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雑誌詳細

文献概要

研究と報告

Gerstmann症状群について—臨床統計的考察

著者: 大橋博司1 中江育生1 浜中淑彦1

所属機関: 1京都大学精神医学教室

ページ範囲:P.595 - P.599


 Gerstmann症状群(以下G症状群とする)はおそらく脳病理学的な症状群のなかでもつとも一般的なもので,すでに諸家によつて論じつくされたかに思われる。今回はわれわれの症例群のなかから本症状を選んで臨床統計的な面から反省を加えてみたい。
 本症状の成立はいうまでもなくGerstmannの一連の報告(1924,1927,1930その他)に由来するものであり,最初は手指失認が,ついで手指失認と純粋失書との結合が,さらに手指失認,左右障害,失書,失算の結合が注目され,以上の症状がG症状群となつたわけである。しかしこれよりさきにすでに1888年フランスの眼科医Badalが手指失認の症状が他の失行,失認症状と結合している症例を報告し,またAnton(1899),Hartmann(1902)の報告やvan Woerkom(1919),Bonhoeffer(1922)などの報告もいまからみればG症状群に相当するものであつたであろう。解剖学的にはHerrmann u. Pötzl(1926)の症例が頭頂-後頭葉背側移行部に病巣を証明され,その後の報告例もこの近傍の病変が多いこともあえてことわるまでもあるまい。1930年代はある意味で脳病理学の黄金時代だつたと思われるが,G症状群をめぐる論議もその時代の中心問題であつたことは周知のとおりである。当時は全体論と局在論,あるいは知性論と反知性論の対立,Apraktognosieの概念の提唱などはなやかな争論の時代であつたが,G症状もこのような背景のなかでその基本障害が論ぜられ,わが国においても石橋秋元らの記載があることはその後の報告者がくりかえし引用するところである。いまここで30年代の論争を反復する時間もまたその必要もないが,とにかく本症状群の4つの症状の根底には空間障害ないし身体図式障害が考えられ,各症状が内的関連を有するということは一応認められたといえよう。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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