icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学63巻11号

2021年11月発行

特集 「実感と納得」に向けた病気と治療の伝え方

自殺企図(救急場面)—「苦しみ」と「自己存在」に着目したアプローチ

著者: 藤平和吉1 井上恵理子2 相澤千鶴2

所属機関: 1群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学 2群馬大学医学部附属病院精神科神経科

ページ範囲:P.1697 - P.1703

文献概要

抄録 自殺企図後の救急場面で,患者の「実感と納得」に資する援助の在り方を検討した。対応の骨子の1つ目は患者の「苦しみ」に応じることである。傾聴は苦しみを受け取る作業であり,患者は「語り」を通して,自分自身の苦しみとの関係を変えていく端緒となる。骨子の2つ目は「自己存在」の回復である。自殺企図を行う患者の多くは,自律存在・関係存在・時間存在に分類される自己存在が弱まっており,それが苦しみの背景にある。患者の価値意識を共有しながら自己存在の弱まりを確認し,それが回復するようなさまざまな工夫を考えると,患者の実感と納得に近づく道筋が見えてくる。こうした回復の過程は,統合失調症治療で提示される「リカバリー」概念にも通じるものだが,精神疾患の長期的な回復過程のみならず,自殺企図後の救急場面でも有用な発想となる。

参考文献

1)太刀川弘和:ヒトはなぜ自殺するのか.臨床精神医学 50:515-521, 2021
2)福田正人:患者から学ぶ—「専門家」がようやく学んだこと.精神療法 39:625-628, 2013
3)屋良朝彦:メルロ=ポンティとレヴィナス—他者への覚醒.東信堂,2004
4)福田正人:統合失調症の薬物療法の精神病理学的意義.石郷岡純,加藤敏編:薬物療法を精神病理学視点から考える.(精神医学の基盤1).学樹書院,pp95-103, 2015
5)伊勢田堯,小川一夫,長谷川憲一:生活臨床の基本.日本評論社,2012
6)村田久行:援助者の援助—支持的スーパービジョンの理論と実際.川島書店,2010
7)松本俊彦:総論「死にたい」の理解と対応.こころの科学 186:10-16, 2016
8)ショーン・C・シア著,松本俊彦監訳:自殺リスクの理解と対応—「死にたい」気持ちにどう向き合うか.金剛出版,2012
9)Anthony WA:Recovery from mental illness:the guiding vision of the mental health service system in the 1990s. Psychosoc Rehabil J 16:11-23, 1993
10)Slade M:本人のリカバリーの100の支え方—精神保健従事者のガイド.第2版. http:/npsy.umin.jp/kokoronokenkou/(2021年10月1日閲覧)
11)Dolgin E:The ultimate endpoint. Nat Med 18:190-193, 2012

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら