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文献詳細

雑誌文献

精神医学60巻2号

2018年02月発行

文献概要

特集 多様なアディクションとその対応

アルコール依存—対象の拡大と新しい治療法

著者: 武藤岳夫1 杠岳文1

所属機関: 1国立病院機構肥前精神医療センター

ページ範囲:P.121 - P.129

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はじめに
 現在,わが国のアルコール医療は,大きな変革の時期を迎えている。その理由の一つは,2013年にアメリカ精神医学会で診断と統計のためのマニュアルが第5版に改訂され,(Diagnostic and Statistical Manual, 5 th edition,以下DSM-5)2)物質使用障害の診断基準で,依存(dependence)と乱用(abuse)の区別がなくなり,新たに使用障害(use disorder)として一本化され,診断の閾値が低下したことである。このことにより,比較的軽症の患者も医学的な診断の対象となり,必然的に治療・介入の対象者も広がることとなった9)
 もう一つの理由は,2014年にわが国でアルコール健康障害対策基本法が施行され,基本法に基づく推進基本計画(以下,基本計画)が2016年に策定されたことである。基本計画では,アルコール健康障害に関する予防,相談から治療,回復支援に至る切れ目のない支援体制の構築が重点課題として挙げられており,医療におけるさらなる質の向上と連携の促進,すなわち早期介入に向けての具体的な取り組みが求められることとなり,現在各自治体レベルでの推進計画が策定されつつある。
 本稿では,これまで依存症の治療とほぼ意味を同じくしていた,わが国におけるアルコール健康障害の治療の現状,また新たな介入技法や治療薬等について紹介し,今後の課題について考察する。

参考文献

1)Adamson SJ, Heather N, Morton V, et al:Initial preference for drinking goal in the treatment of alcohol problems:Ⅱ. Treatment outcomes. Alcohol Alcohol 45:136-142, 2010
2)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed(DSM-5). American Psychiatric Publishing, Washington D.C., 2013(日本精神神経学会日本語版用語監修,髙橋三郎,大野裕監訳:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014)
3)伴信太郎,北村和也,市原清志,他:アルコール関連障害に関するプライマリ・ケア多施設協同研究:プライマリ・ケアにおける問題飲酒者の頻度.日本医事新報 3945:37-43, 1999
4)遠藤光一,樋口進:精神療法・心理社会療法ガイドライン—12)アルコール依存.1.久里浜方式.精神科治療学 24(増刊):257-259, 2009
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7)木村充:専門病棟を持つ精神科医療機関におけるアルコール依存症治療プログラムの開発とその効果に関する研究.精神・神経疾患研究開発費 物質依存症に対する医療システムの構築と包括的治療プログラムの開発に関する研究(主任研究者 松本俊彦)平成25年-27年度分担研究報告書.pp33-41, 2016
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9)宮田久嗣:DSM-5における診断の変化とその意義.精神経誌 119:238-244, 2017
10)武藤岳夫,角南隆史,杠岳文,他:一般病院アルコール外来でのアルコール使用障害の治療転帰—節酒を治療目標の一つに掲げたことがもたらしたもの.日本アルコール・薬物医学会雑誌 48:47-57, 2013
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15)角田透:潜在するアルコール関連問題者数の推定について.河野裕明,大谷藤郎編:我が国のアルコール問題の現状—アルコール白書.厚健出版,pp43-53, 1993
16)U.S. Presentative Services Task Force:Screening and behavioral counseling interventions in primary care to reduce alcohol misuse:recommendation statement. Ann Intern Med 140:554-556, 2004
17)Witkiewitz K, Saville K, Hamreus K:Acamprosate for treatment of alcohol dependence:mechanisms, efficacy, and utility. Ther Clin Risk Manag 8:45-53, 2012
18)吉本尚,小松知己,猪野亜朗:アルコール使用障害へのSBIRT.精神科治療学 28(増刊):100-104, 2013
19)杠岳文:アルコール依存症に対する簡易介入の適応に関する研究.厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究(研究代表者 樋口進)平成26年-28年度総合分担研究報告書.pp283-294, 2017

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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