文献詳細
文献概要
研究と報告
早期幼児自閉症における他者の存在構造
著者: 中根晃1 小見山実1 三好ひそか1 高橋徹1
所属機関: 1東京医科歯科大学神経精神医学教室
ページ範囲:P.342 - P.347
文献購入ページに移動L. Kannerの早期幼児自閉症をヨーロッパで最初に報告したのはオランダのVan Krevelen(1952)13)である。これよりさき,Wienの小児科のH. Asperger1)2)が自閉性精神病質(autistische Psychopathen)という類似の病像を記載しており,Kannerの報告と同一のものと考えた。その後,ドイツ系の学界はアメリカ学派とは別の動きを見せている。その第1の論点はKannerの早期幼児自閉症とAspergerの自閉性精神病質が同じか否かであり,Stutte29)やKrevelen16)17)が両者の差異を述べている。第2は,早期幼児自閉症がLutz,Tramerの児童分裂病と並ぶものかどうかである。Krevelen13)は最初の報告では精神薄弱の一種とし,Popella25),Spiel27)は器質性のものとした。一方,Stern,Schachter28)は当時の世界大戦後の混乱を背景に母子関係の破綻に注日し,分裂病近縁のユニークな病とした。Zutt34)は,こういつた自閉の根本はBegegnungsscheuであるとして分裂病との関連を指摘している。さらにKrevelen15)は1960年になつてautismus infantumという症候群を設定し,精神薄弱,器質性脳障害,幼年期分裂病に普遍的に見られるとした。これについて牧田20)はKrevelenの症候群をKannerのそれと区別して仮性自閉症とする概念的な相違を述べたが,両者に本質的差異があるかどうかは不明といわねばならない。わが国での黒丸18),鷲見30)31),詫摩32),石島10),中沢22),平井7),井上9),坂岡26),石井8)らの研究も分裂病を想定する方向にあるがNosologieにいくつかの疑問を残している。私たちは「分裂病」ということを括弧に入れ,現象そのものの把握をめざしたいと思う。
1958年Marburgで行なわれた第5回ドイツ児童精神医学会で自閉的小児が議題となり,Aspergerの自閉もKannerの自閉も,Bleulerの自閉と異なること,Bleulerのいう自閉は分裂病の症状としてとらえられるのに反し,Kannerでは自閉が分裂病それ自身となつていることが指摘された.石島10)はこの事態を自閉概念の混乱と述べているが,私たちは,日ごろなんの反省もなく使つている早期幼児自閉症に見られる自閉の概念を再検討すべきことに気づかねばならない。
掲載誌情報