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文献詳細

雑誌文献

精神医学60巻10号

2018年10月発行

文献概要

特集 こころの発達の問題に関する“古典”をふりかえる

自閉スペクトラム症—自閉症の発見(情緒的交流の自閉的障害:Leo Kanner)

著者: 神尾陽子1

所属機関: 1お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所

ページ範囲:P.1067 - P.1073

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はじめに
 1943年に発刊された標題のKanner論文は,既存の疾患では説明できない特徴を有する児童症例11名を,「情緒的交流の生来的自閉的障害」として報告した最初の論文である。これ以降,それまでそれと気付かれていなかった自閉症児はその名前のもとでその姿を現したという意味で,Kannerに発見された。論文発表から75年経た今日もなお,自閉症というと枕詞のように引用されるのは,単に最初の報告であっただけでなく,正統的な記述的精神医学の方法に則りつつも,卓越した洞察力と観察力で子どもたち自身の姿を生き生きと描いているからであろう。Michael Rutterの言葉を借りると,「他人の業績の真価を認めるが権威には追従しない。学究的ではあるが個人には適切な思いやりをもっている。資料は豊かでしかも興味深く書かれている」(文献8)の前書きより)というKannerならではの味わいは,本論文からも十分に感じ取ることができるであろう。
 本稿では,まず本論文の概要を示し,その疾病論と病因論について考察を行い,研究および臨床における示唆を述べる。

参考文献

1)Grinker RR:Unstrange Minds:Remapping the World of Autism, Basic Books, New York, 2007(神尾陽子,黒田美保監訳,佐藤美奈子訳:自閉症:ありのままに生きる—未知なる心に寄り添い未知ではない心に.星和書店,2016)
2)神尾陽子:“Social brainの障害”としての自閉症再考.臨床精神医学 36:953-957, 2007
3)神尾陽子:自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害.神庭重信総編,神尾陽子編:DSM-5を読み解く—伝統的精神病理,DSM-Ⅳ,ICD-10をふまえた新時代の精神科診断(1).中山書店,pp68-74,2014
4)神尾陽子:発達障害を理解する—自閉症スペクトラム障害(ASD)自然経過・成人移行.平岩幹男総編,岡明,神尾陽子,小枝達也,他専門編:データで読み解く発達障害.中山書店,pp16-19,2016
5)神尾陽子:有害環境因子によるおもな疾患:成長と発達(2)—発達障害など.車谷典男監修,村田勝敬,川本俊弘,五十嵐隆編:環境による健康リスク.日本医師会雑誌 146(特別号②),S137-S140, 2017
6)Kanner L:Problems of nosology and psychodynamics in early infantile autism. Am J Orthopsychiatry 19:416-426, 1949
7)Kanner L:Early infantile autism revisited. Psychiatry Dig 29:17-28, 1968
8)Kanner L:Childhood Psychosis:Initial Studies and New Insights. John Wiley & Sons, New York, 1973(十亀史郎,岩本憲,斎藤聡明訳:幼児自閉症の研究.黎明書房,1995)
9)高木隆郎:児童分裂病と早期幼児自閉症.高木隆郎編:自閉症—幼児期精神病から発達障害へ.pp.1-8,星和書店,2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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