文献詳細
特集 精神科臨床から何を学び,何を継承し,精神医学を改革・改良できたか(Ⅰ)
文献概要
はじめに
2004年12月24日に厚生労働省の「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」(以下,検討会)は,一般的な用語や行政用語としての「痴呆」について,以下のような結論に至ったと報告した8)。
①「痴呆」という用語は,侮蔑的な表現である上に,「痴呆」の実態を正確に表しておらず,早期発見・早期診断等の取り組みの支障となっていることから,できるだけ速やかに変更すべきである。
②「痴呆」に替わる用語としては,「認知症」が最も適当である。
③「認知症」に変更するにあたっては,単に用語を変更する旨の広報を行うだけではなく,これに併せて,「認知症」に対する誤解や偏見の解消等に努める必要がある。加えて,そもそもこの分野における各般の施策を一層強力にかつ総合的に推進していく必要がある。
この報告を受けて,関連諸学会においても,学術用語としての「痴呆」を「認知症」に変更する方向で検討が進められ,今日では,一般的にも,行政的にも,学術的にも,「認知症」という用語が広く使用されるようになっている。本稿では,「痴呆」という用語の呼称変更が検討されるまでの経緯と「認知症」という用語が誕生するまでの経緯を概観した上で,呼称変更が何をもたらしたかについて私見を述べることとする。
2004年12月24日に厚生労働省の「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」(以下,検討会)は,一般的な用語や行政用語としての「痴呆」について,以下のような結論に至ったと報告した8)。
①「痴呆」という用語は,侮蔑的な表現である上に,「痴呆」の実態を正確に表しておらず,早期発見・早期診断等の取り組みの支障となっていることから,できるだけ速やかに変更すべきである。
②「痴呆」に替わる用語としては,「認知症」が最も適当である。
③「認知症」に変更するにあたっては,単に用語を変更する旨の広報を行うだけではなく,これに併せて,「認知症」に対する誤解や偏見の解消等に努める必要がある。加えて,そもそもこの分野における各般の施策を一層強力にかつ総合的に推進していく必要がある。
この報告を受けて,関連諸学会においても,学術用語としての「痴呆」を「認知症」に変更する方向で検討が進められ,今日では,一般的にも,行政的にも,学術的にも,「認知症」という用語が広く使用されるようになっている。本稿では,「痴呆」という用語の呼称変更が検討されるまでの経緯と「認知症」という用語が誕生するまでの経緯を概観した上で,呼称変更が何をもたらしたかについて私見を述べることとする。
参考文献
1)Alzheimer Scotland-Action on Dementia:Creating Dementia-Friendly Communities:A Guide. 2001
2)朝田隆:都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.平成24年度厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業(研究代表者朝田隆)報告書.2012 https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201218011A
3)粟田主一:Dementia Friendly Communityの理念と世界の動き.老年精神医学雑誌 28:458-465, 2017
4)一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ:http://www.jdwg.org/
5)公衆衛生審議会:老人精神保健対策に関する意見.1982年11月.http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/202.pdf
6)厚生労働省:「痴呆」に替わる用語に関する検討会.第3回資料.2004年11月19日.https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/11/s1119-8.html
7)厚生労働省:「痴呆」に替わる用語に関する検討会.第3回議事録.2004年11月19日.https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/11/txt/s1119-1.txt
8)厚生労働省:「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書.2004年12月24日.https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1224-17.html
9)厚生労働省:「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」報告書.2008年7月.https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/dl/h0710-1a.pdf
10)厚生労働省:今後の認知症施策の方向性について.2012年6月.http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002fv2e-att/2r9852000002fv5j.pdf
11)厚生労働省:認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン).2012年8月.http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002j8dh-att/2r9852000002j8ey.pdf
12)厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン).2015年1月.http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html
13)厚生労働省:高齢者介護研究会報告書「高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて」2015年 https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/3.html#2-1
14)厚生労働省:高齢者介護研究会報告書,補論3「痴呆性高齢者ケアについて」2015年 https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/3c.html
15)呉秀三:精神病ノ名義ニ就キテ.神経学雑誌 7:549-553, 1909
16)日本精神神経学会精神科用語検討委員会編:精神神経学用語集改訂6版.新興医学出版社,2008
17)二宮利治:日本における認知症高齢者人口の将来推計に関する研究.平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業(研究代表者二宮利治)報告書.2014 https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201405037A
18)山口成良:Dementia;痴呆(症)か,認知症か.精神経誌 112:589-593, 2010
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