icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学61巻1号

2019年01月発行

文献概要

特集 高齢者のメンタルヘルス

老年期の統合失調症とメンタルヘルス

著者: 新里和弘1

所属機関: 1東京都立松沢病院精神科

ページ範囲:P.47 - P.53

文献購入ページに移動
はじめに
 現在の社会が高齢統合失調症者にとって暮らしやすい社会かどうか,病態により一概には言えないであろうが,ある程度病状が残る統合失調症者にとってはかなり厳しい社会なのではないだろうか。たとえば高齢者の生活と切っても切り離せないものに介護保険制度があるが,介護保険の基本は,サービス供給者と需要者の「契約」である。人との付き合いを最小限にして生きてきた高齢統合失調症者は多く,そのような者の多くは介護サービス導入にまでたどり着けていない。「地域包括ケアシステム」が超高齢化社会に向けてのキーワードとされており,この仕組みの最終的な目標が「地域づくり」であることは知られているが,地域包括ケアの恩恵にあずかるためには,その街に暮らしていることが前提である。高齢統合失調症者は,地域に「番地」は持っていても暮らしてはいない。もちろんすべての者ではないが,特に「高齢」「単身」の患者は,地域での人的交流が希薄である。認知症カフェが流行りであるが,そのような場に出入りしている高齢統合失調症者はおそらくきわめて少ないのではなかろうか。
 高齢統合失調症者の社会からの籠居率を小さくするための,また現時点で籠居している者の生活の質を上げるための方策は何か,ということが本論に求められた論題と考えるが,結論を先に述べるならば,発病から数年〜10数年の統合失調症の治療技術を向上させ支援体制を充実させるということが,最終的には最も必要とされることであろう。統合失調症は若い人の病気である。年をとってからでは遅すぎることが多すぎる。とは言え,未治療で経過し高齢化してから症状が顕在化する例もあり,来るべき超高齢化社会に向け,高齢統合失調症者の生活上の問題を整理しておくことも重要と考える。若干の考察を交えて以下に記載した。

参考文献

1)Chung JK, Nakajima S, Plitman E, et al:ß-Amyloid Burden is Not Associated with Cognitive Impairment in Schizophrenia:A Systematic Review. Am J Geriatr Psychiatry 24;923-939, 2016
2)Cohen CI, Meesters PD, Zhao J:New perspectives on schizophrenia in later life:implications for treatment, policy, and research. Lancet Psychiatry 2:340-350, 2015
3)藤野成美,重松由佳子:精神障がい者アウトリーチの概念分析.インターナショナルNursing Care Research 17:111-120, 2018
4)Gerretsen P, Plitman E, Rajji TK, et al:The effects of aging on insight into illness in schizophrenia:a review. Int J Geriatr Psychiatry 29:1145-1161, 2014
5)Hennekens CH, Hennekens AR, Hollar D, et al:Schizophrenia and increased risks of cardiovascular disease. Am Heart J 150:1115-1121, 2005
6)Jeste DV, Wolkowitz OM, Palmer BW:Divergent trajectories of physical, cognitive, and psychosocial aging in schizophrenia. Schizophr Bull 37:451-455, 2011
7)経済産業省:障害者白書 平成25年度版.http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/zenbun/index-pdf.html(2018年11月28日閲覧)
8)Laursen TM:Life expectancy among persons with schizophrenia or bipolar affective disorder. Schizophr Res 131:101-104, 2011
9)内閣府:セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査—幸福度の視点から.平成22年度内閣府経済社会総合研究所委託事業.2011
10)中根允文,吉岡久美子,中根秀之:心のバリアフリーを目指して.勁草書房,2010
11)Kaplan & Sadock's:Synopsis of Psychiatry. 11th ed. Kluwer, Philadelphia, 2014(井上令一監修:カプラン臨床精神医学テキスト 日本語版第3版.メディカルサイエンスインターナショナル,2016)
12)嘉代佐知子,佐々木祐子:横浜市の取り組み.いわゆる「ごみ屋敷」対策 チーム横浜での取り組み:保健師ジャーナル 74:571-578, 2018
13)Niizato K, Genda K, Nakamura R, et al:Cognitive decline in schizophrenics with Alzheimer's disease:a mini-review of neuropsychological and neuropathological studies. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 25:1359-1366, 2001
14)Niizato K, Arai T, Kuroki N, et al:Autopsy study of Alzheimer's disease brain pathology in schizophrenia. Schizophr Res 31:177-184, 1998
15)野口正行:地域精神保健と保健師の今.精神医学 60:657-672, 2018
16)大浦沙織:生活支援と就労支援の連携—ACT-Jの実践を通して.精神障害とリハビリテーション 20:184-191, 2016
17)Religa D, Laudon H, Styczynska M, et al:Amyloid beta pathology in Alzheimer's disease and schizophrenia. Am J Psychiatry 160:867-872, 2003
18)宋龍平,渡辺範雄:精神疾患と身体疾患との関連が示唆される疫学的問題.精神医学 60:596-601, 2018
19)寺嶋正啓,伊東新太郎:長期入院・重度精神障害者の地域生活支援の実践報告.精神科オキュペイショナルセラピー 33:26-39, 2016
20)内野俊郎,前田正治,原口健三:「精神分裂病」とスティグマ 本邦における心理教育の臨床的課題.臨床精神医学 32:677-688, 2003
21)湯本洋介,新里和弘,斎藤正彦:精神科救急における高齢者 措置入院の運用と患者の臨床特性.老年精神医学雑誌 23:1316-1322, 2012
22)Van Assche L, Morrens M, Luyten P, et al:The neuropsychology and neurobiology of late-onset schizophrenia and very-late-onset schizophrenia-like psychosis:A critical review. Neurosci Biobehav Rev 83:604-621, 2017

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?