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特集 今再び問う,内因性精神疾患と心因性精神疾患の概念
特集にあたって
著者: 井上猛1
所属機関: 1東京医科大学精神医学分野
ページ範囲:P.739 - P.739
文献購入ページに移動 1980年に発表されたDSM-Ⅲはわが国の精神科臨床に徐々に導入された。その過程で,わが国の精神科診断学はゆるやかに変化していった。1980年代には,主としてドイツ精神医学に基づく伝統的精神医学がわが国の精神科診断の主流であったが,40年の間に米国精神医学(DSM)が精神科診断の主流となった。2019年に改訂されるICD-11もその基本的な考え方はDSMとほぼ同じである。このような変化の中で,外因性-内因性-心因性という精神科診断の階層原則は脱構築され,外因性-その他というような診断構造となってきた。個々の疾患のDSM診断基準を『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引』で読んだだけではDSMが階層原則を考慮しているのかどうかは分かりづらいが,たとえば『DSM-5鑑別診断ハンドブック』の「抑うつ気分の鑑別診断のための判定系統樹」を読むと,まず,器質的な気分障害を疑い,双極性障害を疑い,ついで大うつ病,適応障害を順に疑っていくことが薦められており,実はDSMも階層原則を考慮していることが分かる。このように,内因性精神疾患と心因性精神疾患の診断概念は決して否定されたわけではなく,単に棚上げされただけであることが分かる。一方,40年前には心因性精神疾患としてみなされていたパニック症,強迫症などの神経症が本当に心因性と言えるのかという疑問も出てきた。このように,DSM以前の精神科診断学をもう一度考え直して,DSMやICDとの整合性を考えるべき時期が来ていると思われる。特に心因の問題は実際の臨床では見立てや治療に大きく影響するため,実臨床では無視することはできない。本特集では,この分野の第一人者達に内因性-心因性の問題を再び論じていただき,DSM登場以前には精神科診断の根幹であった内因性-心因性の精神科診断概念についてもう一度整理し直したい。DSMやICDとともに診断学をどのように構築するべきかを考える契機に本特集がなることを願っている。
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