精神医学60巻8号

2018年08月発行

特集 作業療法を活用するには

居住系施設における生活支援の作業療法

著者： 水野高昌¹²

所属機関： ¹特定非営利活動法人おれんじはぁとグループホームなんがい ²帝京平成大学健康医療スポーツ学部作業療法学科

ページ範囲：P.845 - P.855

文献概要

はじめに
　厚生労働省により示された「入院医療中心から地域生活中心へ」の政策理念のもと「10年以内に7万床の削減」³⁾との目標は道半ばであり，「受け入れ条件が整えば退院可能」とするものが未だ5.3万人在院しており⁴⁾，精神障害者が地域で生活するための居住支援の拡充が急務となっている。国内において居住支援サービスはさまざまな形態で提供されているが，本稿ではグループホーム(共同生活援助)事業における作業療法士の実践を中心に述べていく。
　グループホーム(以下，GH)職員は，精神障害者の地域生活支援において，安全・安定・安心の保障を中心に，支援に限界がある場合は他機関との連携で補い，精神障害者の生活の個別性を重視した支援を実践している¹⁾。また，利用期限が原則3年と規定されている通過型GH(東京都の独自事業)の役割と機能について，達成体験から得られる自信と生活能力の拡大が重要な点となっている¹⁸⁾。
　作業療法士が地域生活支援において今後の活動範囲を広げていくことが期待されており²⁰⁾，実際の地域生活支援の場であるGHで，作業療法士は精神障害者をどのように支援し，指導しているのか，その際の作業療法士の支援の特徴は何か，本稿はそれについて触れていきたい。

参考文献

1)池邉敏子，グレッグ美鈴，高橋香織，他：精神障害者の地域生活支援の構造—グループホームでの支援実態から．岐阜県立看護大学紀要 4：13-19, 2004

2)小松洋平，小松千惠，上城憲司，他：不安感が強く混乱しやすい症例に対する精神障害者グループホームにおける作業療法介入の効果—シングルケース法を用いた検討．臨床精神科作業療法研究 7：53-59, 2010

3)厚生労働省：新障害者基本計画及び重点施策実施5か年計画(新障害者プラン)について．厚生労働白書平成16年版．2004

4)厚生労働省：精神病床における入院患者数の推移，最近の精神保健医療福祉施策の動向について．平成27年度全国保健所長会研修会配布資料，2016年1月28日，(http://www.phcd.jp/02/kensyu/pdf/2015_temp03.pdf)，(2018年6月21日閲覧)

5)厚生労働省：第8回これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会　資料1-3，2017．(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000151161.html)，(2018年6月21日閲覧)

6)増田雄太，伊豆一郎：精神障がい者のグループホームの現状に関する文献検討．中京学院大学看護学部紀要 5：91-101, 2015

7)水野高昌：精神障害者向けグループホームの交流室における相互作用—世話人を務める作業療法士の特徴．作業療法 35：239-252, 2016

8)宮崎宏興，早坂友成編：精神科作業療法の理論と技術　Ⅱ章　精神科作業療法の役割　8　グループホーム．pp79-85，メジカルビュー社，2018

9)Mary Law他著，吉川ひろみ訳：COPM—カナダ作業遂行測定第4版，大学教育出版，2006

10)野中猛：これからの作業療法士に期待すること．作業療法 28：615-618, 2009

11)日本作業療法士協会：第三次作業療法5ヵ年戦略．日本作業療法士協会誌 74：10-29, 2018

12)日本作業療法士協会：作業療法の定義，2018．(http://www.jaot.or.jp/about/definition.html)(2018年6月21日閲覧)

13)大友勝：世話人の条件．精神障害者グループホーム設置・運営ハンドブック．中央法規出版，2005

14)鈴木一広，水野高昌：通過型グループホームにおける困難事例からの学びと課題—金銭管理の失敗を繰り返すケースへの対応．日本作業療法学会抄録集2016, ON-5-1, (http://jotc50.mas-sys.com/pdf/endai100476.pdf), 2016

15)鈴木一広，水野高昌：再入院を繰り返す地域在住統合失調症者との関わりの一例—通過型グループホームの交流室での関わりから．日本作業療法学会抄録集2017, PH-2B03, (http://jotc51.mas-sys.com/pdf/endai100112.pdf), 2017

16)佐藤さやか，伊藤明美：日常生活技能が低下している統合失調症．Schizophrenia Frontier 11：284-287, 2011

17)田中智子：グループホームにおける地域生活支援．臨床作業療法 8：573-577, 2012

18)内山繁樹，菅原道哉，西典子，他：通過型グループホーム入居者の生活体験と居室訪問の受け止め．横浜看護学雑誌 2：69-75, 2009

19)Winnicotto DW著，橋本雅雄訳：遊ぶここと現実．岩崎学術出版，1979

20)山根寛：精神科作業療法の現状と課題．日本精神病院協会雑誌 25：18-23, 2006

21)山根寛，他：ひとと集団・場—人の集まりと場を利用する第2版．三輪書店，2007

22)山根寛：ひとと作業・作業活動—作業の知をとき技を育む．三輪書店，2015

23)山根寛：精神障害と作業療法新版．三輪書店，2017

24)横山恵子，金井一薫，山崎京子：精神障害者の地域生活上の課題と支援のあり方—KOMIチャートを用いた当事者の実態調査を通して．日本看護学会論文集 精神看護36：172-174，2005