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特集 精神医学における主観と主体
主体性の精神医学—精神病理学と生物学とが重なるところ
著者: 前田貴記1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部精神神経科学教室
ページ範囲:P.507 - P.515
文献購入ページに移動抄録 主体性には,生物学的な次元と,主体性の“自覚”という人間学的な次元とがあるが,精神医学においては,前者は生物学によって,後者は精神病理学によって扱うことになり,ここに両方法論の連繋の可能性がある。本稿では,主体性という観点から各精神疾患の症状論,病態論,治療回復論について論考していくための,下作りとしての総論を述べる。主体性は,精神医学にとどまらず,およそ人間の営みを扱うあらゆる学問領域において問題となり得るもので,特に,現代に生きる我々は,情報通信技術の発展によって,いわば“繋がり過ぎ”の人工環境の中で生きているが,主体性の弱化が生じている可能性がある。このような新たな人工環境において,人間が安心して,健康に,そして幸福に生きられるように,精神医学の立場から,主体性のありよう,そしてあるべきようについて考え,社会に対して提言していくことが求められてくるであろう。これは予防精神医学の試みとなろう。主体性という主題が,今後の精神医学の進展のための,一つの切り口となればと思う。
参考文献
1)土居健郎:表と裏.弘文堂,1985
2)小此木啓吾:「ケータイ・ネット人間」の精神分析.飛鳥新社,2000
3)前田貴記:主体性の精神病理学—“自我障害”から症状論・病態論・治療回復論について考える.精神科治療学 33:5-12, 2018
4)小林敏明:〈主体〉のゆくえ—日本近代思想史への一視角.講談社選書メチエ,2010
5)ユクスキュル/クリサート:生物から見た世界.岩波文庫,2005
6)今西錦司:生物の世界ほか.中公クラッシックス,2002
7)三木清:哲学入門.岩波新書,1940
8)O・S・ウォーコップ:ものの考え方.講談社学術文庫,1984
9)安永浩:精神の幾何学.岩波書店,1987
10)島崎敏樹:精神分裂病における人格の自律性の意識の障碍.人格の病.みすず書房,1976
11)島崎敏樹:人格の病.人格の病.みすず書房,1976
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