精神医学61巻7号

2019年07月発行

特集 今再び問う，内因性精神疾患と心因性精神疾患の概念

内因性概念と心因性概念の歴史と現状—歴史から学ぶこと

著者： 橘川清人¹

所属機関： ¹きっかわクリニック

ページ範囲：P.741 - P.748

文献概要

抄録　内因性-心因性の概念は，歴史的にはJaspers-Schneiderの古典的精神病理学によって両者が峻別されることから始まった。そこでは内因性/心因性は，すなわち未だ身体に基礎付けられない疾患/経験的出来事への反応であり，方法論的には説明/了解の対象である。その後の精神病理学はこの二分法と心身二元論をいかに乗り越えるかの格闘の歴史であった。チュービンゲン学派の多次元診断，多くの発病状況論などを経て，うつ病に関してはTellenbachの，統合失調症を含めた内因性精神病については木村敏の，二元論を越える積極的な「内因」概念に結実する。経験論的次元と超越論的次元の「あいだ」の「ねじれ」が病因論的次元として見出されることで，なぜ「内因」が未だに実体論的に解明されないのかが理解される。

参考文献

1)塚本正明：生きられる歴史的世界—ディルタイ哲学のヴィジョン．法政大学出版局，2008

2)Jaspers K：Allgemeine Psychopathologie. Springer, Berlin, 1913(西丸四方訳：精神病理学原論．みすず書房，1971)

3)Schneider K：Klinische Psychopathologie. Thieme, Stuttgart, 1962(平井静也，鹿子木敏範訳：臨床精神病理学．文光堂，1972)

4)Kretschmer E：Der Sensitive Beziehungswahn. 4. Aufl. Springer, Berlin, 1966(切替辰哉訳：新敏感関係妄想．星和書店，1979)

5)Kretschmer E：Psychiatrische Schriften 1914-1962. Springer, Berlin, 1974(湯沢千尋訳：精神医学論集—1914-1962．みすず書房，1991)

6)Engel GL：The need for a new medical model；a challenge for bio-medicine. Science 196：129-136, 1977

7)Zubin J, Spring B：Vulnerability-a new view of schizophrenia. J Abnorm Psychol 86：103-126, 1977

8)Jäger M：Konzepte der Psychopathologie. Thieme, Stuttgart, 2015(木谷知一訳：基礎としての精神病理学—ヤスパースから21世紀の新しい潮流まで．星和書店，2019)

9)Kretschmer E：Gestalt und Gedanke. Thieme, Stuttgart, 1965(福屋武人・深見茂訳：形成と思考—ある精神医学者の歩んだ道．医事公論社，1975)

10)Baeyer Wv：Wähnen und Wahn. Thieme, Stuttgart, 1979(大橋正和・迎豊訳：妄想の現象学．金剛出版，1994)

11)Tellenbach H：Melancholie. 4. Aufl. Springer, Berlin, 1983(木村敏訳：メランコリー改訂増補版．みすず書房，1985)

12)木村敏：内因性精神病の人間学的理解—「内因性」の概念をめぐって．精神医学 21：573-583, 1979

13)木村敏：心の病理を考える．岩波書店，1994

14)Weizsäcker Vv：Der Gestaltkreis. 4. Aufl. Thieme, Stuttgart, 1950(木村敏，濱中淑彦訳：ゲシュタルトクライス—知覚と運動の一元論．みすず書房，1975)

15)木村敏：生命のかたち/かたちの生命 第3版．青土社，2005

16)大澤真幸：社会システムの生成．弘文堂，2015