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文献詳細

雑誌文献

精神医学6巻9号

1964年09月発行

研究と報告

酒精患者の臨床統計的観察ならびに治療予後調査について

著者: 小片基1

所属機関: 1釧路赤十字病院精神神経科

ページ範囲:P.657 - P.666

文献概要

Ⅰ.まえがき
 わが国における慢性アルコール中毒の臨床統計的観察は,1937年秋元1)により,松沢病院における10年間の統計が発表されているがそれ以来1945年の終戦までの約10年間は,耐乏生活の余儀なくされたいわゆる非常時にあたり,慢性アルコール中毒の発生する余地がまつたくなかつたといえる。したがつて,飲酒者が問題にされることがほとんどなく過ぎた。しかし,戦後は飲酒者が累年増加の一途をたどり,必然的に飲酒に基因したさまざまの弊害が各方面から注目されるようになつたことは周知である。精神医学の領域でも,高橋2)は1951年から1955年までの5年間にわたる飲酒嗜癖者の臨床経験を報告し,飲酒嗜癖の特性と,生成の背景についてくわしい考察をこころみている。1960年には,精神医学会総会でアルコール中毒に関する諸問題がシンポジアムにとりあげられ,野口3)はわが国におけるアルコール中毒の現況を報告した。野口の集計によると,慢性アルコール中毒のいちじるしい増加傾向と,女性の占める割合の多くなつていることが明らかにされている。その他の臨床統計的報告では,野口4)の発表が見られる。
 われわれは,釧路赤十字病院に精神科が新設された昭和35年11月以降,常習飲酒を理由として外来を訪れるものが多いことに関心をもつて異常飲酒者の臨床的観察をつづけているが,慢性アルコール中毒を治療するにあたつてまず当面する問題は,慢性中毒症状に対する治療とその効果の判定が比較的容易であるのに反して,飲酒嗜癖に対する治療はきわめて困難であるばかりか,広く用いられている抗酒剤療法にしてもその効果の判定はまことにむずかしく,飲酒に対する異常な態度が改善されたか否かを見きわめるためには,かなりの長期間を要することである。ことに,外来,入院を問わず治療を受けたものが早々に病院との接触から離れてしまつては,治療予後を観察する手がかりはつかみがたいことになる。そこで,われわれは治療を受けた飲酒者の家庭を個別に訪問して治療予後の実態を把握しようとこころみたわけである。今回は過去3年間の観察結果をまとめて報告したいと思う。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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