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研究と報告
精神分裂病病像の時代的変遷
著者: 桜井図南男1 白藤美隆1 西園昌久1 蓮沢剛1 楠原保1 吉永五郎1 広橋省三1
所属機関: 1九州大学医学部神経精神医学教室
ページ範囲:P.369 - P.373
文献購入ページに移動時代の推移とともに精神疾患の病像が変わるということは,これまでにもしばしばとりあげられてきた問題である。すなわち,1904年にすでにHellpach, W. は,文化が進むにつれて,ヒステリーが減り,神経衰弱様の反応が増加することに注目し,Birnbaum, K. も,社会の近代化とともに不安神経症や強迫神経症のような内向性の神経症が増えて,原始反応的な神経症が減ることを述べている。その後も,これらと同じような神経症の状態像の変遷が数多く報告されている。また,内因性精神疾患とされているうつ病に関しても,近ごろ,激動(agitation),心気妄想,罪業妄想などの症状を示すものが少なくなつたことが報告されているし3),さらに,進行麻痺のような外因性精神疾患においてさえ,発揚型が減つてきたことが,社会的経済的環境の変動との関連において論じられている5)。
このように,各種の精神疾患の病像が社会の変動に伴つて変遷しつつあることは事実のようであるが,精神分裂病(以下,分裂病と略記する)についてはどうであろうか。
分裂病の病因に関しては,さまざまな立場からのアプローチがあつて,いまだに統一的な見解はえられていないが,症状形成のレベルで,その時代の社会的文化的要因が関与していることは,異論のないところであろう。分裂病と文化の型,あるいは分裂病と社会階層の関係,というような問題は,現在,社会精神医学の課題として大きくとりあげられており,すでに多くの研究報告がなされている。しかし,同一地域における分裂病病像の時代的変遷を,具体的な資料を示して論じた報告はほとんど見かけない。
最近,分裂病の病像が変わつてきたということはしばしば口にされており,われわれも同様の印象をいだいているのであるが,はたしてどのように変わつているのか,そして,それは社会の変化とどのような関係にあるのか,これらの点を明らかにする目的で,われわれは,第2次世界大戦を含む約25年間の分裂病の病像を検討してみることにした。
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