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躁うつ病の口腔内セネストパティーと生気悲哀の関係について
著者: 田中恒孝1 宮坂雄平1 宮坂義男1
所属機関: 1松南病院精神科
ページ範囲:P.209 - P.211
文献購入ページに移動はじめに
Schneider K6)は循環病性うつ病(内因性うつ病と躁うつ病性うつ病)の主要な感情障害は生気悲哀であるといい,それは表現困難な身体感覚・身体感情・自律神経症状の組み合わされた不快な体験である9)。筆者らは循環病性うつ病に顕著な口腔内セネストパティー(以下,口腔内体感症と略す)様症状を示し,うつ病相の改善につれ消退した1症例を経験した。うつ病に伴う口腔内体感症の症例報告は決して少なくない4,5,11)が,うつ病の身体感情障害である生気悲哀との関係を詳しく論じたものはない。本症例の苦痛で奇異な精神・身体的体験はうつ病相と関係して発現し,その改善につれ消失した。それゆえ,循環病性うつ病者の示す口腔内体感症には,口腔に限局した生気悲哀が含まれている可能性があると考えた。
本症例報告にあたり患者の了解を得ており,利益相反はない。
Schneider K6)は循環病性うつ病(内因性うつ病と躁うつ病性うつ病)の主要な感情障害は生気悲哀であるといい,それは表現困難な身体感覚・身体感情・自律神経症状の組み合わされた不快な体験である9)。筆者らは循環病性うつ病に顕著な口腔内セネストパティー(以下,口腔内体感症と略す)様症状を示し,うつ病相の改善につれ消退した1症例を経験した。うつ病に伴う口腔内体感症の症例報告は決して少なくない4,5,11)が,うつ病の身体感情障害である生気悲哀との関係を詳しく論じたものはない。本症例の苦痛で奇異な精神・身体的体験はうつ病相と関係して発現し,その改善につれ消失した。それゆえ,循環病性うつ病者の示す口腔内体感症には,口腔に限局した生気悲哀が含まれている可能性があると考えた。
本症例報告にあたり患者の了解を得ており,利益相反はない。
参考文献
1)Glatzel J:Leibgefühlsstörung bei endogenen Psychosen. In:von Huber G, ed:Schizzophrenie und Zyklothymie. Thieme, Stuttgart, 1969(保崎秀夫,武正健一,浅井昌弘他訳:内因性精神病における身体感情障害.精神分裂病と躁うつ病—臨床経験と問題点.医学書院,pp183-187, 1974)
2)保崎秀夫:セネストパティーとその周辺.濱田秀泊編:保崎秀夫著作集Ⅱ精神病と神経症/診断と治療/歩んだ道.群馬病院出版会,pp79-91, 2011
3)Huber G:Psychiatrie. Schattauer, Stuttgart-New York, 1981(林拓二訳:精神病とは何か? 新曜社,2005)
4)宮岡等:口腔内セネストパチー.精神科治療学 12:347-355, 1997
5)佐藤田鶴子,吉成伯夫,岩重洋介,他:口腔セネストパティーの2症例.日本口腔外科学会雑誌 35:1268-1272, 1989
6)Schneider K:Klinische Psychopathologie. Thieme, Stuttgart. 15 Aufl. mit einem akualisierten und erweiterten Kommentar von Huber G. und Gross G. 2007(針間博彦訳:クルト・シュナイダー新版 臨床精神病理学.原著第15版.文光堂,2007)
7)Sims ACP:Sympoms in the Mind. An Introduction to Descriptive Psychopathology. 3rd ed. Elsevier, London, 2003(飛鳥井望,野津真,松波克文,他訳:シムズ記述精神医学.西村書店, 2012)
8)曽根啓一,植木啓文:歯科領域における仮面うつ病.精神医学 25:1065-1072, 1983
9)田中恒孝,宮坂義男:生気悲哀に関する第二報.精神科治療学 31:1471-1476, 2016
11)矢崎妙子,倉持弘,志村介三:口腔内体感異常の現象学.高橋良,宮本忠雄,宮坂松衛編:幻覚の基礎と臨床.医学書院,pp178-189, 1970
12)吉松和哉:セネストパチーの研究.金剛出版, 1985
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