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特集 統合失調症の治療ゴールをめぐって
自助と自治支援の視点から—病いの語りがもつ力の効用に着目して
著者: 栄セツコ1
所属機関: 1桃山学院大学社会学部
ページ範囲:P.423 - P.431
文献購入ページに移動抄録 本稿では,「統合失調症」の治療ゴールを「統合失調症の患者」と呼称されてきた人々のごく当たり前の生活を目指す「リカバリー」に置き,「統合失調症をもつ私」を主人公とした病いの物語を紡ぐ過程として,教育講演会活動の実践事例を紹介する。その事例から学んだことは,当事者が「自分こそが自分の専門家(自治)」として,「私」を主人公とする病いの物語を紡ぐ作業の必要性である。それには,病いの物語を承認する人々が不可欠であり,援助専門職には,当事者が弱さを開示した語りができる安全な場,病いの体験を仲間と分かち合える場,社会にある「援助・保護される精神障害者の物語」を「社会に貢献できる私の物語」に書き換える場を設定する役割が求められた。今後,当事者の語りが社会変革を意図して公共性を帯びるに従い,病いの経験知をもつ当事者と科学的な根拠に基づく専門知をもつ専門職が協働しながら,病いの経験知を活用した地域づくりが望まれる。
参考文献
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