精神医学61巻3号

2019年03月発行

短報

語新作ジャルゴンを呈した亜急性脳炎の1例—失語症と統合失調症における言語新作の比較

著者： 高橋卓巳¹ 加藤温¹²

所属機関： ¹国立国際医療研究センター精神科 ²国立国際医療研究センター総合診療科

ページ範囲：P.331 - P.337

抄録　57歳女性，右利き。アルコール依存症の既往あり。入院2か月前から解読不能なメールを送るようになり，低体温，意識障害で倒れているところを発見され入院となった。入院後，発話に語新作ジャルゴンがみられた。頭部MRIで辺縁系含む左側頭葉に脳炎像を認め，単純ヘルペス脳炎が疑われたが，生活歴などは不明であり，発症から初診まで数か月が経過していた可能性が考えられた。本症例は亜急性脳炎により語新作ジャルゴンを呈したと考えられたが，統合失調症における言語新作とは明らかな差異が認められた。また，失語症状は発話より書字で顕著になる可能性があり，問診のみでなく書字による評価も障害の把握に有用と考えられた。

参考文献

1)AI-Qahtani M, Khan SA, Kabiraj M, et al：Non-convulsive status epilepticus presenting with Wernicke's aphasia. Neurosciences 14：284-286, 2009

2)Chung PW, Seo DW, Kwon JC, et al：Nonconvulsive status epilepticus presenting as a subacute progressive aphasia. Seizure 11：449-454, 2002

3)Gerson SN, Benson F, Frazier SH：Diagnosis：schizophrenia versus posterior aphasia. Am J Psychiatry 134：966-969, 1977

4)波多野和夫，浜中淑彦，大東祥孝，他：ジャルゴン失語について—語新作ジャルゴン失語の5例．精神医学 26：701-710, 1984

5)波多野和夫，浅野紀美子，藤村亜紀，他：ジャルゴン失語の長期経過について—5年間の経過観察例の報告．精神医学 31：709-716, 1989

6)船山道隆，小嶋知幸，稲葉貴恵，他：伝導失語に収束した新造語ジャルゴンの1例．高次脳機能研究 30：467-477, 2010

7)船山道隆，加藤元一郎，田渕肇：失語で発症し，ほぼ完全に回復した非ヘルペス性亜急性脳炎の1例．BRAIN NERVE 59：983-989, 2007

8)井堀奈美：書字行動の異常を呈した2症例．コミュニケーション障害学 21：113-117, 2004

9)鹿島晴雄，種村純：よくわかる失語症と高次脳機能障害．永井書店，pp57-60, 2003

10)古茶大樹，鹿島晴雄：統合失調症の思考と言語 言語新作．Schizophrenia Frontier 11：195-200, 2010

11)古賀良彦：精神分裂病の言語：その障害へのアプローチ．聴覚言語学研究 10：86-93, 1993

12)倉持裕子，長谷川啓子，山本弘美，他：Wernicke野病変による読字・書字障害の検討．失語症研究 16：188-196, 1996

13)Moriyama N, Nakao H：Schizophrenic neologism versus aphasic neologism：characteristics in writings of Japanese schizophrenic patients. Jpn J Psychiatry Neurol 43：137-142, 1989

14)日本神経感染症学会，日本神経学会，日本神経治療学会監修：単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017．南江堂，2017

15)大平健：分裂病vs失語症 言語症状の構造．海鳴社，1983

16)Oyanguren B, Sanchez V, Gonzalez FJ, et al：Limbic encephalitis：a clinical-radiological comparison between herpetic and autoimmune etiologies. Eur J of Neurol 20：1566-1570, 2013

17)立石雅子：老年精神医学と神経心理学 言語障害．老年精神医学雑誌 23：483-489, 2012

18)矢野のり子：ジャルゴンタイプの言語発達．児童青年精神医学とその近接領域 47：440-451, 2006