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雑誌目次

雑誌文献

精神医学62巻3号

2020年03月発行

雑誌目次

特集 精神医学・医療の未来を拓く人材育成

特集にあたって

著者: 福田正人

ページ範囲:P.239 - P.239

 精神医学と精神医療の未来を拓くのは,若い世代の精神科医です。そうした人材育成の基本が,先輩の後ろ姿からの学びであることは昔も今も変わりません。しかし,精神医学と精神医療の急速な発展により,そうした伝統的な「徒弟制度」だけでは対応しきれない面が出てきています。
 専門分野の分化が進み,精神科医の活躍の場が広がることで,学び身につけるべき知識や技術と求められる経験が膨大となり,脳科学などの自然科学や障害学などの社会科学との連携が求められるようになってきているからです。

これからの時代の「一般精神科医」の育成

著者: 北野絵莉子 ,   和迩健太 ,   原正吾 ,   吉村優作 ,   鷲田健二 ,   青木省三

ページ範囲:P.241 - P.249

抄録 時代の移り変わりとともに,疾患概念や治療方法は変化を遂げている。精神科医を志す医師への教育のあり方もまた過渡期にあると考えられる。本稿では,まずは先輩の姿を見て,患者の話に耳を傾け,症状を把握し診断や治療・支援を行うことを身につけるという普遍的な学び方について記した。次いで,非典型・非定型な病像と経過をどう考えるか,そしてその際は,その症状を反応性と捉え直すことや,患者の生活背景や歴史などに目を向けること,などを記した。最後に,これからの精神科医は診察室の中で患者を診るだけでなく,生活の場での患者を診ることも求められているという,筆者らの考えを記した。

児童青年期精神医学の人材育成

著者: 飯田順三

ページ範囲:P.251 - P.257

抄録 日本の児童精神科医療では児童精神科医が不足しているために社会的ニーズに応えられていない。その不足を解消するためには,大学における児童精神医学講座の設置や児童精神科医としての職場の確保が必要であることを指摘した。またその職場の確保のためには,一般精神科病院における児童精神科の設置が重要であり,そのためには保険点数の改善などによる経済的措置が必要である。さらに国民が安心して信頼できる専門医となることが重要であり,そのために日本専門医機構におけるサブスペシャルティとなることが喫緊の課題である。そして専門医制度の下に標準的な児童精神科医療を提供できる児童精神科医を養成することが社会のニーズに応えることになると思われる。

老年精神医学の人材育成

著者: 池田学

ページ範囲:P.259 - P.266

抄録 人口の高齢化と独居高齢者の急増により,わが国の精神保健や医療にかかわるすべての専門職が,高齢者のメンタルヘルスに深い関心を持ち,関与することが求められている。専門医数の増加と専門医ならびに研修施設の地域偏在の解消は喫緊の課題である。大学病院を含む基幹型臨床研修病院の精神科には老年精神医学の専門医・指導医が少なくとも一人は人材育成に参画すべきであるし,そのような専門医を育成していくことが日本老年精神医学会に課せられた大きな責務であろう。日本老年精神医学会では次年度から,一般精神科医あるいは日本精神神経学会の認知症診療医と学会の専門医を繋ぐ資格として学会認定医制度を立ち上げる予定である。

司法精神医療の人材育成

著者: 五十嵐禎人

ページ範囲:P.267 - P.275

抄録 司法精神医学は法と精神医療の学際領域を対象とする学問であるが,人材育成という観点からは,刑事責任能力鑑定や医療観察法による司法精神医療を担う人材の育成が中心的な課題となる。司法精神医学の専門性について,診断にあたる刑事責任能力鑑定と治療にあたる司法精神医療にわけて論じた。司法精神医学がサブスペシャリティとして認定されている英国,米国の研修・教育・専門医認定制度を紹介し,わが国における司法精神医学の研修・教育・専門医認定制度の現状と課題について論じた。

総合病院精神医学の人材育成

著者: 明智龍男

ページ範囲:P.277 - P.282

抄録 総合病院には児童から高齢者まですべての世代の人々がさまざまな疾患で入院するため,総合病院に勤務する精神科医には,あらゆる精神疾患の診断,治療の技術が求められる。救急医療の現場でみられる多彩な精神症状のマネジメント,身体疾患やその治療の結果生じる精神症状に加え,身体合併症医療,緩和ケアとしてのがん患者や家族の精神的ケア,臓器移植を受ける患者・家族の複雑な心理状態の評価やケアなどである。これら身体疾患を理解した上での精神症状のマネジメントを行う精神科医への社会のニーズはきわめて高い。また他診療科との協働が多いため,必然的に総合病院ではチーム医療の一員として機能することが求められる。他診療科の医療スタッフと良好な関係を築き患者中心の医療を提供することは,精神科診療を実践する上でも大変有用である。本稿では,総合病院で実践されている精神医療の紹介を通して,その魅力や人材育成の重要性を伝えたい。

クリニックにおける精神科医の人材育成

著者: 窪田彰

ページ範囲:P.283 - P.288

抄録 精神科クリニックにおける人材育成の実際を述べた。クリニックは教育機関ではないが,クリニックにも人材育成は重要課題である。第一には,クリニックの治療方針や理念が共有される必要がある。第二には,事例検討などを通じて互いに学び合うことが必要である。当院では,1日の終わりに全体スタッフミーティングがあり,この時に外来職員やデイケア部門や訪問看護部門の職員などとの,情報の共有と事例検討が行われている。多職種間の検討から教えられることが多い。第三には,一人で治療をしているのではなく,他職種とチームの中で働いていることを自覚する必要がある。精神科デイケアや就労支援センターや訪問看護ステーションなどの支援が役立っていることが多く,良好なチーム形成が期待されている。第四には,患者からの学びが貴重である。

サイコオンコロジー領域における人材育成

著者: 岡島美朗 ,   藤森麻衣子

ページ範囲:P.289 - P.295

抄録 日本人の2人に1人ががんに罹患する今日,がん医療に精神科医などのサイコオンコロジストが参加することが求められている。日本サイコオンコロジー学会(JPOS)がまとめた,サイコオンコロジストが備えるべき必須能力を示し,サイコオンコロジー領域で求められる医師像について概観した。そうした医師を養成するためにJPOSが主催している研修セミナーと,サイコオンコロジストに関する情報提供を目的とした登録精神腫瘍医制度を紹介した。また,サイコオンコロジストがオンコロジストと協働して行うがん治療医のためのコミュニケーション技術研修会(SHARE-CST)のファシリテーター養成について触れた。さらに,質の高い臨床研究のための人材を育成するJPOS研究推進委員会の活動を紹介した。

睡眠医学とてんかん学の人材育成

著者: 千葉茂

ページ範囲:P.297 - P.305

抄録 睡眠医学は,睡眠・覚醒という生理学的意識の障害を診る医学であり,また,てんかん学は発作性に繰り返す病的意識障害を診る医学である。精神科面接で最も重要なポイントは,意識障害に気付くことであるため,精神科医は睡眠医学とてんかん学の視点を常に有していなければならない。本稿では,睡眠医学・てんかん学の精神科臨床における重要性,および,睡眠医学とてんかん学の人材育成の目標と未来について述べる。人材育成については,睡眠医学・てんかん学についての基本領域(スペシャリティ)が最も重要である。このスペシャリティにおいて脳波判読能力を培いながら睡眠医学・てんかん学の確かな臨床経験を積むことが,その後,睡眠医学・てんかん学の応用領域(サブスペシャリティ)を目指そうという動機の形成につながると考えられる。

依存症医療の人材育成

著者: 真栄里仁 ,   樋口進

ページ範囲:P.307 - P.314

抄録 依存症診療はハードルが高い印象を持たれがちであるが実際にはマニュアル化も進み,研修も多く人材育成の面では整備が進んでいる分野である。依存症はさまざまな分野に関係しており,診断基準,重複障害,心理社会的治療,自助グループ,地域連携など多岐にわたる知識やスキルが求められる。近年は研修会を通した人材育成が主流となってきており,アルコール依存症臨床医等研修,薬物依存臨床医師研修/薬物依存臨床看護師等研修,認知行動療法の手法を活用した薬物依存症に対する集団療法研修,インターネット依存症研修などの既存の研修に加え,2017年から始まった依存症対策全国センター事業関連研修でも,アルコール,薬物,ギャンブル等依存症について依存症治療指導者/相談対応指導者養成研修,地域生活支援指導者養成研修などさまざまな研修が実施されている。

精神療法家の人材育成

著者: 池田暁史

ページ範囲:P.315 - P.322

抄録 世界的にみた場合,精神科専門医となるためには少なくとも認知行動療法と力動的精神療法との2種類をスーパービジョンの下で経験することを求めている国が多数であることを考慮すると,日本の精神科専門医養成における精神療法教育の後進性は明らかである。すべての精神科専門医を精神療法の基礎的素養を身につけた精神科医として育成するためには,まずこの現状を正確に認識した上で解決策を考えなければいけない。そのためのステップとして,①院内での精神療法的事例検討会の開催,②オフィス訪問型の小グループコンサルテーション,③専門的精神療法のスーパービジョン,という3段階の教育システムを提案し,解説した。そして,これらを運用していく上での課題を,精神療法教育への関心と,指導者の確保という観点から明確化し,その解決策を検討した。これによって新専門医制度の研修項目の1つである「認知行動療法,力動的精神療法,森田療法および内観療法のいずれかの指導医の下での経験」が各研修施設で実践されていくことが期待される。

精神医学臨床研究医のキャリア形成—臨床と研究は密接不可分

著者: 大森哲郎

ページ範囲:P.323 - P.328

抄録 教科書や診断マニュアルや治療ガイドラインは,これまでの研究成果と臨床知見の集積に基づいて作成され,臨床現場での検証と新たな研究所見を加えて改訂されていく。また,私たちの診療は,仮説的理解である見立てのもとに,確率的および経験的に最善と判断する治療を選択しているのであり,実際のところ1例1例における厳粛なクリニカルトライアルであるとも言える。臨床と研究は密接不可分であり,臨床医は皆ある程度の研究の素養を持つことが望ましい。精神神経学会のみならず臨床諸学会が研修初期から学術活動を推奨するのはそのためである。そこを出発点として,本格的な研究を志向する若手が数多く育つことを期待したい。Michael Rutter教授が語った研究キャリアを積むための助言を紹介した。

精神科医の経験を持つ基礎研究者の人材育成

著者: 田中謙二

ページ範囲:P.329 - P.332

抄録 精神科医の経験を持つ基礎研究者をどのように育成するのか。あらゆる医学部,医科大学において,臨床経験を持つ基礎研究者をどうやって育成するのか必死で大学執行部が考えている。つまり,これは精神科に限った命題ではない。本稿では4名の40代の基礎医学研究者のケースを報告し,そこに筆者の考えを添えた。基礎研究者に求められる独自性は母校をキャリアの早期に離れることで生まれるだろうという指摘,2年間の初期研修による影響が基礎研究者人材育成に影響を及ぼすかどうか知るにはもう少し経過観察が必要であろうという指摘,甘やかす人材育成プログラムは人材育成に役立たないという指摘が筆者から読者へのメッセージである。これらのメッセージは我々凡人には良く適合するだろう。一方で,英才は英才教育によって育つ事実も指摘しておく。

研究と報告

双極性障害を対象とした短期集団心理教育プログラム開発の試み—服薬アドヒアランスの向上を目指した取り組み

著者: 岡崎智行 ,   中津啓吾

ページ範囲:P.333 - P.342

抄録 近年,双極性障害患者に対する心理教育の有効性は注目されているが,本邦において集団に対する介入の有効性について十分な効果検証がなされているとは言い難い。そこで,我々は全6回のセッションからなる集団心理教育プログラムを開発した。入院中および外来患者に対して臨床導入を試み,患者の服薬アドヒアランスへの影響について調査した。その結果,本プログラムは服薬アドヒアランスの改善に寄与する可能性が示唆された。今後,長期的な再発予防効果や長期予後の改善を目指した,より有用なプログラムを開発するためにはさらなる研究が必要である。

短報

Lithium carbonate内服による急性リチウム中毒で舌痛を伴う味覚障害が生じた1例

著者: 羽生将太 ,   杉田尚子 ,   藤原広臨 ,   川合千裕 ,   松田美由紀 ,   村井俊哉

ページ範囲:P.343 - P.347

抄録 Lithium carbonateは双極性障害において抑うつ症状と躁症状の両方に効果的であり,双極性障害における第一選択の治療薬であり続けてきた。代表的な副作用としては手足の振戦や腎機能低下,甲状腺機能低下などがある。今回,双極性障害でlithium carbonate内服中の50代女性において急性リチウム中毒の症状として舌痛を伴った味覚障害が生じた症例を経験したので報告する。急性リチウム中毒の症状として舌痛を伴った味覚障害が生じた症例報告は今回が初である。本症例では舌痛・味覚障害のために食欲不振になりQOLが著しく低下した。そのためlithium carbonate内服患者が舌痛・味覚障害を訴えている場合は急性リチウム中毒の症状である可能性も考慮した上で治療にあたらなければならない。

動き

第25回World Congress of the International College of Psychosomatic Medicine印象記

著者: 鈴木洋平 ,   加藤敏

ページ範囲:P.349 - P.351

 第25回World Congress of the International College of Psychosomatic Medicineは,イタリアのフィレンツェにて,2019年9月11日〜13日の3日間にわたり開催された。開催会場はカレッギ大学病院内の講堂およびカンファレンスセンターで,テーマは“The Psychosomatic Perspective”であった。計37か国から500名余りの参加があり,開催国のイタリアを中心とした欧米各国に加え,中国・日本からの参加者が多かった。精神科医・心療内科医のみならず心理職・研究職の参加者が多い印象であった。当然のことながら,従事している職種に限らず心身相関に関心を抱いている点が共通点であったと言えよう。

書評

—Erin Zerbo, Alan Schlechter, Seema Desai, Petros Levounis 著 貝谷久宣 監訳,和楽会グループ 訳—マインドフルネス精神医学—マインドフルネスに生きるメソッド

著者: 大野裕

ページ範囲:P.352 - P.352

 本書『マインドフルネス精神医学』は,米国精神医学会の出版局から出版されているだけあって,精神医学領域におけるマインドフルネスの活用の可能性について,臨床的な視点から分かりやすく解説されている。マインドフルネスの基本的概念や実践方法はもちろんのこと,脳科学的な裏付け,そしてさまざまな精神疾患に対するアプローチや課題に加えて,悩みを抱えることの多い青少年に対するマインドフルネスの効用,マインドフルネスとポジティブ感情の関係,現代のテクノロジーをマインドフルに使うコツなど,その内容は広範囲にわたっていて,読み進むうちに,「これは臨床で使える」と思えるヒントに次々と出会う。
 マインドフルネスは“いま”に目を向けられるようにするアプローチだということは,よく知られている。その基本的な姿勢は,本書でも紹介されているRAIN(Recognize気付き,Accept受容/許容,Investigate調べる,Nonjudgement評価しない,)である。それが治療的意味を持つのは,悩みを抱えて受診する人たちが,何らかの理由で,“いま”に目を向けられなくなっているからである。

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目次

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次号予告

ページ範囲:P.354 - P.354

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.355 - P.355

読者アンケート

ページ範囲:P.356 - P.356

奥付

ページ範囲:P.360 - P.360

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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