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文献詳細

雑誌文献

精神医学60巻11号

2018年11月発行

文献概要

特集 精神科臨床から何を学び,何を継承し,精神医学を改革・改良できたか(Ⅰ)

操作的診断に足りないものとは何か—求められる病の深さへの着目

著者: 白川治1

所属機関: 1近畿大学医学部精神神経科学教室

ページ範囲:P.1245 - P.1251

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はじめに
 精神疾患に対する操作的診断基準によるカテゴリー診断は,精神科診療の現場にとどまらず,司法,行政に至るまで浸透している。診断を症状とその経過に専ら依拠せざるを得ない精神科診療の現状を考えると,精神医学が医学の一分野として認知されるためにも,共通言語としての役割を担う暫定的な取り決めが必要であることは言うまでもない。その代表が,DSMやICDにおける診断基準によるカテゴリー診断である。こうした診断基準による診断の功罪については,すでにたびたび論じられているので,詳細についてはそれらを参照いただきたい13)。DSMに対する批判の多くは,カテゴリー診断にまつわる誤解や誤用に対してであるとする意見にも一定の説得力があるが,DSMによる診断が一人歩きをすることがしばしば問題となっているのが実状であろう。
 DSM-5においても,その冒頭で,「DSM-5の第1の目的は,熟練した臨床家が,症例定式化のための評価の一部として行う患者の精神疾患の診断を助けることであり,それが各患者に対応した十分に説明された治療計画の作成につながることになる」とし,さらに「症例の定式化には詳細な臨床病歴と,その精神疾患の発症に寄与したかもしれない社会的,心理的,生物学的な要因に関する簡潔な要約が伴わなければならない。したがって,診断基準に挙げられている症状を単純に照合するだけでは,精神疾患の診断をするためには十分ではない」と述べている1)。すなわち,診断カテゴリーにのみとらわれることなく,症例の定式化(case formulation,図1),つまり患者のストーリーを包括的に理解するという診立てが何よりも重要であるとしている11)。したがって,DSM診断の利用に関した主要な課題は,症例の定式化を軽視し,診断(とその意味するところ)を吟味なしに受け入れることによって生じると言えるかもしれない。
 ところで,DSMがストイックなまでに原因を排除したことで,当初の意図通り調査・研究における利用が飛躍的に進展することになった一方で,成因論的に発症のプロセスから診立てを考えながら治療に生かすことが求められる診療の現場では,診断の枠組みとしてのDSMでは物足りないというのが臨床医に共通した認識であろう。
 本稿では,カテゴリー診断を補完し,日常診療に生かすためには何が必要かについて述べたい。なお,本稿で操作的診断,カテゴリー診断を論じるとき,特に断りがない限りDSM-5を指している。

参考文献

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3)深尾憲二朗:精神病理学の基本問題.日本評論社,pp125-140, 2017
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18)臺弘:三つの治療法.精神科治療学 5:1573-1577, 1990
19)臺弘:精神医学の思想:医療の方法を求めて—改訂第3版.創造出版,2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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