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雑誌目次

論文

精神医学60巻2号

2018年02月発行

雑誌目次

特集 多様なアディクションとその対応

特集にあたって

著者: 樋口進

ページ範囲:P.111 - P.111

 昨今,行政面でアディクションが大きな問題になっている。2014年に施行された「アルコール健康障害対策基本法」の国の基本計画は2017年5月の閣議決定を経て,現在,各都道府県の推進計画が策定されつつある。薬物依存関連では,刑の一部執行猶予制度が始まり,その運用に関してこれから正念場を迎える。また,2016年にいわゆるIR推進法が制定され,今後カジノが解禁されることになる。しかし,すでに世界で有数の有病率の高さを誇っているギャンブル依存のさらなる増加が懸念され,その対策の充実がなければ,IRが前に進まない状況にある。2018年1月から始まっている通常国会で,ギャンブル等依存症対策基本法が,IR実施法とともに制定されるとも聞いている。さらに,最近,ICD-11にゲーム障害が収載されることがメディアで大きく取り上げられるなど,ゲームを始めとするさまざまなインターネットサービスへの依存問題は大きな関心事となっている。
 このような政府の動きと国民の高い関心の背景には,アディクション問題の大きさと多様性が関係している。医学界でも,つい最近までアディクションは物質依存に限られていた。しかし,ギャンブル,ゲームが行動嗜癖として認められつつあり,その対象範囲が大幅に拡大された。一方で,買い物依存,食べ物依存,セックス依存,仕事依存など,その他の行動嗜癖の候補は,エビデンスのレベルが十分でないため,正式に行動嗜癖に組み入れられない状況にある。

DSM-5とICD-11草稿のアディクション概念・診断の比較

著者: 樋口進

ページ範囲:P.113 - P.120

はじめに
 周知のとおり,世界的に認められている精神新患の診断ガイドラインは,WHOのICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)とアメリカ精神医学会のDSM(Diagnostic and statistical Manual of Mental Disorders)である。現行のICDは第10版であるが8),2018年6月頃に第11版(ICD-11)が出版される9)。アディクションにかかわる診断基準・ガイドラインが,2013年にリリースされたDSM-5と我々が日常診療で今後使用することになるICD-11では大分異なる2,9)。現在ICD-11の草稿は,WHOのホームページに掲載されているが,その内容は定義のみで,詳細についてはまだ不明の部分もある。しかし,公式な発表ではないものの,より詳細な内容もWHOから示されている。
 既述のとおり,現在日常診療で使用されているのはICD-10であるが,本章では先を見据えて,これらの情報を踏まえ,ICD-11草稿とDSM-5の内容を比べてみる。ICD-11の内容に関する情報には,筆者が参加したアディクションにかかわるWHO会議での議論に基づくものも含まれている。ここで取り上げるICD-11は最終版ではないので,今後,内容に若干の修正が入る可能性もあることを追記しておきたい。また,DSM-5については,邦訳が出版されているが2),ICD-11草稿については公式な翻訳がないため,筆者が翻訳した。したがって,本稿の邦訳はあくまでも暫定的な翻訳である。

アルコール依存—対象の拡大と新しい治療法

著者: 武藤岳夫 ,   杠岳文

ページ範囲:P.121 - P.129

はじめに
 現在,わが国のアルコール医療は,大きな変革の時期を迎えている。その理由の一つは,2013年にアメリカ精神医学会で診断と統計のためのマニュアルが第5版に改訂され,(Diagnostic and Statistical Manual, 5 th edition,以下DSM-5)2)物質使用障害の診断基準で,依存(dependence)と乱用(abuse)の区別がなくなり,新たに使用障害(use disorder)として一本化され,診断の閾値が低下したことである。このことにより,比較的軽症の患者も医学的な診断の対象となり,必然的に治療・介入の対象者も広がることとなった9)
 もう一つの理由は,2014年にわが国でアルコール健康障害対策基本法が施行され,基本法に基づく推進基本計画(以下,基本計画)が2016年に策定されたことである。基本計画では,アルコール健康障害に関する予防,相談から治療,回復支援に至る切れ目のない支援体制の構築が重点課題として挙げられており,医療におけるさらなる質の向上と連携の促進,すなわち早期介入に向けての具体的な取り組みが求められることとなり,現在各自治体レベルでの推進計画が策定されつつある。
 本稿では,これまで依存症の治療とほぼ意味を同じくしていた,わが国におけるアルコール健康障害の治療の現状,また新たな介入技法や治療薬等について紹介し,今後の課題について考察する。

アルコール依存症に対する減酒外来(Alcohol Harm Reduction Program:AHRP)の実践

著者: 湯本洋介 ,   瀧村剛 ,   樋口進

ページ範囲:P.131 - P.139

はじめに
 2017年4月,久里浜医療センター(以下,当院)に減酒外来(Alcohol Harm Reduction Program:AHRP)を開設した。当外来は,アルコール依存症者を主なターゲットに,飲酒量を減らすことを目標としたサポートを行う。従来,アルコール依存症者に対しては断酒治療が治療方針の基本として提供されてきたが,減酒治療を加えることによってより治療の選択肢が広がり,アルコール依存症者が医療や相談により結びつきやすくなることを期待している。当院のようなアルコール依存症治療専門病院にて減酒の目標を前面に置いた外来治療の提供は,国内で他に例をみない。

薬物依存—現状と新しい治療的アプローチ

著者: 成瀬暢也

ページ範囲:P.141 - P.152

はじめに
 わが国の問題薬物は,これまで覚せい剤と有機溶剤が主であり,ともに精神病状態を引き起こすことから,精神科医療では,解毒・中毒性精神病の治療は行われてきた。しかし,その元にある依存症の治療は,ほとんど行われてこなかった。依存症の治療が重要であることは言うまでもない。
 わが国では,薬物依存症は「病気」でなく「犯罪」として捉えられる傾向が現在も続いている。「ダメ。ゼッタイ。」に象徴される薬物乱用防止対策,中でも取り締りは世界一流である反面,依存症になった者への治療・回復支援は三流以下と言わざるを得ない。
 このような状況で,最近,薬物依存症の治療を巡って,新たな変化が起きている。海外で有効性にエビデンスが認められている治療がわが国でも広がり始めているからである。この稿では,わが国の薬物依存の現状と新たな治療的アプローチについて述べる。

ニコチン依存—現状と治療法の進展

著者: 宮田久嗣

ページ範囲:P.153 - P.160

ニコチン依存かタバコ依存か
 本稿のタイトルはニコチン依存であるが,ニコチン依存なのかタバコ依存なのか,すなわち,依存の原因がニコチンなのかタバコなのかの議論は古くからある。国際的な診断基準をみても,アメリカ精神医学会の精神疾患の分類と手引(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)では,DSM-Ⅲではタバコ(煙草)依存,DSM-Ⅲ-R,DSM-Ⅳ,DSM-Ⅳ-TRではニコチン依存であったものが,DSM-5で再びタバコ(依存から使用障害に診断名は変更となったが)に変更された。一方,世界保健機関による精神および行動の障害(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD)では,ICD-10ではタバコ依存症候群であったが,現在,ドラフトの段階ではあるがICD-11ではニコチン依存となっている。
 ニコチンかタバコかの議論の背景には,タバコからニコチンの成分を除去すると,そのタバコは好まれなくなってしまうことから,ニコチンこそが依存の本質であるという有名な研究がある2)。一方で,喫煙の自覚効果(依存形成に重要な手掛かりとなる感覚効果)である喫煙時の味や香り6),口腔・喉・上気道の刺激感17),あるいは,タバコを扱う仕草などがニコチン依存に重要な役割を果たしていること,特に,喉の刺激感やタールの濃度が喫煙行動を規定していること4),さらには,ニコチンのみ(ニコチンを含むガム,パッチ,点鼻薬)ではニコチン依存は形成されにくいことから5,18),ニコチンをタバコ喫煙という方法で摂取することが,依存形成に重要であるとする報告がある。しかし,両者の議論には最終的な決着はついていない。

ギャンブル障害—現状とその対応

著者: 松下幸生

ページ範囲:P.161 - P.172

はじめに
 わが国のギャンブル産業の市場規模は,パチンコ・パチスロが30兆円前後で推移していたが,2010年頃から減少が目立つようになり,その後は年々市場規模が縮小している。しかし,2016年でも20兆円を超える巨大な市場規模であることに変わりはない15)。一方,競馬,競輪,宝くじなどの公営ギャンブルの市場規模は2016年で5兆9000億円と推計されている15)
 いわゆる“ギャンブル依存”は,1980年にDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)-Ⅲで病的賭博という名称で定義されたのが最初で,DSM-Ⅳまでは衝動制御障害に分類されていた。しかし,他の物質依存と共通する点も多いことから,DSM-5ではギャンブル障害に病名が変更になって,嗜癖性障害に含まれることになった1)。アルコールや依存性薬物への依存を物質依存と呼ぶのに対して,ギャンブル,ネットゲーム[ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)-11に含まれることになった]や,まだ正式には診断基準には含まれていないが,買い物,窃盗,セックスなどの行為に対する依存は行動嗜癖と呼ばれる。
 ギャンブルは,娯楽の範囲にとどまる社会的ギャンブルから,借金を重ねたり,詐欺や窃盗などの犯罪行為,あるいは自殺と結びついたりして深刻な問題の原因となる病的なギャンブルまで,さまざまなレベルがある。わが国では,特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(通称:IR推進法)が成立したことをきっかけとして,正式には遊技とされているパチンコを含むギャンブル依存への対策が必須となって,マスコミに取り上げられることが多くなった。しかし,医療の現場では,ギャンブル障害の診療を行う医療機関は限られており,必要な人に医療が提供されないのが現状であり,今後の課題となっている。

インターネットゲーム障害—現状とその対応

著者: 片上素久

ページ範囲:P.173 - P.179

はじめに
 インターネットは情報収集やコミュニケーションの一般的手段として,近年多くの人々を引きつけ我々の生活に急速に定着しつつある。しかし同時に極度にのめり込むことによりそれ以外のことを犠牲にしたり,不安や抑うつ症状を引き起こしたりすることから,日常生活および社会生活に支障を来すことも少なくない6)。わが国において,オンラインにおけるコンピュータゲーム(以下,オンラインゲーム)に依存することによる社会的な問題が顕在化しており,とりわけスマートフォンの急速な普及に伴いその懸念はより深刻になっている。
 大阪市立大学医学部附属病院は,数年前よりインターネット使用障害に対する専門的治療を行っているが,若年者を中心として多くが没頭してしまうのがオンラインゲームである。今回,スマートフォンを含めたオンラインにおけるコンピュータゲームへの嗜癖であるインターネットゲーム障害の概念や現状,およびその心理的な背景,そしてその臨床について若干の考察を加えて報告する。とりわけ患者自身の動機付けにおいて難渋する場面も多々あるが,同院での診療の実態や症例についても触れたい。

性的アディクション—その現状と治療

著者: 原田隆之

ページ範囲:P.181 - P.190

性的アディクションの概念
 さまざまな物質および行動的アディクションの中でも,性的アディクションには,明確な被害者が存在するケースが多いという意味において,社会的なインパクトがきわめて大きい。したがって,当然ながらそのようなケースは,性犯罪として刑事司法の対象となる。そもそも,一般の人々のみならず,医療従事者の間でも,性的アディクションは刑事司法の問題であって,医療の問題ではないととらえる傾向が今なお大きい。
 また,被害者を伴わず,犯罪的ではない性的アディクションもある。複数の性的パートナーと性行為を反復したり,強迫的なマスターベーションやポルノグラフィの使用(インターネットや「アダルトビデオ・DVD」など),さらには,いわゆる「風俗店」通いがやめられずに,大きな借金を負ったりするようなケースがこれに当たる。

嗜癖の視点からみた窃盗症—何が“病的”なのか

著者: 村山昌暢

ページ範囲:P.191 - P.200

はじめに
 窃盗とは,広辞苑(第6版)によれば“他人の財物をこっそりぬすむこと。また,その人”,万引きは“買い物をするふりをして,店頭の商品をかすめとること。また,その人”とされる。
 種々の窃盗に対する刑罰が記載されていた古代のハンムラビ法典(紀元前1700年代),旧約聖書のモーセの十戒(紀元前300年頃以前)中の窃盗を禁ずる文言,本邦の古事記(712年)中の,古代の皇族の部下の窃盗の話など,窃盗は,貴賤を問わず古代からなされてきた犯罪行為である。そのうち“万引き”が始まったのは,大量消費社会が具現された16世紀のロンドンで,“shoplifting”の語が人口に膾炙するのは17世紀末である16)
 さて,その窃盗を種々の理由で繰り返す人々,中でも,盗むという衝動に抗しきれず窃盗を繰り返す人たちがいる。その盗みは,通常の意味での物欲や金銭欲によるものでなく,いわば窃盗のための窃盗である。自己の窃盗衝動を制限できず,多くはそのリスクに見合わない少額の万引きを繰り返し,悩む。罰金,懲役など司法処罰でも,馘首,家庭崩壊など社会的制裁でも,その窃盗は止まらない。それが窃盗症〔クレプトマニアk(c)leptomania,以下,本症〕である。筆者の常勤する特定医療法人群馬会赤城高原ホスピタル(以下,当院)にはそのような人たちが,連日訪れる。
 何らかのストレスの回避あるいは発散の方策として,衝動的になされた1回の万引きの成功〜快体験を機に,以後,種々の葛藤に面した時に,同様の万引きをなすことが時に無防備に繰り返され,あるいは徐々に巧妙化,大量/高額化するのが本症である。本症についての精神医学的知見が未だに乏しい中,この分野で際立った臨床体験を有する竹村は,これを「窃盗症は衝動性の障害として発生し,嗜癖問題として進行する」,と表現している20)
 現在,本症に対しては,Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)とInternational Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(ICD)での診断基準が広く使われている。両者は,合併症,鑑別診断での違いもあるが,内容の大部分は共通しており,ともにこの“当人の立場に鑑みて,割に合わない”,“異常な衝動性”およびその衝動性による問題行動が“繰り返し現れる”という“病的な習慣性”に焦点を当てた診断基準であると考える4,24)
 本稿では,過去の国内外の代表的なテキストや,現在の国際的診断基準におけるこの障害の記述を振り返りながら,また,当院での臨床体験も踏まえ,本症の本質を論じてみたい。
 本症は,ギャンブル障害,インターネット使用障害,買い物嗜癖,性嗜癖,摂食障害などとともに,精神医学的には行動嗜癖の一つとされる。精神障害としての常習窃盗,クレプトマニアは古くからある病名であるが,行動嗜癖の中でも最も治療体験と研究の蓄積が少なく,実態の解明が遅れている。当院とその関連医療施設の京橋メンタルクリニックでは,常習窃盗症例の登録システムを構築しており,両医療施設で筆者らが診療しあるいは相談にかかわった症例は2008年1月から2017年10月の9年10か月で1,700例に達した。なお,クレプトマニアの邦訳名としては,“病的窃盗”,“窃盗癖”などが使われてきたが,アメリカ精神医学会による『DSM-5精神疾患の診断・統計のマニュアル』(2013)では,日本精神神経学会によって新しく“窃盗症”が採用された。以下,本稿でもこの“窃盗症”を用いるものとする4)
 一般的に常習窃盗は,①経済的利益のために金目の物品や金銭を盗む職業的犯罪者,②飢えて食物や生活必需品を盗む貧困者,③金があるのに些細なものを盗む病的窃盗者,の三種類に大別される。もちろん現実にはこれら三種の境界型,混在型,移行途上型など分類困難なタイプや,これら以外の熱狂的なコレクター(収集狂,蒐集嗜癖)や知的障害による常習窃盗も存在する。日常用語になった感のある日本語の“窃盗癖”は,広く②,③型両者の常習窃盗を意味し,必ずしも③型窃盗と同等ではない。本稿では,窃盗症は③型窃盗の一部であって,DSM-5の診断基準によって精神障害と診断される常習窃盗とする21)

短報

発作間欠期に記憶障害を呈した若年者部分てんかんの1例

著者: 加藤秀明 ,   白河裕志

ページ範囲:P.201 - P.204

抄録 発作間欠期に記憶障害と相貌失認を呈した前頭葉てんかんと考えられる部分てんかんの若年者症例を報告した。3か月ほど続いたエピソード記憶の障害は抗てんかん薬投与による発作著減とともに一気に回復した。記憶障害を一過性てんかん性健忘(TEA)の視点から検討し,短時間の健忘エピソード(TEA)はてんかん放電に,持続した長期記憶の障害は発作頻発による側頭葉などの機能低下に基づくと理解した。本症例は若年者であるので学力低下が問題になったが,このような記憶障害が高齢者で生じた場合,認知症との鑑別が問題になることを指摘した。

深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症を併発した緊張病患者に電気けいれん療法を施行し寛解した1例

著者: 土井勉 ,   板垣圭 ,   神垣伸 ,   大賀健市 ,   大盛航 ,   竹林実

ページ範囲:P.205 - P.208

抄録 電気けいれん療法(ECT)は緊張病症状に有効であるが,深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症合併例に対しては血栓が増悪し致死的となる危険性がある。今回,我々は深部静脈血栓症および肺動脈塞栓症を併発した緊張病患者に対し,抗凝固療法による血栓消失後にECTを施行したところ,安全にECTを完遂でき,劇的な精神症状の改善を得た症例を経験した。緊張病はECTの良い適応である一方で,血栓症のリスクともなり得るため,緊張病に対してECTを施行する場合は常に血栓症を念頭に置き,術前に十分な精査を行う必要がある。本症例のようにたとえ血栓合併例でも抗凝固療法を含む血栓症の予防的治療を行うことによってECTは安全に施行し得ることが示された。

私のカルテから

躁うつ病の口腔内セネストパティーと生気悲哀の関係について

著者: 田中恒孝 ,   宮坂雄平 ,   宮坂義男

ページ範囲:P.209 - P.211

はじめに
 Schneider K6)は循環病性うつ病(内因性うつ病と躁うつ病性うつ病)の主要な感情障害は生気悲哀であるといい,それは表現困難な身体感覚・身体感情・自律神経症状の組み合わされた不快な体験である9)。筆者らは循環病性うつ病に顕著な口腔内セネストパティー(以下,口腔内体感症と略す)様症状を示し,うつ病相の改善につれ消退した1症例を経験した。うつ病に伴う口腔内体感症の症例報告は決して少なくない4,5,11)が,うつ病の身体感情障害である生気悲哀との関係を詳しく論じたものはない。本症例の苦痛で奇異な精神・身体的体験はうつ病相と関係して発現し,その改善につれ消失した。それゆえ,循環病性うつ病者の示す口腔内体感症には,口腔に限局した生気悲哀が含まれている可能性があると考えた。
 本症例報告にあたり患者の了解を得ており,利益相反はない。

学会告知板

第24期 広島精神分析セミナー

ページ範囲:P.200 - P.200

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.120 - P.120

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.212 - P.212

次号予告

ページ範囲:P.214 - P.214

編集後記

著者:

ページ範囲:P.218 - P.218

 精神医学におけるアディクションの歴史は決して新しいものではありません。しかし,それが人々に与える意味,社会へのインパクト,治療的な考え方は時代とともに大きく変遷しています。本号では,「多様なアディクションとその対応」というテーマで,現代のアディクションの諸相を,各分野の第一人者に論じていただいております。すなわち,はじめに,本特集の趣旨と,DSM-5とICD-11草稿のアディクション概念を樋口進先生が論じられ,アルコール依存の対象拡大と新たな治療法については武藤岳夫先生が,減酒外来の実践については湯本洋介先生が,薬物依存,ニコチン依存,ギャンブル障害,インターネットゲーム障害,性的アディクションの現状と新たな治療法については成瀬暢也先生,宮田久嗣先生,松下幸生先生,片上素久先生,原田隆之先生が,嗜癖という視点からみた窃盗症の今日的な理解については村山昌暢先生が論述されています。いずれも,アディクションの多様性と今日的な意味をあらためて考えさせられる厚みのある論文です。
 一方,短報では,加藤秀明先生が,抗てんかん薬の投与によって3か月に及ぶエピソード記憶の障害が劇的に改善した症例を報告し,てんかん放電および発作頻発による側頭葉の機能低下が持続的な記憶障害に関連する可能性があること,高齢者では認知症との鑑別に注意を要することを喚起しています。また,土井勉先生が,深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症を併発した緊張病患者においても,電気けいれん療法が有効かつ安全に施行し得ることを報告し,血栓症がある患者におけるECTの安全な施行方法について解説されています。さらに,私のカルテでは,田中恒孝先生が,うつ病相に一致して口腔内体感症を認めた一例を紹介し,循環性うつ病の生気悲哀という観点から体感症を理解し得る場合があることを考察しています。これらは,いずれも,我々の日々の日常診療に重要な示唆を与える貴重な論文であり,臨床家には是非一読をお勧めいたします。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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