうかは不明といわねばならない。わが国での黒丸18),鷲見30)31),詫摩32),石島10),中沢22),平井7),井上9),坂岡26),石井8)らの研究も分裂病を想定する方向にあるがNosologieにいくつかの疑問を残している。私たちは「分裂病」ということを括弧に入れ,現象そのものの把握をめざしたいと思う。
 1958年Marburgで行なわれた第5回ドイツ児童精神医学会で自閉的小児が議題となり,Aspergerの自閉もKannerの自閉も,Bleulerの自閉と異なること,Bleulerのいう自閉は分裂病の症状としてとらえられるのに反し,Kannerでは自閉が分裂病それ自身となつていることが指摘された.石島10)はこの事態を自閉概念の混乱と述べているが,私たちは,日ごろなんの反省もなく使つている早期幼児自閉症に見られる自閉の概念を再検討すべきことに気づかねばならない。

各種抗酒剤の抗酒効果に関する臨床的研究

著者: 挾間秀文 ,   梅末正雄 ,   向井彬 ,   一木子和 ,   出田哲也

ページ範囲:P.348 - P.360

I.はじめに
 アルコール中毒の医学的な治療法には,広い意味での精神療法と薬物療法があると思うが,ここでは薬物療法を行なうさいに用いられる抗酒剤について,その臨床的な問題点を検討した。
 1948年E. Jacobsen & J. Hald1)がDisulfiramを発表して以来,催吐剤を用いるそれ以前の療法に比べて,アルコール代謝を直接阻害することによる,より合理的なアルコール中毒の断酒療法が行なわれるようになつた。これについで,同じような原理による石灰窒素(Calcium Cyanamide)をもつてする治療法が提唱されるようになつたが2)〜6),これらはいずれも抗酒剤-アルコール反応を利用した条件反射的療法であるため,抗酒剤服用後のアルコール反応がむしろ過激であることが期待された。したがつて,これらの研究においては,もつぱら厭酒効果という点から抗酒剤のevaluationがなされてきた。これに対して向笠7)8)は,Cyanamideの使用にあたり,「飲酒嗜癖を含む慢性アルコール中毒者たちを酒ぐせのよい危険量以下の節酒に導びく」いわゆる「節酒療法」を提唱し,抗酒剤の新しい使いかたを発表した。そして,この節酒の可能性としてCyanamideの抗酒効果が,アルコール代謝に対しDisulfiramとは異なる阻害作用をもつためであると説明している。
 そこで,われわれは従来抗酒剤として用いられてきたものについて,その抗酒剤-アルコール反応に差異があるか否かを客観的に評価し,抗酒剤の臨床的応用についてあらためて検討する目的のために,つぎのような臨床実験を行なつた。

シンナー嗜癖の3例について

著者: 大原健士郎 ,   小島洋

ページ範囲:P.363 - P.367

I.はしがき
 昭和38年7月,麻薬取締法の一部改正により,麻薬犯罪の罰則強化と中毒患者の強制入院措置が施行されて,現在,精神病院で取り扱う麻薬中毒患者の数は非常に少なくなり,かげをひそめるようになつてきた。かれらが,いかなる手段で法の目をくらましているかはさておき,麻薬に代わるものとして,ある種の薬剤が使用される傾向にあることは見逃がすことはできない。ここに報告するシンナーも,麻薬の代用品として用いられる場合があり,最近,その嗜癖者が精神科外来を訪れる機会も見られるようになつてきたことは注目されねばならない。

精神分裂病病像の時代的変遷

著者: 桜井図南男 ,   白藤美隆 ,   西園昌久 ,   蓮沢剛 ,   楠原保 ,   吉永五郎 ,   広橋省三

ページ範囲:P.369 - P.373

I.はじめに
 時代の推移とともに精神疾患の病像が変わるということは,これまでにもしばしばとりあげられてきた問題である。すなわち,1904年にすでにHellpach, W. は,文化が進むにつれて,ヒステリーが減り,神経衰弱様の反応が増加することに注目し,Birnbaum, K. も,社会の近代化とともに不安神経症や強迫神経症のような内向性の神経症が増えて,原始反応的な神経症が減ることを述べている。その後も,これらと同じような神経症の状態像の変遷が数多く報告されている。また,内因性精神疾患とされているうつ病に関しても,近ごろ,激動(agitation),心気妄想,罪業妄想などの症状を示すものが少なくなつたことが報告されているし3),さらに,進行麻痺のような外因性精神疾患においてさえ,発揚型が減つてきたことが,社会的経済的環境の変動との関連において論じられている5)
 このように,各種の精神疾患の病像が社会の変動に伴つて変遷しつつあることは事実のようであるが,精神分裂病(以下,分裂病と略記する)についてはどうであろうか。
 分裂病の病因に関しては,さまざまな立場からのアプローチがあつて,いまだに統一的な見解はえられていないが,症状形成のレベルで,その時代の社会的文化的要因が関与していることは,異論のないところであろう。分裂病と文化の型,あるいは分裂病と社会階層の関係,というような問題は,現在,社会精神医学の課題として大きくとりあげられており,すでに多くの研究報告がなされている。しかし,同一地域における分裂病病像の時代的変遷を,具体的な資料を示して論じた報告はほとんど見かけない。
 最近,分裂病の病像が変わつてきたということはしばしば口にされており,われわれも同様の印象をいだいているのであるが,はたしてどのように変わつているのか,そして,それは社会の変化とどのような関係にあるのか,これらの点を明らかにする目的で,われわれは,第2次世界大戦を含む約25年間の分裂病の病像を検討してみることにした。

外勤作業治療をとおして見た入院患者の家族の態度—長期入院患者の退院に対する家族の態度

著者: 柴原堯 ,   稲本雄二郎 ,   井口芳雄

ページ範囲:P.375 - P.380

 社会復帰を前提として行なわれるべき病院外作業療法を行ない病像が安定した長期入院患者の退院,家庭復帰に対して一般に家族の態度が大きな障壁として存在することを述べ,長期入院患者の社会復帰にさいして生ずるいろいろの家庭内人間関係の困難性を統計および症例によつて説明した。
 長期入院患者の家庭復帰には,精神疾患者に対する家族の恐怖,不安のほかにこれを妨げるものとして,家庭内の経済秩序の変動が存在しており,これらは患者の入院期間が長ければ長いほど,患者の家庭復帰に対する強大な障壁として出現してくるものであつて,このような場合に,精神疾患の治療は入院時から社会復帰を目標とするという考えを保持し,これを一貫するためには病院一家族間の,患者の治療を中心とした密接で有機的な結合が必要であり,その基礎の上にいろいろな治療(ことに社会復帰療法)が行なわれなければならないと考えられる。

アレビアチンによる小脳失調の3例

著者: 安陪光正

ページ範囲:P.381 - P.384

I.はじめに
 すべて薬物は,その適量を与え,最小の副作用で最大の効果を発揮することが望ましい。
 ことにてんかんのごとく,薬物の長期あるいは一生内服を要するような疾患では,つねにその副作用を考慮し,十分の注意がはらわれなければならない。なかでも抗けいれん剤アレビアチンは,副作用として歯肉増殖,多毛,運動失調,複視などの中毒症状をきたすことがよく知られており,日常われわれもその一過性発現を見ることが少なくない。これら薬物の副作用も一過性ですめばよいが,それが脳神経系に非可逆的変化をきたし,器質的病変を遺すにいたると,問題が大きい。われわれは日常診療の間,人の作る精神的あるいは身体的疾患,すなわち医原性あるいはman made diseasesともいうべき疾患に注目してきたが,今回ここに,アレビアチンによると考えられる小脳失調の3例を経験したので報告する。

錐体外路系疾患に対するCogentinの使用経験

著者: 長尾朋典 ,   矢崎博通 ,   麻生弘 ,   式場聰

ページ範囲:P.387 - P.390

Ⅰ.序言
 錐体外路系疾患に対する神経生理学的解析と治療(とくに定位脳手術)の進歩は近年顕著なものがあるが,薬物療法についてはなお満足すべきものが少ない現状である。しかも本疾患患者が比較的多い点からさらに確実な効果のある薬物の出現が望まれている。
 本疾患に対する薬物療法としては,古くからExt,Daturae,Atropine,Scopolamineなどが用いられ,最近にいたりDiparcol,Artane,Pacatal,Parkin,Kemadrin,Akinetonなどが使用されて,それぞれ効果が見られているにもかかわらず,多くの場合併用療法が必要とされ,さらに症状の進行に伴つて増量の余儀なきにいたる傾向が見られることは,長期間の連用を必要とする薬物療法の現段階における限界とも考えられる。
 われわれは今回日本メルク万有株式会社よりCogentinの提供を受けたので,その臨床成績の一部を報告し錐体外路系疾患に対する治療の参考に供したいと思う。
 Cogentinは3-Diphenylmethoxytropane methanesulfonate
 (Tropine Benzohydry Ether Methansulfonate)である(第1図)。1錠中に2mgを含有する。

動き

英国における精神医学的ソーシャルワーカーの現状

著者: 柏木昭

ページ範囲:P.395 - P.400

Ⅰ.精神障害に関する英国医療制度
 1963年3月より9月末にいたる6カ月の間,私は,世界保健機関(WHO)のフェローシップをえて,英国およびスコットランドに滞留する機会をもつことができた。
 私の主たるテーマは,精神障害者に対する地域社会対策,いわゆるコミュニティ・ケアの問題であつた。

紹介

—Karl Jaspers 著—Gesammelte Schriften zur Psychopathologie—精神病理学論文集

著者: 宮本忠雄

ページ範囲:P.401 - P.406

Ⅰ.
 精神医学の領域でのKarl Jaspers(1883・2・23〜)の主著といえば,いうまでもなく,1913年にあらわれた“Allgemeine Psychopathologie”があげられる。事実,この本のおよぼした広汎な方法論的影響は別として,外面的方面だけをとりあげてみても,初版以来つぎつぎに改訂増補されて,こんにちまで8版をかさねており,またこの間,1928年には第3版(1922年)がフランス語に,第4版(1946年)がスペイン語に,第5版(1948年)が日本語に訳されて,それぞれ反響をよび,また最近では,Jaspers的理念がおよそ場ちがいともみられるような英語圏でもその全訳が刊行されたし**,イタリア語訳も近く発刊されるようである***
 むろん,この『総論』の古典的位置はうこかないにしても,その体系的叙述を準備したいくつかの論文がそれに先行していることは,こんにちではあまりかえりみられず,また専攻者ででもなければ読まれもしない。その理由の一半——大半でなく——として,それらの論文が二,三の古い専門雑誌に発表されたままなので,こんにちの研究者にはかんたんに手にとつて読むというわけにいかなくなつている点も見のがせまい。これらの論文8篇がまとめられて表記のような一冊の本となつたのは,序文によると,1963年が『総論』の刊行後50年目にあたると同時に,著者Jaspersの生誕80年にあたるのを記念してということであるが,こうした刊行の背景には上述のような研究者の側の要求もあずかつていたと付度される。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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