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雑誌目次

論文

精神医学63巻1号

2021年01月発行

雑誌目次

特集 新型コロナウイルス感染症ただなかの精神医療

特集にあたって

著者: 福田正人

ページ範囲:P.3 - P.3

 新型コロナウイルス感染症の流行は,世界史の年表に残る出来事となるでしょう。本特集「新型コロナウイルス感染症ただなかの精神医療」を企画したのは,緊急事態宣言下の4月の編集委員会でした。執筆に取組んでいただいたのは第二波となった夏の期間で,序文を書いている年末の今は,第三波の渦中にあります。
 特集の依頼にあたり,「東日本大震災の時がそうであったように,完成したまとめとしてではなく,現在進行形の体験談や実践記録や今後への希望についての,貴重な記録となることを願っている」とお書きしました。そうお願いした通りの原稿を,お寄せいただくことができました。

精神保健医療における新型コロナウイルス感染症に係る国の取り組み

著者: 寺原朋裕

ページ範囲:P.5 - P.13

抄録 新型コロナウイルス感染症の拡大および行動制限の要請などにより,感染に対する不安や行動変容に伴うストレスなど新型コロナウイルス感染症がメンタルヘルスに及ぼす影響はわが国においても大きな問題となっている。
 メンタルヘルス・ファーストエイドによる精神疾患の予防や早期介入を含め,地域全体での心のケアへの重層的な連携支援体制を推進するにあたり,「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築がよりいっそう求められている。
 また,社会や一人ひとりの生活に必要不可欠な「現場」においては,人と直に接するために感染リスクが高まる。精神科医療機関においても全国各地でクラスターが発生しており,院内感染対策の強化も喫緊の課題である。
 厚生労働省では,心のケア支援の強化などに取り組んでいる他,心理面への影響状況含めたさまざまな実態調査を実施している。精神保健医療従事者向けの応急処置介入ガイドライン,精神科医療機関における感染症の予防と発生時の対応策,および医療従事者への心理的サポートに関する方策案などを今年度中に示す予定である。

総合病院精神科における新型コロナウイルス感染症への取り組み

著者: 高橋晶

ページ範囲:P.15 - P.26

抄録 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応している総合病院では,せん妄,不安,抑うつなどの患者の精神症状への対応,医療スタッフのメンタルヘルスの支援など,重要な役割がある。そこで活動する精神医療スタッフはこの役割を担い,日々,格闘している。決して多人数は配置されていないが,コンサルテーション・リエゾン精神医学を通じて,チームでこの危機に直面し,対応している。実際に行われた対応を通して,感染症蔓延時の総合病院精神科におけるCOVID-19への取り組みを紹介し,長期化する局面において行う精神医療を提示した。

自治体病院における新型コロナウイルス感染症への取り組み

著者: 北村立

ページ範囲:P.27 - P.35

抄録 全国自治体病院協議会精神科特別部会でのアンケート結果と石川県における取り組みを示し,新型コロナウイルス感染症に対する精神医療のあり方について意見を述べた。2020年6月時点で自治体立精神科病院40病院のうち19病院がPCR陽性患者専用病床を準備していたが,入院があったのは4病院のみだった。精神疾患を持つ人でも感染症病床へ入院し,精神科医がリエゾン対応することを基本とし,精神科診断名に影響されぬよう,入院連絡調整本部に精神科医が参加すること,精神症状が顕著な場合は,自治体のリーダーシップのもと,総合病院精神科と精神科病院が役割分担して対応することが重要である。また未知の新興感染症に備え,感染症にも対応できる精神科病床の整備が次期医療計画の課題である。精神科病院においては,この禍を教訓として,スタンダードプリコーションの徹底など,日頃から院内感染防止対策に万全を期すべきである。

大学病院における新型コロナウイルス感染症への取り組み

著者: 森田健太郎 ,   近藤伸介

ページ範囲:P.37 - P.45

抄録 当院は新型コロナウイルス感染症患者が全国で最多の東京都心に位置する大学病院である。新型コロナウイルス感染症の流行が社会生活に様々な変化をもたらす中で,大学病院における診療・教育・研究をいかに安全に営むかを現場で考え,試行錯誤してきた。本稿では当院でのこれまでの実践を取りまとめ,ポストコロナ時代に向けての反省と発展の材料としたい。

精神科病院における新型コロナウイルス感染症への取り組み—日本精神科病院協会での動きと会員病院の状況と対策について

著者: 野木渡 ,   櫻木章司 ,   馬屋原健

ページ範囲:P.47 - P.59

抄録 新型コロナウイルス感染症はわが国の医療提供体制における多くの課題を明らかにした。そして精神科病院も例外なく大きな影響を受けている。精神疾患を持つ人が安心して自分らしく暮らせる社会の構築に向け,地域医療構想を含め体制の再検討と強化が求められている。本稿では民間精神科病院における新型コロナウイルス感染症への取り組みを日本精神科病院協会というマクロの視点からメゾレベルに位置する各都道府県にある支部,そしてミクロレベルとして会員病院の状況,被った影響,対策について記した。

クリニックにおける新型コロナウイルス感染症への取り組み

著者: 三木和平

ページ範囲:P.61 - P.71

抄録 新型コロナウイルス感染症は,国民生活にさまざまな面で大きな影響を及ぼしている。精神科クリニックも例外ではなく,特にデイケア実施機関では大きな影響を認めている。外出自粛や受診抑制,新しい生活様式などにより受診形態も変化を認めている。電話など情報通信機器による精神療法も臨時的に認められ,増加している。テレワークやオンライン授業の推進などもあり,在宅で過ごす時間が増え,在宅ストレスを認めるものも多くなった。いわゆるコロナうつやコロナストレスを認めるものもあるが,多くは自律神経失調症レベルであり,生活面での指導が重要で,薬物療法が必要になるケースは少ない。ポストコロナ時代の精神科クリニックの在り方に関して検討を行った。

私という当事者にとっての新型コロナウイルス感染症の時代

著者: 宇田川健

ページ範囲:P.73 - P.82

抄録 コンボの集めた2種類のメッセージから多くの当事者の体験の言葉を視覚化する。私の経験と体験の文脈・ナラティブから,当事者の視点から見た新型コロナウイルスの時代の精神病的体験や,今回の新型コロナウイルスでの私のこころ,行動の変化,病状の変化などを語る。また2020年の4月から入院を体験した時の印象や病院内での病的経験を語る。また,リモートでのリカバリー全国フォーラムで起きた事柄からリカバリーについて考える。

家族にとっての新型コロナウイルス感染症

著者: 本條義和

ページ範囲:P.83 - P.90

抄録 新型コロナウイルスの感染拡大は今も続いている。当初日本でも感染拡大の防御に最大の力が注がれた。それは当然であり,やむを得ないことであった。しかし,予想はされていたとはいえ,経済不況も深刻化している。精神に疾患のある人とその家族は感染拡大と深刻な経済不況から来る将来に対する大きな不安に苛まれている。
 その不安を払しょくするためには,適切な情報提供と,丁寧な説明が必要である。不安が未知なものを対象としているなら,なおさらである。本人を含む家族全員に対する支援が今こそ求められている。
 また,本人・家族はもとより,すべての人が精神障害者問題を他人事にせずに自分のことのように考えることも必要である。

精神障害のある人の地域生活支援と新型コロナウイルス感染症

著者: 増田一世

ページ範囲:P.91 - P.101

抄録 今回の新型コロナウイルス感染拡大にどう対応していくのか,誰もが正しい答えを持ち合わせていなかった。精神障害のある人を地域で支える障害福祉事業所も同様だった。本稿では精神障害のある人への福祉的な地域支援活動の概要を説明し,さいたま市で活動するやどかりの里を例に新型コロナウイルス感染拡大時の感染防止のための具体的な取り組み,精神障害のある人や職員,事業所がどのような影響を受けてきたのかを報告する。また,全国の障害福祉事業所に対する影響調査の結果なども参考にしながら,見えてきた課題を整理する。感染拡大防止を意識する余り,視野が狭くなり,目の前のことに終始しがちである。そうした状況であることを自覚しながら,感染拡大の中でも精神障害のある人を地域で支える活動の中で,大切にすべきことを考えたい。

精神保健福祉センターにおける新型コロナウイルス感染症への取り組み

著者: 藤城聡 ,   辻本哲士

ページ範囲:P.103 - P.112

抄録 新型コロナウイルス感染拡大によるメンタルヘルスへの影響は,自然災害として従来の災害時と共通する部分も多いものの,異なっている点も少なくない。そのため,従来の災害精神保健の基本を踏まえつつも,現状に即した新しい工夫も必要となっている。全国の精神保健福祉センターはそれぞれの地域の実情に応じた形で,メンタルヘルス対策を展開している。今回の感染拡大では,感染リスクの回避のため,遠隔的支援を余儀なくされている。また,一般住民および障害者,高齢者などの従来の災害弱者を対象とした対策を行う必要がある一方で,COVID-19罹患者,医療従事者などの今回に特有のハイリスク集団は,差別・偏見によりさらにリスクが押し上げられており,それぞれの集団のニーズに応じた多彩な対策が必要である。また,感染拡大は精神保健福祉センターの業務自体にも甚大な影響を与えており,全国精神保健福祉センター長会の調査をもとに,その影響についても紹介する。

新型コロナウイルス感染症と児童青年のメンタルヘルス

著者: 小平雅基

ページ範囲:P.113 - P.123

抄録 日本児童青年精神医学会の災害対策委員会では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行にあたり,その対応を担うこととなった。本稿ではまずCOVID-19が顕在化してからの子どもを取り巻く環境の推移について整理し,さらに今回委員会が実施した活動内容についての説明を行った。その上で,COVID-19が子どものメンタルヘルスに及ぼす影響や注意すべき子どもの諸問題についての考察を行っている。基本的にはCOVID-19による子どものメンタルヘルスへの影響はさまざまで,“コロナによって〇〇が起きる”といったような安易な概念化は避けるべきであろうと考えているが,一方で高齢者や妊婦あるいは障害を抱える人々,貧困に直面する家庭や逆境体験の重なっている家庭など,社会的な脆弱さが重なるほどに強くネガティブな影響を受けているとも思われる。

新型コロナウイルス感染症の治療スタッフのメンタルヘルス

著者: 高橋晶

ページ範囲:P.125 - P.139

抄録 世界的な問題となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は日本でも色濃くなっている。長期化する対応の中で,国民のストレスは日々高く,慢性化している。
 COVID-19対応の医療機関である病院では,COVID-19の治療に専念している治療スタッフは極度の強いストレスの中で対応している。関連する多くのスタッフの肉体的・精神的負担は大きく,蓄積しており,メンタルヘルスの悪化も叫ばれている。
 感染症に伴うスティグマ,セルフスティグマ,誹謗中傷,行動免疫,良心の呵責,支援者支援などが,支援・対応する上でキーワードになると考える。災害の構造で考えると,医療者は被災者と支援者の両方の役割を持つ職種であると考えられ,高いストレスを抱えることがあり,さまざまな倫理的な問題に挟まれ,苦悩することもよくみられる。管理者が支援者支援を理解し職員を守るラインケア,そして,各職員も自分を守るセルフケアが重要である。医療面,経済面などトータルで対応の不安を減弱する戦略的な支援が必要である。

短報

身体合併症を有する治療抵抗性統合失調症に対して電気けいれん療法の併用によりクロザピン導入に至った1例

著者: 森並次朗 ,   本田和揮 ,   朴秀賢 ,   竹林実

ページ範囲:P.141 - P.144

抄録 治療抵抗性統合失調症(treatment-resistant schizophrenia:TRS)の国内外の治療ガイドラインでは,クロザピン(CLZ)の効果が不十分な場合に修正型電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy:ECT)を導入することが推奨されている。しかし,精神症状のためCLZの導入が困難な場合もあり,身体疾患を合併している場合もCLZ導入がためらわれる。今回,糖尿病を有し,被害妄想による強い拒薬のため糖尿病の悪化を呈したTRSに対し,早期にECTを施行して精神症状を改善させたことによりCLZ導入が可能となり,糖尿病の治療も可能となった一例を経験した。身体合併症を有する場合や精神症状のために拒薬が著しい場合には,ECT施行がCLZの円滑な導入を可能にすると考えられる。

書評

—大石智著—認知症のある人と向き合う—診察室の対話から思いを引き出すヒント

著者: 内田直樹

ページ範囲:P.140 - P.140

 2015年に旧オレンジプランから新オレンジプランにあらためられ,認知症医療介護における精神科医療の重要性が決定的となり,精神科医は認知症を専門とする診療科の医師として期待されている。しかし,精神科医の教育課程において認知症について学ぶ機会はあまり多くなかったこともあり,実は認知症診療に自信がないという精神科医も少なくないのではないかと考える。本書は,そういった医師向けに最適な一冊となっている。
 著者は認知症疾患医療センター長であり,認知症を専門とする医師として市民や医療介護職向けにさまざまな研修会を日々行っている。しかし,工夫をこらして研修会を開催しても,認知症のこと,認知症のある人の心が理解されていない現状があり,研修という方法の限界を感じていたという。そういった中,認知症を専門としない医師から「抗認知症薬は限界があるというけれど,薬を処方しないで医師は何をしたらいいでしょうか」と質問を受けた。具体的な診療方法を伝える必要があると感じ「認知症の診断とともに伝えたい言葉」をテーマに毎月の連載を開始し,この連載をまとめたのが本書であると書籍の中で語られている。

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目次

ページ範囲:P. - P.

今月の書籍

ページ範囲:P.145 - P.145

次号予告

ページ範囲:P.146 - P.146

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.147 - P.147

読者アンケート

ページ範囲:P.148 - P.148

奥付

ページ範囲:P.152 - P.152

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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