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文献詳細

雑誌文献

精神医学62巻6号

2020年06月発行

特集 精神科診断分類の背景にある考え方

KahlbaumとKraepelin—二人の疾患単位探求者

著者: 渡辺哲夫1

所属機関: 1南嶺会勝連病院

ページ範囲:P.805 - P.811

文献概要

抄録 精神医学が自身の領域内で疾患単位を確立するのは,永遠に到達できない目標を追求することであり,「疾患単位の概念」はKantが言った意味での「理念」だとJaspersは指摘した。だが,KahlbaumとKraepelinの疾患単位追求の努力は不毛な幻影を追っただけではなかった。「破瓜病,緊張病,循環病,類破瓜病,…」などの発見と命名は精神医学の進歩の原動力となった。しかし,古来の単一精神病論になお親和的であったKahlbaumと遥かに強く疾患単位論に親和的であったKraepelinの差異は無視できない。二人の巨人の創造性によって賦活された精神医学は,この基本的な2つの論(二つの理念追求)のあいだで振り子運動を続ける「症状群論」の孜々とした歩みとなった。とりわけ,多様な症状群が経過の中で層次構造を構成しつつ展開するという思索は多くの第一級の臨床家によって反復されてきた。Kraepelin自身も晩年にはここに歩みを進めた。そして近年の精神薬理学の傾向やスペクトラム概念重視の傾向は,疾患単位論が,症状群論を介して単一精神病論へと回帰してゆく歩みの最中にあることを教示している。

参考文献

1)高野良英:クレペリンと早発性痴呆論.分裂病の精神病理13.東京大学出版会,pp131-185,1984
2)カールバウムKL著,渡辺哲夫訳:緊張病.星和書店,1979
3)ヘッカーE著,渡辺哲夫訳:破瓜病.星和書店,pp1-64, 1978
4)ヤスパースK著,西丸四方訳:精神病理学原論.みすず書房,pp309-318, 1971
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6)内村祐之:精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望.医学書院,pp99-118, 1972
7)内村祐之:精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望.医学書院,pp55-59, 1972
8)Bonhoeffer K:Die exogenen Reaktionstypen. Arch Psychiat Nervenkr Bd 58:58-70, 1917
9)コンラートK著,山口直彦,安克昌,中井久夫訳:分裂病のはじまり.岩崎学術出版社,1994
10)エーH著,大橋博司訳:意識Ⅰ・Ⅱ.みすず書房,1969, 1971
11)シュナイダーK著,平井静也,鹿子木敏範訳:臨床精神病理学.文光堂,1957
12)クレッチュマーE著,相場均訳:体格と性格.文光堂,1968
13)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Fourth ed. Text Revision(DSM-Ⅳ-TR). American Psychiatric Publishing, Washington D.C., 2000(髙橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳:DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版.医学書院,2002)
14)World Health Organization:The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders:Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. Geneva, 1992(融道男,中根允文,小見山実他監訳:ICD-10精神および行動の障害—臨床記述と診断ガイドライン 新訂版.医学書院,2005)
15)レオンハルトK著,福田哲雄,岩波明,林拓二監訳:内因性精神病の分類.医学書院,pp51-67,2002
16)渡辺哲夫:創造の星—天才の人類史.講談社,2018

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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