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雑誌目次

雑誌文献

精神医学60巻4号

2018年04月発行

雑誌目次

特集 精神科診療におけるてんかん

特集にあたって

著者: 吉野相英

ページ範囲:P.317 - P.317

 精神科外来には多種多様な「発作エピソード」を訴えて患者が訪れてくるが,その診断に至る過程は単純ではない。たとえば,発作性健忘を訴える患者では解離症と診断する前に複雑部分発作や一過性てんかん性健忘などを鑑別しなくてはならないだろう。てんかん発作との鑑別のために神経内科を紹介する方法も考えられるが,その神経内科医は解離についても知識を持ち合わせているのだろうか。神経内科医の「心因性」という診断を鵜呑みにして治療を始めても問題はないのだろうか。こうした精神医学と神経学の境界領域についても精通していることが精神科医には求められている。とは言え,明日の精神医療を担う専攻医にとって経験すべき対象はICD-10のFコードかDSM-5にリストアップされている病名がすべてであって,どちらにも掲載されていないてんかんに対する関心は低くなりがちと言わざるを得ない。したがって,この境界領域の診療の担い手を増やしていくための啓発は重要な課題と言える。
 本特集では,精神科診療におけるてんかん学の重要性を読者に再認識していただくことを目的とし,精神科診療で遭遇することの多いてんかん症候群とその境界領域について,第一線で活躍されている先生方に解説をお願いした。

心因性非てんかん性発作を診わける—治療的介入との一体性

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.319 - P.328

はじめに
 心因性非てんかん性発作は,てんかんを疑われて来院する人のほぼ1割,難治の人が集積するてんかんセンターでは2割近くに及ぶとも言われており,けいれんしながら救急搬送される成人の3割を超えるとも言われている5,6)。こうした背景からは総合病院の精神科医がコンサルトを受ける可能性も少なくない上に,時には精神科クリニックで診療中の人がけいれん様の症状を起こす事態は十分想定される。心因性非てんかん性発作(psychogenic non-epileptic seizure:PNES)に対する研究はその臨床的な重要さから等比級数的に増加しており,きわめて多数の論文が英文論文では発表されている。しかし臨床という観点からはいくつかの喫緊の課題が存在している。
 第1に,臨床と研究の深刻な乖離の問題を挙げることができる。Cognitive behavioral therapy(CBT)が有効という論文は枚挙にいとまがないほど発表されてきたが,確かにCBTの開始時点と終了時点を比較すれば発作回数は減りはするが,長期的なQOLの改善にそれがつながるかどうかについては信頼性の高いデータは存在していない2)。物言わぬ精神科医,ケースワーカー,臨床心理士が個々のケースを自らの患者として受け入れ,長期間にわたって社会的な側面を含めて介入しつつフォローすることこそが真のQOLの改善につながっているのではないかという臨床実感がある。しかし,それを裏付ける研究デザインを作成することは構造的な困難さを伴うため,PNESの研究においては,長期的な実臨床を担う現場と論文発表をするCBT研究者との間に,必然的に深刻な乖離が生ずることになる。
 第2にはPNESが神経学と精神医学の境界領域にあるという古くから強調されてきた問題である。神経内科医は自身にとって理解が難しい症状を精神科領域の問題だと考え,精神科医は逆に神経内科領域の問題だと考える傾向は世界的にみられ1),精神医学と神経学が別の領域に分けられてから一貫して存在し続けてきた問題であるとも言える。てんかん専門医が非てんかん性の病態だと判断して,地域の精神科医に紹介した患者がしばしばてんかんを再度疑われて送り返されてくるという事態が稀ならず起こることをこぼす国外のてんかん専門家は多い。他方で今世紀に入ってからでも爆発的な勢いで新たな病態が見つかっており,たとえばvoltage-gated potassium channels(VGKC)抗体脳炎では,faciobrachial dystonic seizureというこれまでてんかんの専門家が非てんかん性の病態だと判断しかねなかった特異な形態のけいれんが実はその診断に不可欠な特徴的な症状の1つとしてクローズ・アップされるという展開も起こっている。こうした背景を考えるならば,たとえ専門家が器質性疾患ではないと判断した病態についても,精神科医が独自の視点から,どうしても心因性の病態だとは思えないという事態が繰り返し起こるのはむしろ当然のことではないかとも思われる。
 第3は,「心因」という言葉に対する精神科医の敵意の問題がある。これはアメリカ精神医学における風土病が日本に伝播したものとも考えることができる現象でもあるが,精神分析への強い傾斜とそれへの反発というアメリカ特有の歴史的・政治的な経緯がDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)という診断体系のうちに具現化され,これを通して「心因」を連想させる疾病名はDSM第3版以降は可能な限り解体され,排除されてきた。PNESの「心因性」という冠は確かに必ずしもすべてのPNESに関して実態を表しているとは言い難いところはあるが,他方で心因性非てんかん性発作にも器質因では出現し難く除外診断ではなく積極診断が可能な場合もあり,さらに失神その他の非てんかん性ではあるが器質性のてんかん類似症と線引きをするという意味でもこの冠を現時点で外すのは混乱をもたらす可能性がある。実臨床において,薬物療法ではなく,環境調節と心理療法が一次的な治療手段であることを明確に意識するという意味でも,今のところはこの病名の有用性は有害性を上回っているのではないかと思われる。
 以下,本稿では第1,第2の問題に焦点を絞って論じたい。

睡眠中の異常行動—パラソムニアと睡眠関連てんかんを中心に

著者: 千葉茂

ページ範囲:P.329 - P.338

はじめに
 睡眠中には,さまざまな異常行動が出現する。睡眠中の異常行動(abnormal behaviors during sleep)は,夜間の睡眠構造の破綻だけでなく,日中の過剰な眠気も引き起こす。また,睡眠中の異常行動によって,患者はもちろん周囲の人が受傷する場合もある。てんかん発作が診断されずに未治療の状態で繰り返し出現すると,実験てんかんのキンドリングモデル11)で示されているように,発作時のてんかん性発射がもたらす反復性電気刺激によって発作症状が重症化・難治化することが予想される。このような理由から,睡眠中の異常行動については早期に診断・治療することが重要である。特にパラソムニア1)と睡眠関連てんかん1)は,睡眠中の異常行動の代表的疾患であるだけでなく,その鑑別診断も難しいため,本稿では両疾患を中心に概説する。

精神科診療で遭遇するNCSE

著者: 谷口豪

ページ範囲:P.339 - P.346

精神科医が知っておきたいNCSE概念の歴史—総論
 非けいれん性てんかん重積状態(non-convulsive status epilepticus:NCSE)は,脳波上は電気的な発作活動が持続しているにもかかわらず,けいれんなどの運動症状が目立たず,意識障害を示す状態を示す9)
 NCSEの概念・定義は拡大傾向にあり,その背景疾患や脳波所見そしてNCSEを診断・治療する医師の立場も多様になっており,混乱を招いている部分もある3,18)。そのため,NCSEの概念がどのように成り立ってきたのかを知るのは重要であり,以下に簡単にNCSEの歴史について述べる。

高齢初発てんかん

著者: 小玉聡 ,   渡辺雅子

ページ範囲:P.347 - P.358

はじめに
 てんかんは小児の病気と誤解されることが多いが,数々の疫学研究により発症率は年齢とともに上昇し,65歳以上の高齢者で最も高くなることが示されている。てんかんは脳に生じるあらゆる疾患を背景として起こるため,脳卒中や神経変性疾患の有病率が高い高齢者でてんかんが増えるのは,実は自然なことと言える。今後の高齢化社会では,その患者数はさらに増加すると予想される。高齢発症のてんかんは,若年者と臨床像や検査所見が異なる上に,鑑別すべき疾患も多岐にわたるために診断が困難であることが多く,過少診断または過剰診断となることが少なくない。また,高齢者は薬物代謝能が低下しているため,治療においては副作用に注意し,薬剤選択の際は併存疾患やポリファーマシーを考慮する必要がある。一方で,高齢者てんかんは薬剤反応性が比較的良好であることが知られており,適切な診断・治療により患者のQOLに大きく貢献することができる。高齢者のてんかんに特徴的な臨床像も知られており,それらが診断のヒントになることもある。本稿では,高齢初発てんかんのマネジメントに必要な基礎知識を提示する。

てんかんと精神病性障害

著者: 山田了士

ページ範囲:P.359 - P.366

はじめに
 慢性疾患治療の目標が生活の質に大きくシフトしている現代にあって,てんかん診療においても,精神病や抑うつといった精神症状の適切な治療は特に重要なことの一つである。てんかんと精神病の関連あるいは類縁性については19世紀から関心が持たれ,20世紀には多くの重要な指摘がなされてきている。しかし,実臨床での関心は精神科領域でも神経内科領域でもその重要性の割にまだ低いのが現状である。それでも,わが国では数々の研究者や臨床家が病態解明に大きく貢献してきた経緯がある。
 てんかんにおける精神病の有病率は5.6%(対照とのオッズ比は7.8)と一般よりもかなり高く,特に側頭葉てんかんでは精神病の有病率はさらに上がって7%に至るという4)。てんかんの合併精神障害の頻度自体は,気分障害や不安障害,あるいは発達障害などのほうが高いかもしれないが,精神病性障害のもたらす生活への影響が重大であるのは言うまでもなく,また精神病性障害はてんかんおよびてんかん発作との関連における成立機序を考える上で,それぞれの疾患の本態にかかわる重要な問題を含む可能性がある。本稿では,まずてんかんに関連する精神病性障害を概説し,その成立機序に関する最近の知見も含めて考察してみたい。

不機嫌症の現在

著者: 吉野相英 ,   立澤賢孝 ,   須田哲史

ページ範囲:P.367 - P.374

はじめに
 不機嫌症について議論されなくなってからかなりの年月が過ぎた。死語と言ってもいい。障害年金請求用診断書の現症記載欄には選択項目としててんかん発作と並んで不機嫌症が記載されているが,この用語の詳細を承知している臨床医はかなり減っているだろう。四半世紀前までは不機嫌症について触れている邦文論文13,20)を目にすることもあったが,その後忽然と消えてしまった。小論では不快気分症と名前を変えて復活した不機嫌症に関する最近の研究を紹介し,現在の精神科診断体系における位置付けやその意義について考えてみたい。

新世代抗てんかん薬を使いこなす

著者: 西田拓司

ページ範囲:P.375 - P.384

はじめに
 てんかんは有病率が1%に近く,頻度の高い精神神経疾患である。てんかんの主症状であるてんかん発作は抗てんかん薬による薬物治療が基本となる。長年,部分発作に対するcarbamazepine(CBZ)と全般発作に対するvalproic acid(VPA)がてんかん薬物治療のゴールドスタンダードだった。しかし,1990年代以後,海外では新世代抗てんかん薬(以下,新規抗てんかん薬)が次々に上市され,抗てんかん薬の治療戦略が変化しつつある。本邦では海外と比較して新規抗てんかん薬の承認・販売が遅れてきた。この遅れはドラッグラグと呼ばれ,長年大きな問題とされてきたが,2006年以後,多くの新規抗てんかん薬が使用可能となり,ようやく欧米の状況に追いつきつつある。本邦もてんかんの薬物治療の転換期を迎えたと言える。
 ところで,本邦では長年成人てんかんの治療は精神科医が担ってきた。しかし,近年,その役割は神経内科医や脳外科医へ移りつつある。精神科医がてんかん患者の診療にあたる機会が減り,従来薬でのてんかん治療に精通している精神科医も,新規薬による治療の経験が少ないかもしれない。一方,最近てんかん診療にかかわりだした神経内科医や脳外科医にとって,もはや新規抗てんかん薬が薬物治療の基本となっている。ところが,新規薬の一部は精神面に対するネガティブな影響が大きいことが分かってきた。今後,てんかんを専門としない精神科医も,逆説的に,(精神症状を持つ)てんかん患者の診察を引き受ける機会が増えると考えられる。その際,必要となるのは新規抗てんかん薬を追加するための知識より,減量・中止するための知識かもしれない。いずれにしても,新規抗てんかん薬を含めたてんかん治療についての基本的知識は精神科医にとって必須のものと考える。

展望

双極Ⅱ型障害について—双極Ⅰ型障害の軽症型との理解ではなく

著者: 吉村淳 ,   鈴木映二

ページ範囲:P.385 - P.397

はじめに
 双極Ⅱ型障害とは一般の精神科医にとってどんなイメージの疾患であろうか。明らかな躁病相とうつ病相が交代する双極Ⅰ型障害は,古典的な躁うつ病の理解が当てはまりやすい。精神科病院に勤めていると,典型的な躁状態の患者が興奮して搬送されてきて,声高にまとまりなく誇大的な内容を話し続けるといったことから,比較的容易に双極Ⅰ型障害の診断がつく。患者に振り回されて周囲の人たちも疲弊しており,「何とか入院をお願いします」と懇願することになり,医療保護入院での治療が開始されるであろう。服薬可能な場合には,治療ガイドラインにのっとり,リチウムまたはバルプロ酸を主剤として,必要に応じて非定型抗精神病薬を使用して,静穏化をはかるという治療コースもおおむね敷かれている。
 それに比べて,双極Ⅱ型障害は確固たるイメージを持ちにくく,全体的にぼやけた印象があるのではなかろうか。一般的には,双極Ⅰ型障害の軽症型として捉えられて,双極Ⅰ型障害が激しい躁状態を呈するのに比べて,双極Ⅱ型障害の場合には,多弁で活動性が上昇するが,易怒性は比較的抑えられており,逸脱した行為は少ないなどのかなり恣意的な判断で,軽躁状態とみなされ,診断としては「強いて言えばⅡ型になるだろう」として,双極Ⅰ型障害に準じた治療を開始するということが日常的に行われているように思われる。実際に,日本の双極性障害治療ガイドラインに目を通しても,双極Ⅱ型障害についてほとんど紙面が割かれていない49)
 そのため,双極Ⅱ型障害は精神科医の誰もが知る疾患でありながら,漠然として捉えどころがない。双極Ⅰ型障害という強烈な印象を示す疾患に隠れて,どこか日陰の存在である。古くはDunnerらによって,反復性の抑うつ状態を繰り返していた入院中の患者の多くで,以前に入院する必要がない程度の軽い躁病エピソードがあったことが見出された24)。家族歴から双極Ⅰ型障害と同様に,その病態の遺伝的な要因も強いことが描出されて,双極Ⅱ型障害と名付けられた。それから20年近く経過して,DSM-Ⅳの中に,抑うつエピソードと軽躁病エピソードの既往の存在する場合に,双極Ⅱ型障害(軽躁病エピソードを伴う反復性大うつ病エピソード)との診断名が正式に記載された1)。DSM-Ⅳにおいて,躁病エピソードと軽躁病エピソードはその持続期間と重症度において区分されていた。持続期間は躁病エピソードの場合は1週間以上であり,軽躁病エピソードでは4日以上となっていた。重症度については,躁病エピソードでは「職業的機能や日常の社会活動または他者との人間関係に著しい障害を起こすほど,または自己または他者を傷つけるのを防ぐため入院が必要であるほど重篤であるか,または精神病性の特徴が存在する」とあり,軽躁病エピソードでは「社会的または職業的機能に著しい障害を起こすほど,または入院を必要とするほど重篤でなく,精神病性の特徴は存在しない」との説明であった。つまりは,重症度に関しては入院を必要とするかどうかと,精神病症状の有無を一つの目安としていた。
 それらの記載からは,双極Ⅱ型障害は,躁的な状態の持続期間が短く,病状も比較的軽いという説明であり,双極Ⅰ型障害の軽症型との認識しか残らない。このような症状の軽重で,疾患を分類する場合は,軽症型は重症型が除外された場合にのみ該当することとなり,しばしば重症型にその疾患の定型的な病状を有する患者群が集中して,軽症型として非定型的な患者が拾われることになる。必然的に,重症型の診断の信頼性や妥当性は高くなるが,軽症型の診断の信頼性や妥当性は低く,軽症型の診断基準が疑問視されることとなる。DSM-Ⅳにおけるアルコール依存症とアルコール乱用ではまさにこのような上下関係にあり,依存症が除外された場合においてのみ,飲酒によって社会的な問題を引き起こしたときは乱用の診断が適用された。その結果,依存症診断の信頼性や妥当性は高かったが,乱用の診断基準は問題視され,DSM-5においてはアルコール使用障害として一連の疾患としてまとめられた32,65)
 同様の理屈から,DSM-Ⅳでの双極Ⅱ型障害の診断についても,DSM-5において双極スペクトラム症といったような名称で,一連の疾患として双極Ⅰ型障害とともに一括りにされてもよかったはずであった。しかし,双極Ⅱ型障害は独立した診断として残った2)。双極Ⅱ型障害や軽躁病エピソードにおける診断の信頼性に関して,確かに論争が続いている。ただし,構造化面接を用いた双極Ⅱ型障害の診断の信頼性は,双極Ⅰ型障害や大うつ病と同程度に高く,特異性の高い疾患であるとの報告がある55)。DSM-Ⅳに基づいた構造化面接でも,2つの面接法の診断一致率が双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害ともに高く,診断妥当性が示されている40)。双極Ⅱ型障害が特有の病態や病状経過を呈する疾患であるとの観察研究の積み重ねがあり,最近では,双極Ⅰ型障害とは異なる薬物治療の適応についてのエビデンスが集積されてきている実状がある。今回,主に双極Ⅰ型障害との異同を対比させることで,双極Ⅱ型障害に固有の特徴を浮き彫りにしていく。

研究と報告

成人用ADHD評価尺度ADHD-RS-Ⅳ with adult prompts日本語版の信頼性および妥当性の検討

著者: 市川宏伸 ,   齊藤万比古 ,   齊藤卓弥 ,   仮屋暢聡 ,   小平雅基 ,   太田晴久 ,   岸田郁子 ,   三上克央 ,   太田豊作 ,   姜昌勲 ,   小坂浩隆 ,   堀内史枝 ,   奥津大樹 ,   藤原正和 ,   岩波明

ページ範囲:P.399 - P.409

抄録 小児ADHDの症状評価で世界的に汎用されるADHD-RS-Ⅳは,海外にて成人ADHDに対応する質問(prompts)と組み合わせて成人向けに使用されている(ADHD-RS-Ⅳ with adult prompts)。本研究は,日本語版promptsを作成し,日本人の成人ADHD患者36名および非ADHD成人被験者12名を対象に,その信頼性および妥当性を検討した。その結果,評価者内および評価者間信頼性の指標である級内相関係数は高く,内部一貫性の指標であるCronbach αは高い値を示した。CAARS日本語版およびCGI-Sとの相関で検討した妥当性も良好であり,かつADHD患者と非ADHD被験者との判別能力を検討するROC解析においても優れた結果であった。成人用prompts日本語版は,ADHD-RS-Ⅳとともに用いることで,成人ADHDの症状評価の手段として有用であると考えられた。

アルツハイマー病と前頭側頭型認知症における開扉操作の検討

著者: 和泉美和子 ,   丸山志織 ,   田中政春 ,   今村徹

ページ範囲:P.411 - P.416

抄録 前頭側頭型認知症(FTD)の代表的症候である「立ち去り行動」と類似した,課題の継続を拒否して席を立ち検査室を出ようとする行動は,進行期のアルツハイマー病(AD)においてもみられる。ADではその際に,ドアノブを握って試行錯誤するが開扉できないことがしばしばみられ,検査室の扉を開けることには困難を示さないFTDとは対照的である。そこで本研究では,進行期のADとFTDで開扉操作の障害の頻度や程度に差があるという仮説を検証するとともに,開扉操作に関係する要因の検討を行った。FTDはADに比して容易に開扉可能であり,開扉を可能にする背景要因として,構成課題に反映される頭頂後頭領域機能の相対的保存が示唆された。

紹介

ICD,ICF,ICHI,そしてAI

著者: 丸田敏雅 ,   松本ちひろ

ページ範囲:P.417 - P.427

抄録 WHOはICD,ICFおよびICHIによるデータ収集と解析により今後の保健施策の決定を行うことを目標にしている。本稿ではこれらのうち本邦ではまだ紹介されていないICHIβ版の精神関連分野について紹介した。ICHIβ版は「身体システムと機能における介入」,「活動と参加領域における介入」,「環境における介入」,「健康関連行動における介入」の4つのセクションから構成されている。精神分野に関係するものとして,「身体システムと機能における介入」には精神機能(AS),全般的精神機能(AT),個別的精神機能(AU)がある。
 本稿では精神科臨床でよく遭遇する反復性うつ病性障害と統合失調症に対してICD-11β版,ICFおよびICHIβ版を運用してみた。
 また,これら3つの分類の運用についてはAIの活用は不可欠であると思われ,その点も考察した。

私のカルテから

性器露出を繰り返す知的障害に行動療法,薬物療法とともにレスリング用トランクスが有効であった1例

著者: 加藤悦史 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.429 - P.431

はじめに
 知的障害の犯罪は窃盗,性犯罪,放火が多く1〜3),知的障害の性犯罪は累行する傾向が強い3)という特徴がある。知的能力との関係性が指摘されているが2),現在まで有効な治療法は確立されていない4)。今回我々は性器露出を繰り返す知的障害に行動療法,薬物療法とともにレスリング用トランクスが有効であった1例を経験した。若干の考察を加えて報告する。なお匿名性保持のため論旨に影響のない程度に改変を施し,症例呈示に際し本人より同意を得ている。

追悼

融 道男先生を偲んで

著者: 西川徹

ページ範囲:P.432 - P.434

 東京医科歯科大学名誉教授で,精神医学の発展に大きく貢献された,融道男先生が,2017年5月7日に逝去されました。先生は,1958年に九州大学医学部をご卒業になり,精神医学を志して島崎敏樹先生が主宰されていた,東京医科歯科大学医学部神経精神医学教室に入局されました。その後,国立武蔵療養所神経センター(現・国立精神・神経医療研究センター神経研究所)部長,信州大学医学部精神医学教室教授,東京医科歯科大学医学部神経精神医学教室教授,ならびに「生物学的精神医学および精神保健に関する研究・訓練のためのWHO協力センター」センター長をご歴任になるとともに,日本生物学的精神医学会理事長,日本神経精神薬理学会理事長,日本神経化学会理事をはじめ学会の要職を通じて,精神疾患の生物学的研究のリーダーの一人として活躍され,国内外から高い評価を受けてこられました。
 融先生のライフワークは統合失調症の原因解明でしたが,そのために,生化学的アプローチが不可欠とお考えになり,早くから周到な準備をされていたことが窺われます。インディアナ大学のAprison教授の下に1964年より留学され,脳のアセチルコリンの微量測定法を確立されましたが,これも後の神経伝達物質の研究の基盤作りだったように思われます。常に,脳内物質の精度の高い測定法を,専門の基礎研究者の意見や指導を求めながら構築され,精神疾患の分子病態について新しい側面を開拓してこられたことが,基礎研究者からも信頼される水準の高い研究成果をもたらしたと推察されます。物質的な手がかりが乏しかった統合失調症には慎重に取り組まれ,前段階として,先生が別に注目されていた,本症と同じく明確な形態学的変化を伴わないにもかかわらず劇的な機能的変化を示す睡眠・睡眠覚醒リズムの生化学的研究から始められ,セロトニン伝達系との関係を明らかにする成果を挙げられました。

書評

—ガートルード・ブランク,ルビン・ブランク著/馬場謙一監訳,篠原道夫,岡元彩子 訳—自我心理学の理論と臨床—構造,表象,対象関係

著者: 堀川聡司

ページ範囲:P.436 - P.436

 米国の精神分析家であり,優れた教育者として知られているブランク夫妻による教科書的著書が翻訳出版された。題名の通り,自我心理学の理論(第一部)と技法(第二部)が包括的に学べる内容となっている。
 読者の中には,精神分析の著作,それも1994年に刊行された著作(第一版は1974年)が訳されたことについて,「なぜいまどき?」と疑問に思う方もいるかもしれない。いうまでもなく今日の精神医学は,精神生理学・精神薬理学が中心であり,20世紀中盤に全盛期を迎えた精神分析とは,病理理解も治療法も根本的に異なる。さらに精神分析は,良く言えば「古典」,悪く言えば「精神医学の発展を遅らせた阻害物」と見なされることさえある。

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.346 - P.346

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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目次

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P.438 - P.438

編集後記

著者:

ページ範囲:P.442 - P.442

 できあがった本号を読んで,精神医学および医療の歴史,現状,未来への展望が詰まっていることに感銘を受けました。充実したコンテンツです。
 特集では,神経学との境界領域で精神科医が鑑別を求められるてんかんを取り上げました。心因性非てんかん発作,睡眠中てんかん性異常行動,非けいれん性てんかん重積,高齢初発てんかん,てんかんの精神病性障害,周期性不機嫌症など,臨床において高頻度に遭遇するてんかん関連症候,新世代抗てんかん薬の使用法について,第一線の専門家による明解な解説論文が集まりました。まとめて学ぶチャンスの少ないこの領域について,きわめて有用な情報を与えるものとなっています。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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