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雑誌詳細

文献概要

研究と報告

セネストパチーについて

著者: 小池淳1

所属機関: 1大阪警察病院神経科

ページ範囲:P.667 - P.672

Ⅰ.はじめに
 セネストパチーとは,1907年E. Dupré(8)がセネステジーの障害を単一症状とする一群の病者に名づけた疾患名である。セネステジーとは一般感覚,内部感覚,あるいは体感と称せられ,正常大では意識されず,その障害があつて初めて意識される感覚であるといわれる。このセネステジーの障害は身体のある部位に局在することが多く,頭部,口-咽頭部,胸部,腹部,四肢,皮膚,半身などに持続的に感じられる。またこの感覚の性質は異質的な(étrange),決められない(indéfinissable),苦しい(pénible)感覚であるという。訴えは多彩であり,「大きくなる,小さくなる,引張られる,絞めつけられる,収縮する,捻れる,焼けつく,動きまわる,臓器がなくなつた」といつた「容積,長さ,重さ,厚さ,形,温度などの変化,運動移動感,臓器の退化消失感」が訴えられる。青年期から閉経期の女性に多く1),あらゆる治療に抵抗するといわれるものである。ほかに精神医学的,神経学的病的所見がないという点で,Dupréが単一疾患であると主張した理由であろうと思う。その後,セネストパチーの病因論,疾病論に関して,種々の意見が発表されているが,器質的な病因を推定しようとする立場5)19)と,精神医学的な見地から,精神疾患の症状として理解しようとする立場とに分けることができよう。前者に関しては,末梢神経12)18),上行性感覚路,特殊中継核(視床11)など),感覚中枢などの障害,自律神経系(とくに交感神経系)の異常,血管障害3)5)14)(中枢性,末梢性),慢性感染症,薬物中毒,性ホルモン分泌の異常4)などがセネストパチーの患者に見られたという報告は多いが,いずれもすべてのかかる異常体感の発生因として一元的に考えるわけにはいかない。後者に関しては,セネストパチーをヒポコンドリー,ノイラステニー,プシカステニー,ヒステリー,強迫症,うつ病2),いわゆる精神分裂病群7)15)16)20)などの症状として,またこれら疾病の発生因として考える立場である。またこの異常体感をも幻覚あるいは幻覚症,妄想あるいは妄想様解釈だと考えることもできる。いずれにしても,いまだ定説がないというのが現状である。最近慶大三浦教授17)および保崎氏9)10)は,異常体感を訴える症例を報告し,セネストパチーなる単一疾患を認めねばならないとの意見を述べておられる。セネストバチーなる単一疾患が存在するか否かは別問題としても,日常の臨床で,種々の精神疾患あるいは神経疾患患者から,かかる異常体感をしばしば訴えられるのが実情である。単一疾患としてのセネストパチーが存在するか否か,また種々の疾患に見られる異常体感の発生因として,共通の器質的変化が推定できないだろうか,また,かかる異常体感の背景に心理学的,性格的な異常が見られないかどうかといつた点に興味をもち,以下の研究をこころみたものである。まず第一歩として,異常体感を訴える者のなかから,その異常体感を長期間主訴として訴える者を選び,これらの患者について検討した。現在14名であるが,臨床的立場から3群に分けるのが至当と考え,まず各群の症例と各群の特徴について述べる。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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