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特集 精神疾患における病識・疾病認識—治療における意義
文献概要
抄録 精神疾患の病識が議論される最大の理由は,病識の有無が疾患の治療や経過,予後に大きく影響するからである。しかし根本的治療薬のない認知症では,病識が保たれるからといって認知症が治るわけではなく,認知症に対する病識は他の精神疾患とは異なる視点で考える必要がある。初期の認知症患者の多くは,自身の変化に気づきながらも明確な病識は形成されず,将来に対する不安に苛まれながら暮らしている。病識が形成されない要因の一つとして,認知症である自分,認知症になりつつある自分を受容できないことがあげられる。認知症に対する根強い偏見がある本邦では,患者本人が認知症を受け入れるには高いハードルがある。しかし患者が人生の最後を自分らしく生きるためには,どこかで認知症と折り合いをつけていくことが必要であり,そこには精神科医である我々のサポートが重要となる。
参考文献
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